日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

草迷宮 泉鏡花

2018-03-09 | 泉鏡花

手毬が、手毬が流れる、流れてくる、拾ってくれ (本文より )



川に流れてきた手毬を拾った葉越明は
幼い時に母から聞いた手毬唄をもういちど聞きたいと
母への思慕を胸に旅を続け、三浦の秋谷(あきや)にたどり着いた。

怪異と魔界に棲む妖艶な美女。
そして狂おしいほどの母への憧憬に彩られた鏡花の小説だ。

旅をする小次郎法師が、秋谷邸(やしき)の回行を依頼され、
その途中に寄った茶屋で老婆から聞いた怪異な話で物語は進んでいく。

その秋谷邸は何人もの死者が出たため長い事空き家になっていたが
そこに泊まることになった葉越明と小次郎法師。
魔界への入り口、秋谷邸の黒門。

泊まったその晩に次々と起こる奇怪な出来事は
さながら夢魔の迷宮であり
そこに棲む菖蒲(あやめ)が悪左衛門の取り次ぎによって現れる。
丑月丑日の丑時にゆくえが知れなくなった菖蒲。

彼女こそ物の怪を操る女性であり
葉越の幼なじみでもあり、
最後に悲しみのうちに葉越を救う妖しの女性であった。

夢かうつつか。
手毬の糸がほどけるようにゆるゆると
あるいは絡むようにぎりぎりと
迷宮から迷宮へと複雑に交錯する鏡花文学「草迷宮」。