計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

2020年07月27日~28日の山形県の大雨

2020年07月30日 | 山形県の局地気象
 この度の大雨の被害に遭われた皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
 今回の山形の大雨について、急ぎ思いつくままにまとめてみました。

(1)7月27日~28日の山形県内の48時間降水量


 朝日連峰付近に200~250mm以上の極大域が現れています。たった2日で、1か月分の降水量に迫るほどの雨となりました。

(2)7月27日~28日の気圧配置等の特徴


 東北地方に梅雨前線が居座りました。南側では太平洋高気圧が顕著となる一方、北側では偏西風の蛇行に伴ってオホーツク海高気圧も顕著となりました。このため、前線の位置が一時的に固定されるような形となりました。

 東北地方で前線が折れ曲り(キンク)が現れました。このような所では「前線上の低気圧」に発達することもあります。さらに、そこから南に佐渡島2~3個の辺り(対流が最も活発になりやすい領域)が、ちょうど山形県に重なったようです。

 ちなみに、南からの「暖かく湿った空気」と北からの「冷たく乾いた空気」は約100~200kmの幅を持つ「梅雨前線帯」でぶつかり合います。天気図における梅雨前線の記号は、梅雨前線帯の北端付近に沿って表記される一方、南端付近では積乱雲が発達し、集中豪雨につながりやすくなります。(梅雨前線の構造

 そこで、佐渡島の長さを約60kmとすると、約2~3個分が梅雨前線帯の幅の目安となります。(梅雨前線からの距離と天気の傾向


(3)朝日連峰の地形に伴う影響


 南西からやってきた暖かく湿った空気は、大量の水蒸気(後述)を伴って朝日連峰に流れこむ形となりました。この結果、朝日連峰の地形(斜面)に沿って強制的な上昇流となる効果も加わり、対流がより強化された可能性も考えられます。

 朝日連峰付近の地形の影響もあって、朝日連峰の辺りを中心に降水量の極大域となったと推察されます。


(4)上空の水蒸気の変化

 東日本・北日本の高層気象観測地点は次の通りです。今回は、この中で秋田・輪島の観測データを分析に使用します。


(図中・黄緑色の領域は山形県、灰色破線は東経140°線)


(4-a)秋田の上空

 このグラフは「水蒸気の鉛直分布と降水量」と同じ形式です。相当温位・相対湿度・比湿ともに平年よりも高い水準にありました。特に28日9時の4000~8000mの相対湿度・比湿が非常に高く、1500m付近の相当温位も339Kと高くなりました。

(4-b)輪島の上空

 こちらのグラフも「水蒸気の鉛直分布と降水量」と同じ形式です。3000m以下の層の相当温位が339~343Kと高い水準を維持していました。また、相対湿度は27日は2000~4000mの層で100%となる一方、翌日も上空3000m以下の層で90~100%と非常に高い水準を維持していました。全体的に比湿も平年より5g/kg近く高い水準となっておりました。

 このように暖かく湿った空気の流入により、上空の水蒸気量の増加が顕著となった様子がグラフに現れています。
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今年の梅雨の特徴として感じる事

2020年07月26日 | 気象情報の現場から
 今年の長引く梅雨の特徴について色々な解説を拝見し、また実際にデータも見ながら考察してみました。通常の梅雨と今年の梅雨の特徴を図にまとめてみると、以下のようになります。





 この図を比較すると、大きく分けて3つの特徴があるように感じています。

(1)インド洋の海面水温が平年より高い

 インド洋の海面水温が平年より高くなると、この付近で対流活動が活発になります。この影響で、フィリピン付近の対流活動が弱まり、日本付近への太平洋高気圧の張り出しも弱まります。インド洋で対流活動が活発になると、この付近で生じた上昇流は、フィリピン付近で下降流となります。

 一方、フィリピン付近はもともと対流活動が活発で上昇流が生じやすい地域です。従って、インド洋からやってきた下降流と、フィリピン付近のもともとの上昇流が互いに弱めあう形となり、フィリピン付近の対流は弱まります。

 通常であれば、フィリピン付近の上昇流は日本付近で下降流となり、太平洋高気圧の張り出しをアシストします。しかし、今年はこのアシストの効果が弱められました。この結果、太平洋高気圧がなかなか張り出して来ず、梅雨が長引いているようです。


(2)日本の北側の上空を流れる偏西風が、朝鮮半島付近で南側に蛇行した

 偏西風が南下すると、これに対応する前線も南下します。このため、梅雨前線が北上しにくい状態にあったことが考えられます。また、蛇行が顕著となりブロッキング現象を生じると、同じような気圧配置が長続きます。


(3)黄海付近の海面水温が平年より低い

 海面水温が低いと言うことは「その付近では気圧が高くなりやすい」と見ることもできます。天気図を見て数えたところ、「高気圧」として描くほどの顕著なものではなかったようです。しかし、海面上のごく限られた高さの範囲で「高気圧もどき」となり、前線付近よりも気圧が高い状態が続いていたとすれば、梅雨前線の北上に抑止に寄与した可能性も考えられます。
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今年の梅雨前線はしつこい?

2020年07月24日 | 気象情報の現場から
 今年は梅雨前線がしつこい…と感じている今日この頃です。そこで、6月下旬~7月中旬(6月21日~7月20日)の地上天気図を基に、西日本付近で「東西に延びる前線」が現れた回数を調べてみました。


 今回は、西日本付近の範囲を地図中の赤破線枠(30~35°N、120~140°E)としました。2011~2020年の各6月21日~7月20日の地上天気図(9時)を見て、この範囲に「東西に延びる前線」が解析された回数を只管数えました。

 なお、このような判定には、微妙なケースでどうしても主観が入るものですが、おおよその傾向は掴むことを向き的としています。


 集計結果をまとめたのが棒グラフです。ざっと見て、概ね10~15回の年が多いのですが、2016年は20回、2020年は21回でした。対象範囲における前線の出現頻度は高い傾向が見られました。その意味では確かに「今年の梅雨前線はしつこい」ようですね。
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上越の寝苦しい夜

2020年07月21日 | 気象情報の現場から
 今朝(2020年07月21日の朝)のFMラジオを聴いていた所「上越では蒸し暑く寝苦しい夜だった」と言う話題が出ていたので取り急ぎ、観測データを調べてみました。

 まずは、上越の代表地点として高田の7月の「平均的な時系列傾向」を調べました。
 2009年~2019年の7月の観測値(高田)を基に時別の平均値を求めて、平均的な時系列の傾向を調べてみました。まずは、気温・相対湿度・風向・風速の変化をグラフに表してみました。
(※いわゆる「平年値」ではないことを御注意下さい)

※ここでは最多風向を角度で表示しています。
 時計回りに東(90°)→南(180°)→西(270°)→北(360°)の順です。

 気温は「朝晩は低く、昼間は高い」パターンではありますが、それでも概ね25℃以上と暑い状態が続く傾向が見られます。また、相対湿度は「朝晩が高く、昼間が低い」パターンとなっています。それでも、75%以上と高い水準を維持しており、気温条件も考慮すると蒸し暑い状態が続きやすいことが判ります。

 平均風速を見ると「朝晩は風が弱く、昼間は風が吹きやすい」パターンが表れています。最多風向を見ると「朝晩は南風、昼間はほぼ北風」となっており、昼間は海からの風が入りやすい様子が見て取れます。

 続いて、06時,12時,18時,24時の風向の出現比率を風配図上に重ねて表示しました。


 この結果からも、夜間(06時と24時)は南寄りの風、昼間(12時と18時)は北寄りの風の傾向が明瞭で、海陸風の影響が表れています。


 平均的な傾向を把握した所で、今年の7月(2020年7月)のこれまでの推移に目を向けてみます。次の図は、7月1日から20日までの日々の最高気温・最低気温・平均湿度・最小湿度です。


 今年の7月は(20日までは)最低気温が20℃前後の日が多く、最高気温が25℃以上となっていました。上記の「平均的な時系列傾向」に比べると、最低気温が低めで推移していたことが判ります。一方、相対湿度は「平均的な時系列傾向」と大きく異なる傾向はみられませんでした。

 ここまでを踏まえて、7月20日18時~7月21日6時の最高気温・最低気温・風向・風速の変化を見てみましょう。


 20日の23時~24時に24℃台、また21日1時23分に最低気温24.0℃を観測しました。今年の7月の中では高い値ですが、上記の「平均的な時系列傾向」ではこの位が通常の水準です。夜間は概ね南風が弱く、早朝になって風が少し強くなりました。

 この間、上空では南西~西寄りの風に乗って(真夏のような)暖かい空気が持続的に流れ込んでいました。雲も広がっていたので放射冷却の効果は表れにくく、(涼しい)海風も入らないので、暖かい空気が停留しやすい状態が続いたようです。

 また、今年の7月は最低気温が(平均的な水準よりも)低めで推移していたことから、ことさら夜間の気温の高さが身に堪えたとしても不思議ではありません。ちなみにフェーン現象に伴う昇温は、これまでの経験上、上空の風が「南西~西寄り」の風よりも「南~南東寄り」の風の場合の方が顕著なようです。
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7月上半期の日照と降水量の傾向(山形・新潟)

2020年07月20日 | 気象情報の現場から
 7月も下旬に差し掛かりましたが、なかなか梅雨明けの兆しが見えてきません。

 今回は、7月上半期(1~15日)の日照時間と降水量について、今年(2020年)と平年値で比較してみました。まずは山形県の場合です。


 日照時間は平年よりも少ない傾向にありました。雲の多い空模様が続いたことを示唆しています。続いて降水量を見てみましょう。


 降水量は平年よりも多い傾向にありました。平年よりも晴れ間が少なく、曇りや雨の日が多かったようです。

 次は新潟県の場合です。


 山形県の場合と同じく、日照時間は平年よりも少ない傾向にありました。雲の多い空模様が続いたことを示唆しています。続いて降水量を見てみましょう。


 やはり、降水量は平年よりも多い傾向にありました。こちらも平年より晴れ間が少なく、曇りや雨の日が多かったようです。

 次のグラフは、福岡の7月の500hPa面高度(気圧が500hPaとなる高さ)の日別(9時観測)の推移を示したものです。500hPa面の高さで「5880m」が太平洋高気圧の目安として用いられます。


 平年値(1989-2010)と直近9年(2011-2019)の平均傾向を見ると、5820mから5880m近くまで次第に上昇しています。これに対して、今年(2020)は高度が低めで推移している様子が見られます。太平洋高気圧の勢力が弱い(=なかなか北に張り出して来ない)様子が見て取れます。

 もちろん、太平洋高気圧の動向だけで全てを説明できるわけではありませんが、背景の一つとして挙げることはできるでしょう。

 梅雨末期はまだ続きます。引き続き、大雨等に対する注意・警戒が必要です(それにしても、長いな・・・)。
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エマグラムの描画プログラムを作成

2020年07月18日 | 気象情報の現場から
 大気の安定・不安定を把握する上で、鉛直方向の温度分布を知ることは重要です。そこで、気象分野で用いられるエマグラム(断熱線図)を自動描画してくれるプログラムをC#で作成しました。下記はその描画の一例です。


橙・細線:乾燥断熱線
水・細線:湿潤断熱線
緑・細線:等飽和混合比線

黒・太線:気温の鉛直分布
青・太線:露点温度の鉛直分布
赤・太線:空気塊を断熱的に持ち上げた場合の温度分布

 この図を見れば、気温と露点温度の鉛直分布が一目で判ります。さらに、LCL(持ち上げ凝結高度)、LFC(自由対流高度)、LNB(中立浮力高度)を自動的に判定して、図中に目印をつけてくれます。引き続き、様々な事例を試しながら、プログラムの改良を図っていきます。
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水蒸気の鉛直分布と降水量

2020年07月11日 | 気象情報の現場から
 この度の豪雨災害に遭われた方々に、心よりお見舞いを申し上げます。
 未だ続く「令和2年7月豪雨」の状況の推移に対して、注視して行かなければなりません。

 今回は、気象庁HPの「過去の気象データ検索(高層)」で公開されている2020年7月5日~8日の福岡の高層気象観測データを基に分析を試みました。

 この期間の大雨の要因としては、既に「梅雨前線帯に発生した線状降水帯」のメカニズムが指摘されています。そこで、福岡の上空における「水蒸気の鉛直分布」の変化に注目して、相当温位・湿度・比湿の鉛直分布、および降水量の推移を分析しました。

 ここで、相当温位とは「水蒸気の凝結潜熱も考慮した温位」のことです。また、比湿は「空気1kg当たりに含まれる水蒸気の質量」のことです。


 まずは7月5日の鉛直分布(相当温位・相対湿度・比湿)と3時間降水量の時系列変化です。
鉛直分布は9時(青実線)、21時(赤実線)、および7月平年値(緑破線)を表示しています。これは「平均的な状態」からの偏差を見やすくするためです。

 平年値に着目すると、相当温位は地上~3000mまでは高度と共に値は小さくなる一方、4000m以上では高度と共に値が大きくなっています。本来、温位は高度が上がるにつれて値も大きくなる傾向にあります。しかし、地上~3000mの層では水蒸気を多く含んでいるため、その凝結潜熱が(下層の)相当温位の値に反映されています。このため、下層の相当温位は「暖かく湿った空気」の指標としても用いられます。

 平年の相対湿度を見ると、地上~2000mの範囲では70%以上で、1000mの辺りで極大となっています。また、比湿は地上~2000mの範囲で10~15g/kgであるのに対し、4000m以上では5g/kg以下と小さな値となっています。水蒸気が海面から供給されることを考えると、下層では水蒸気量が大きく、上層に行くにつれて急速に小さくなることも理解できます。

 この平年値を比較の基準として、9時と21時の鉛直分布を見てみましょう。相当温位の鉛直分布はの9時の時点では、平年値よりも概ね低い状態にありました。しかし、21時の時点では地上から上空にかけて平年値よりも高い状態に推移しました。

 天気予報では、相当温位の中でも特に「1500m付近」の値に注目します。1500m付近では、9時の時点では331Kであったのに対して、21時の時点では345Kを示しています。この高度で345Kという値は非常に高い水準です。よく「暖かく湿った空気」と表現されますが、その中でも「何等かの大雨や豪雨の可能性を考える」ような高いレベルと言えるでしょう。

 湿度の鉛直分布を見ると、9時の時点では2000~5000mでは平年よりも湿度が低く、乾いた状態にありました。しかし、21時の時点では、地上から上空にかけて80~100%と高く、全体的に湿潤化したことがうかがえます。この事は、比湿の鉛直分布でも確認することができます。9時の時点では概ね平年並みか低い状態でしたが、21時の時点では平年を上回る値となっており、大気全体として水蒸気を多く含んだ状態にありました。

 大気の湿潤化が進むにつれて、降水も発生しました。この日の夕方以降(18時~24時)に降水量が観測されています。


 続いて7月6日の場合です。相当温位は、概ね平年値よりも高い状態を維持しています。これは、地上から上空に至るまで湿潤化が進んだことが反映されています。1500m付近の値を見ると、9時で343K、21時でも340Kと高い水準を維持しています。

 相対湿度を見ると、9時の時点では地上から上空まで100%となっており、21時の時点でも2000m以上は90~100%、2000m以下でも80~90%と湿潤状態が持続しています。比湿を見ても、概ね全層的に平年の水準を上回る水準となっています。大気層全体で(平均的な状態に比べて)過剰な量の水蒸気を蓄えている状態にある様子が浮き彫りになっています。

 線状降水帯の発生に伴い背の高い積乱雲が次々に流れ込んだ結果、大気層全体に対して水蒸気が持続的に流入したことが判ります。この結果、3時間で20~40mmにも達する雨が続いたことが観測されました。


 さらに7月7日の場合です。相当温位は、概ね平年値よりも高い状態を維持しています。また、1500m付近では9時で341K、21時でも345Kと高い水準を維持しています。

 相対湿度を見ると、9時の時点では地上から上空まで、21時の時点でも1000~6000mの範囲で100%が観測されており、湿潤状態が持続しています。また、比湿を見ても、1500~7000mの辺りで平年よりも3~4g/kg程度高い水準となっています。大気層全体で(平均的な状態に比べて)過剰な量の水蒸気を蓄えている状態が続いています。

 大気層に含まれる水蒸気量が多いことは、降水量にも反映されています。3時間で30~50mmにも達する降水が観測されました。


 最後は7月8日の場合です。相当温位は平年値よりも低い水準にまで戻りました。1500m付近では9時で331K、21時でも337Kと、それまで続いた高相当温位の状態が解消されました。

 相対湿度を見ると、2000m以下と8000m以上で湿潤となる一方、その中間では湿度が低下しています。このことが相当温位の全体的な低下にも反映されているわけです。また、比湿も全層的に平年並みか平年よりも低い水準に落ち着いており、降水も小康状態になったことが観測されています。

 付録として、使用した計算式を以下に挙げておきます。ご参考になれば幸いです。

t:気体の温度[℃]
es:飽和水蒸気圧[hPa]
Rh:相対湿度[%]
e:水蒸気圧[hPa]
p:気圧[hPa]
w:混合比[kg/kg]
q:比湿[kg/kg]
p0:基準気圧[hPa]
R:気体定数[J・K-1mol-1]
Cp:定圧比熱[J・K-1kg-1]
T:気体の温度[K]
θ:温位[K]
L:水蒸気凝結の潜熱[J/kg]
θe:相当温位[K]

(注)混合比w[kg/kg]を相当温位θeの式に代入する時は、w[g/kg]に単位換算します。
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