計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

「マーケット・イン」の気象情報を考える

2013年07月13日 | オピニオン・コメント
 そういえば、カレンダー上は三連休なんですね。

 以前、「気象庁やメディア等の無料の天気予報」と「気象情報会社が独自に配信する天気予報」は何が違うのか・・・と言う問題について、前者は「プロダクト・アウト」であるのに対して、後者は「マーケット・イン」である事を指摘しました。それでは、何がどう「マーケット・イン」になるのか・・・。最近はそんな事を考えていました。この「マーケット・イン」を考える上では「天候リスク」というものを考えなくてはなりません。


 例えば、気温が高くなるとアイスクリームが売れるイメージがあります。逆に言えば、「気温が低いと売れにくくなる」というリスクが存在します。これは、何となくイメージできますね。それでは、気温が「どれ位の水準であれば」アイスクリームは売れるのかと言うと、様々な情報から概ね「23~27℃」が一つの目安のようです。

 それなら気温が30℃を超え、35℃近くなるとアイスクリームはどんどん売れるのか・・・と言うと、実はそうでもないようです。気温が30℃を超えるようになると、今度はアイスクリームの売れ方は鈍り、これに替わってかき氷の需要がぐんと伸びるようです。アイスクリームも「ただ暑ければ売れる」と言う単純な話ではないようです。

 このように「どのような気象条件の時にどのようなものが売れるのか」と言う観点からアプローチする分野は「流通気象」と呼ばれるようです。特に、気象条件と商品の販売動向の相関関係を分析してモデル化し、最新の気象予測を基に販売動向を予測して、販売・営業活動に役立てる試みを「ウェザー・マーチャンダイジング(WMD)」と言います。件のアイスクリームの場合は、売れる温度帯が存在し、これより低すぎてもダメですが、高すぎてもダメなんですね。


 さて、夏は暑く、冬は寒いのが日本の気候の特徴ですが、時としてこれを覆すようなケースもあります。いわゆる冷夏・暖冬と言うヤツですね。夏はそれなりに暑い事を想定(期待)して準備していたのに、冷夏になってしまったら・・・折角準備していたものがパーになってしまう、と言うリスクも存在します。また、それなりに暑いつもりが・・・記録的な猛暑になってしまったら、それはそれで計画が狂って損失を被る事も考えられます。気象情報を参考にして計画を立てて準備したとしても、やっぱり「想定外」の事態が発生する可能性は捨てきれません。

 そんな時に登場するのがウェザー・デリバティブ(天候デリバティブ)です。これは契約時に所定のオプション料(プレミアム)を契約料として金融会社(保険会社)に支払い、対象期間中に予め設定しておいた異常気象の発生が観測されると、その内容に応じた補償金を受け取れるものです。

 夏は暑い事を期待していたのに、冷夏になったら困るな・・・と思ったら、もし冷夏になったら補償金がもらえるような契約を予め締結しておくわけです。冷夏になった場合の損失をフォローするために、予め契約料を投資しておいて、「もし冷夏になった場合には」補償金を受け取れる、と言うものです。当たり前ですが、冷夏にならなかったら契約料は「掛け捨て」になります。天候デリバティブの特徴としては、冷夏による実損害の有無に関わらず、現象の発生が観測されれば(確認できれば)、それだけで補償金が受け取れるということです。これは「損害保険」とは異なるところです。実際の所、天候デリバティブは「保険商品」ではなく「金融商品」の扱いになっているようです。


 以上の事例において気象情報は、個々のユーザーの重要な判断や意思決定、つまり「決断」を伴う際の肝心・要の部分を担っていると言えるでしょう。このユーザーの「決断」に寄り添った情報を提供できるか、と言う点がまさに「マーケット・イン」の核心になるのだろうな・・・と思っています。


 珍しく、真面目な話を書いてみました。


コメント
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