米バイデン政権の意向で行われた初の日米比首脳会談(日本時間12日)で、メディアが注目していない重要な問題があります。日本がフィリピンへ原発を輸出することで合意したことです。
日米比首脳会談の共同声明には、「フィリピンのインフラ整備で協力する」とあり、その中に「フィリピンの民生用原子力の能力構築を支援する」があります(12日付京都新聞夕刊=共同)。
これだけでは何のことかよく分かりません。実は首脳同士の会談と並行して、斎藤健経産相、レモンド米商務長官、パスクアル・フィリピン貿易産業相の会談が同日ワシントンで行われました。そこでは次のことが合意されました。
「会談では、中国が影響力を強めるクリーンエネルギーでも協力が確認された。目玉は日米両国の大手企業が注力する次世代型原発の小型モジュール炉(SMR)。フィリピンへの導入に向けた調査や人材育成などを進める。
原発輸出は中ロが先行し、核不拡散の側面で懸念が大きい。フィリピンにとっても、電力の安定供給は必須だが、対立する中国への電力依存は避けたい考えだ。日米にはSMR導入が、中ロの影響力の低下につながる」(12日付朝日新聞デジタル)
日米両国の原発企業が力を入れる次世代型原発の小型モジュール炉(SMR)をフィリピンに輸出する。それは中ロに対する政治的対抗でもある、という合意です。
日本(自民党政権)は東京電力福島原発「事故」に何の反省もなく、原発再稼働をすすめていますが、自国で原発を続けるだけでなく、アメリカと一緒になってフィリピンにも輸出するというわけです。
岸田首相は米議会での演説(日本時間12日)で、「広島出身の私は、自身のキャリアを「核兵器のない世界」の実現という目標に捧げてきた」と述べましたが、それがいかに厚顔無恥なウソであるかはこの一事をとっても明らかです。
さらに留意する必要があるのは、原発の輸出はフィリピンの人民・民主化運動への敵対でもあるということです。
フィリピンはかつて、現在のマルコス大統領の父・マルコス大統領の独裁政治の下で、米ウエスチングハウス社製のバターン原発の建設が強行されました(1976年着工)。これに対し、原発に反対する各界各層の市民によって「非核フィリピン連合」が結成され(81年)、「非核バターン運動」が展開されました。
「マルコスの軍事独裁政権に立ち向かった人々にとって、バターン原発はマルコスの悪行と不正を象徴するモンスターだった」(ノーニュークス・アジアフォーラム編著『原発をとめるアジアの人びと』創史社2015年、上記の経過も同書より)のです。
原発の輸出は、核の拡散だけでなく、現地の市民運動に敵対し、「モンスター」を再来させるものです。日本の市民として絶対に容認することはできません。