第二次大戦が始まる1940年、ジャン・コクトーはパレロワイヤルに住み始めた。
さながらひとつの村のようなこの場所にはコクトーの親友コレットも住んでいた。
創作という世界への関心が高いコクトーの鋭い感性は当然「食」にも及び、
パレロワイヤル内にあった名レストラン「グラン・ヴェフール」のオーナー兼シェフの
レーモン・オリヴェとコクトーは「食べること」の幸せを分かちあい、コクトーが食事に訪れると
オリヴェをテーブルに呼び、また時にはオリヴェがコクトーの隣に座ったりして、
その友情から生まれたいくつかの料理が「コクトーの食卓」に運ばれることになった。
(ヴェフェールにはコレットとコクトーや著名人の専用のテーブルがあった。)
コクトーが特に好んだ料理
・澄んだコンソメスープ ・牡蠣のカクテル ・目玉焼き ・ほろほろ鳥の雛 ・山しぎのマスプローヌ風 ・じゅずかけ鳩のフランベ ・香草を使った香りのある料理
本書にはル・グラン・ヴェフールのメニューがスープからカクテルまで50種以上あるが、
高度な料理だけでなくごく簡単なものまで紹介されている。
食べる楽しさのために試作を続けるオリヴェの情熱と、コクトーが望む味覚に応えようとする愛情が食の喜びを与える
エッセンスとなった書である。
コクトーの挿絵は、赤の線がそのまま動き出すように生き生きとしている。
ページを追って絵を見ていると、まだまだ描き足りないとコクトーが言っているようにも思える食の至福の時間。
コメディフランセーズの学員は、コクトーに何か相談したい時はここに来れば必ず会えたという。
(右の写真はどこのレストランか不明)
辻邦生 訳 1985年 講談社