日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

「天守物語」 坂東玉三郎

2009-07-12 | 泉鏡花

        ここはどこの細道じゃ 細道じゃ                                                                                                    女童(めのわらわ)の歌が茜の空に流れる。歌舞伎座が泉鏡花の魔界に転じる瞬間である。
鏡花が描く愛は試練を超えなければ得ることはできない。
玉三郎は極限の美と哀しみを、市川海老蔵はひとすじの純粋さを演じる。

Tensyu_k 播州姫路・白鷺城の天守閣には美しい魔性の富姫が住む。
猪苗代から妹の亀姫が鞠つきをするために天を駆けて会いに来た。
 姉妹の絆は花びらがこぼれるように美しい。
亀姫の土産は猪苗代城主の首であった。
亀姫へのお礼に富姫は姫路城主が大切にしている白鷹を亀姫に贈る。

そこへ白鷹がいなくなった咎によって若き鷹匠・姫川図書之助が
天守閣を見届ける命を受けてやってきた。
富姫は図書之助の言葉から潔さと清らかな心を見てとり図書之助を帰してあげる。
その帰り、大入道に雪洞(ぼんぼり)の灯りを消された図書之助は、火を乞いに再び戻ってくる。
天守閣へ来た証として富姫は姫路城主の兜を与えるが、この兜のために賊と疑われ
三度天守閣へ戻ることになった。
図書之助の勇ましさ、清々しさに心惹かれた富姫は彼をかくまう。                                      

しかし追手に異界の象徴である獅子の目を射抜かれ、
二人は視力を失ってしまった。愛する人の姿を見ることができない。
<千歳百歳(ちとせももとせ)にただ一度、たった一度の恋だのに>
二人の悲しみは深い。
しかし名工・桃六によって獅子の目は回復し二人は再び光を取り戻した。
幾多の試練は終わり至高の愛によって結ばれる。

魔界と人間界が夢幻的に交錯し、鏡花が示す美と醜は定めがたい心情の綾から生まれるものであることを
玉三郎が気高く演じる。幻想に棲む天守の貴女(きじょ)はひとときの夢を与えてくれる。