朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)とアメリカの初の首脳会談を目前にして、雲行きが怪しくなっています。
アメリカ(トランプ大統領)が会談で話し合う議題の事前折衝で、朝鮮がとうてい飲めないことを持ち出そうとするなど、牽制を強めているからです。アメリカは朝鮮と会談して「朝鮮半島の非核化」について「合意」するつもりがあるのでしょうか。
朝鮮は9日拘束されていた3人のアメリカ人を「特別恩赦」で解放しました。朝米会談を成功させたいという意思の表れです。
ところがアメリカがやっていることは、会談・合意のハードルを上げることばかりです。
会談の事前交渉をしているポンペイオ国務長官(写真左の左)は3日、「北朝鮮核問題解決の原則」として、これまで「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」と言ってきたのを「永久的かつ検証可能で不可逆的な非核化」と言い換えました。「完全」を「永久的」に変えた意図はどこにあるのでしょうか。
「永久的という言葉を用いたのは、非核化の範囲に核兵器を作れる未来計画まで含まれることを意味する。米国は2005年、『6カ国協議共同声明』(9・19宣言)を作る過程で、完全かつ検証可能で不可逆的な非核化にこだわり、『すべての核兵器と現存する核計画』の放棄を主張した。米国は今回の朝米首脳会談でも『未来の核計画』の遮断を目指すものとみられる。核兵器を再び開発して製造できる技術と人材まで統制すると共に、核廃棄後、北朝鮮の平和的核利用の権利も認めないという意図もうかがえる」(8日付ハンギョレ新聞=韓国)
「6カ国共同声明」の時から、こう評されていました。
「北朝鮮が(核の)平和利用に固執するのは二つの意味があります。一つは、慢性的なエネルギー不足ですから原子力発電は彼らの念願です。もう一つは、アメリカ側の懸念の裏返しとして、北朝鮮としても完全に核施設を放棄した後、アメリカの政策の転換でまた圧力が加わった場合に、対抗の手段がなくなるという懸念がある」(李鐘元・立教大教授、「世界」2005年10月号)
結局、「6カ国共同声明」には「北朝鮮の核の平和利用の尊重」「北朝鮮の主権の尊重」が盛り込まれました(8日のブログ参照)。アメリカが今回持ち出していることは、この「6カ国共同声明」にも反するものです。
核保有超大国のアメリカが、朝鮮の「核の平和的利用」まで抑え込もうとするなど言語道断であり、朝鮮が反発するのは当然です。
朝鮮は6日、「朝鮮半島情勢が平和と和解の方向に進んでいる今、相手を意図的に刺激する行為は、せっかく用意された対話の雰囲気に冷や水を浴びせ、情勢を原点に戻そうとする危険な試みとしか思えない」(外務省報道官、8日付ハンギョレ新聞)とアメリカを厳しく批判しました。
会談を前にしたアメリカのもう1つの対朝鮮牽制は、トランプ大統領の突然の「イラク核合意離脱」表明(9日)です。イギリスやフランス、ドイツなどの反対を振り切って行われた異例の「離脱表明」でした。その目的は-。
「ワシントンの外交筋は『このタイミングで合意離脱を発表したのは北朝鮮に向けた圧力という意図しか考えられない』と指摘する」(10日付各紙=共同)
イランの最高指導者ハメネイ師は「われわれはすべての合意事項を履行しているにもかかわらずあの男はそれを認めず離脱した」とトランプ氏を非難し、ロウハニ大統領も「米国は国際法上の義務を軽視している」(同・共同)と強く反発しています。
「ノーベル平和賞」と中間選挙と自分のスキャンダルで頭がいっぱいのトランプ氏が、今後どのようなディール(取引)に出るか、予断を許しません。
これまで「朝鮮半島の平和」をめぐるいくつかの「合意」は、アメリカの大国主義的横暴で反故になりました(7、8日のブログ参照)。今回は「合意」に至る前からその二の舞いになる恐れがあります。
そのトランプ氏と二人三脚で、あるいはトランプ氏を先導して「朝鮮半島の非核化」「朝鮮民族の融和・平和的統一」の流れに逆走しているのが安倍首相(写真右、後日詳述)です。
「朝米会談」をめぐり、アメリカ、朝鮮、そして日本は何を主張し、どう行動するのか。私たちはそれを凝視し、声をあげていく必要があります。