日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

坊ちゃん 夏目漱石

2011-09-22 | book

Bocyan
本を開けば、無鉄砲で正義感の強い坊ちゃんは、活字を吹き飛ばすくらいに生き生きと描かれている。
しかし小説はなぜかもの哀しい。

その破天荒ぶりに父からは見限られ、母は兄びいきである。
それでも「坊ちゃん」と呼び、彼を可愛がってくれた下女の清がいた。 

松山へ数学の教師として赴任してもそこは馴染めない地であり、生徒は困り者ばかりだ。
彼の目を通して教師たちの性格が語られるが、まるで現在同様の社会の縮図のようである。
小ずるく生きる赤シャツ、割をくってしまううらなり、
気取っているがどこか信頼できる山嵐など。

この地で主人公が丸腰で生きることがどんなに困難かその思いはさらに深くなっていく。
そんな彼に清への郷愁にも似た瞬間が何度も訪れる。それは彼がフッと孤独を感じる瞬間だ。

赤シャツや生徒らの不条理さに表面だけでも同じようにすることに彼は不安を感じる。
相手はいい人・立派な人を装いながら複雑なことをするからだ。
彼は無鉄砲であってもまっすぐにしか生きられない。 

退職を覚悟で赤シャツの秘密に山嵐と戦い、東京に戻って清を呼びよせ一緒に暮らすが
病のために清はまもなく帰らぬ人となる。
彼を理解し帰りを待っていた彼女は主人公がたどりついた暖かい日だまりであった。
両親の愛情が薄かった主人公の孤独な思いを感じるタイトルである。