日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

夢先案内猫 レオノール・フィニ

2010-02-16 | book

猫の名前は何と言うのだろうか?この問いで私の頭の中はいっぱいだった。
私はまさに時機喪失のなかにあった。動物のそばでは、とりわけ猫と対面しているときは、人間のほうがどことなくぎこちなくなっていく自分を感じるものだ。(本文より)
1980年 北島廣敏 訳 工作舎

Loneiropompe
女流画家レオノール・フィニが愛してやまない猫をモチーフに、「人格を持つ」対象として神秘で官能的な夢物語を小説にした。
「私」の前に現れた猫は、「私は夢先案内人だ」と暗示的なことばを言い、
変装して玄武岩の顔像を盗むよう指示する。
フィニが常に主題としているスフィンクスが謎をなげかけるような導入である。

そこから始まる「私」の迷宮のような旅。
夢と現実の描写を追ってゆくと、まるでフィニの絵画の中を遊泳するような錯覚に陥る。
そしてフィニにとって猫は崇高で絶対的存在であることが至るところから読み取れる。
猫が「にゃーお」と鳴いた瞬間、ジェリコー、ゴヤ、マネ、ラファエル、ルノアール、モロー、ピカソ…と
実際に絵画に描かれた猫が動き出す幻想は、画家であるフィニの美学が溢れて魅惑に満ちている。
終章の館での祝祭はさながらきらめく魔術であり、異彩を放つ幻想である。

 

 


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