磯部浅一
六、結語
北、西田氏に対する公判は形式 だけであつて
「 軍は既定の方針によつて殺す 」
と 云ふ方針通りに終了し、
今は最早、両氏は一言も正義の主張をすることは出来ません。
事ここに至っては、最早
天皇陛下の広大なる御仁慈に御すがりするより外には道がないのであります。
どうか閣下等の御力によつて、
事の眞相を上聞に達していただき、両氏の助命をしていただき度いので御座居ます。
頼みます。
頼みます。
意満ちて筆足らず、
申上げたい事の百分の一も云へません。
どうか御判読下さいます様願上げます。
付記
軍部が西田、北両氏を死刑にする理由は、實にわけのわからぬものです。
一、北、西田が青年将校を煽動したりと云ふのです。
煽動したのは北、西田ではなく三月事件、十月事件であります。
一、北、西田は青年将校に思想的指導をしたと云ふのですが、
思想的指導はムシロ、陸軍省発表のパンフレット等の方が大きな役目をしたのです。
死刑にする理由がないので、実にわからぬことをこぢつけてゐるのです。
軍部の奴等は自分が奉勅命令を下達しなかつたことをたなに上げ、
北、西田が煽動したと云ふのです。
註
「獄中手記」 (一)から(三)は、原文手記を複写し、
所謂「怪文書」として要路関係者に配布したもの
目次ページ 磯部浅一 ・ 獄中手記 に戻る