日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

Le POTOMAK (ポトマック) JEAN COCTEAU

2009-04-07 | Jean Cocteau

『ポトマック』はジャン・コクトーが25歳の時に書いた処女小説。
この本がはじめて世に出たのは1916年であるが写真の本は1926年のものである。
コクトーは1916年版に「趣意書」を新たに加え決定版として1926年に刊行した。
訳者の澁澤龍彦も25歳の時に写真と同じ決定版から翻訳をした。
 フランス・ストック社出版、限定550部の400番台。
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「燃えている僕の過去から、僕は何ひとつ救い出そうとはすまい」

この小説は音楽家ストラヴィンスキーに捧げられている。
コクトーがストラヴィンスキーから受けた衝撃は、サロンに出入りする
優雅な詩人である自分から自己変革をとげねばならない大きなきっかけともなった。
小説は散文詩、寓話、アネクドット(秘話、逸話) 、手紙という形式で成り立っている。Potomakdessin

コクトーが描いた64枚のデッサンに登場するモルティメ夫妻は、コクトーの感情、観念、あるいは潜在意識であるかも知れない。
その夫妻にぴったり寄り添ったり、夫妻を食べてしまうウージェーヌたちは過去の消失、未来への飛翔の精神となって夫妻に何件もの改造をほどこす。

   「ウージェーヌたちが僕の心に喚び起こすようなものを、
    僕は今までに見たことがあっただろうか?」

苦悩の中で研ぎ澄まされたコクトーの思考はあらゆる事象に目が向けられ、それは死生観にまで及ぶ。
当時のコクトーの心情が溢れ出てくるような小説であり、闇の中から光を見出す可能性と情熱の小説でもある。
作家の坂口安吾は若き日にこの『ポトマック』を愛読したという。


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