アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

NHKクロ現「オウム死刑の舞台裏」の功罪

2019年07月18日 | 天皇制とメディア

     

 「オウム真理教事件」の大量死刑執行(7月6日7人、26日6人)から1年。16日夜のNHKクローズアップ現代+のテーマは「オウム死刑の舞台裏」でした。意欲的な企画ですが、功罪相半ばしました(写真はすべて同番組から)。

 「功」は、麻原元死刑囚はじめ死刑に処せられた元死刑囚の「最期の言葉」が完全に隠ぺいされている事実とその重大性を告発したことです。

 NHK記者の情報公開請求に対して返ってきた「資料」は全面黒塗りでした。事件の当事者らが死刑の直前に、すなわち自己の生命と引き換えに、何を語ったのか。それは本人にとって重要な遺言であると同時に、事件の真相解明、その教訓化にとってもきわめて貴重な歴史的資料であることはいうまでもありません。
 それを政府(国家)が隠匿することは、元死刑囚らの人権を踏みにじるものであると同時に、事件の真相解明に対する重大な妨害です。

 それは被害者遺族の思いにも逆行するものです。
 番組で、地下鉄サリン事件で夫を失った加藤シズエさんは、元死刑囚が語る言葉が1つひとつ胸のつかえを解いていく、という趣旨のことを言っておられましたが、その通りだろうと思います。

 政府は直ちに元死刑囚らの「最期の言葉」を公開すべきです。

 「罪」は、なぜ1年前のこの時期に大量死刑執行が強行されたのかがあいまいのまま終わったことです。

 番組では「大量執行はジェノサイド(虐殺)ととられかねない」という危惧が政府部内にあったことを示しました。にもかかわらず強行されたのはなぜか。番組のタイトルが「舞台裏」となっていることからも、この解明が主題であったはずです。

 しかし、この点は明らかにされたとは言えません。というより、腰砕けの感がありました。「『平成の事件は平成のうちに』という意識は確かに幹部にはあった」という「取材メモ」が紹介され、同時に菅官房長官が「令和」のパネルをかざした映像が何度も映し出されました。それは暗に、大量死刑執行の背景に、年明け5月の改元・皇位継承があったことを示しています。しかし番組はそのことをはっきり言いませんでした。NHK上層部から現場に圧力がかかったのではないでしょうか。根拠のない想像ですが、それほど不自然な流れでした。

 オウムの大量死刑執行が、改元・皇位継承に乗じたものであったことは、当時の各社の報道ですでに明白です(昨年7月12日のブログ参照)。
 たとえば、「最も重要な要素は『改元』だった。…ある政府関係者は『皇室会議』以降、時計の針は動き始めた。平成に起きた最大の事件は平成のうちに区切りを付けるというのが命題となった」(2018年7月7日付毎日新聞)。

 クロ現を見ながら改めて考えたのは、この「平成の事件は平成のうちに」の意味です。それはたんに歴史的出来事を元号で区切るという皇国史観の問題だけでなく、改元・皇位継承によってジェノサイドへの批判を緩和・打ち消そうという思惑があった、ということでしょう。まさに最悪の天皇制政治利用と言わねばなりません。

 その政府(国家)の思惑は的中してしまいました。改元・皇位継承のお祭り騒ぎの中で、「オウム大量死刑執行」の異常さは「市民」の記憶から遠ざかっているようにみえます。
 それに手を貸したのが、改元・皇位継承報道に狂奔したメディアであり、全会一致で新天皇に「祝意」を表した国会(全政党)であったことは、歴史的汚点として銘記される必要があります。


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