計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

1月~2月の積算降雪量の比較

2020年04月13日 | 気象情報の現場から
 先の冬は暖冬・少雪の傾向が顕著に表れました。一方、2年前はこれとは正反対の大雪に見舞われました。そこで、先の冬(暖冬・少雪)と2年前の冬(寒冬・大雪)の新潟県内の降雪量を比較してみました。

 冬の期間は概ね12月から翌年3月ですが、ここでは簡単のため1月から2月の2か月間の積算降雪量を比較することにします。

平年値の降雪量分布(1月・2月)

 まずは「平年値の分布」を描いてみました。等値線は200,400,500,600cmで引いています。また、主な観測地点の積算降雪量を個別に表記しています。

 平野部では概ね200~500cm程度ですが、沿岸部では200cmを下回る所もあります(新潟市では164cm)。一方、山間部では500~700cm程度で、中には700cmを超える所もありました。


2018年1月-2月の降雪量分布(寒冬・大雪の場合)

 続いては、大雪となった2018年1月-2月の場合です。平野部では沿岸部の新潟で252cmと平年値を大きく上回り、概ね300~600cm近くに達していました。降雪量を赤字で示した地点は、降雪量が平年値を大きく上回った所です。

 このシーズンは、日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)が下越地方(新潟県北部)の平野部に向かって延びる事例に数多く遭遇しました。正直、天気図を見るたびにウンザリしていたような気がします。このJPCZの走向に伴い、雪雲が山沿いの地域よりも下越地方の平野部に流れ込みやすく、この付近を中心に大雪となる傾向が見られました。

 また、降雪量が平年値を下回った所は青字で示しました。雪雲が下越地方の平野部に流れ込みやすかったため、上越・中越地方(新潟県南部・中部)の山沿いの地域では返って降雪量が少なくなりました。

2020年1月-2月の降雪量分布(暖冬・少雪の場合)

 そして、この前の2020年1月-2月の場合です。降雪量自体は全体的に山沿い中心の分布となっています。それにしても、降雪量が少ない。等値線が足りないので、100cmの線を追加で引きました。平野部では100cmに満たなかったのです。また、山沿いの地域でも400cmを超えたのは一部の範囲だけでした。

 天気図を見ていても、確かに冬型の気圧配置にはなるものの、「上空の寒気」の気温が普段よりも高めだな、と感じることが多々ありました。これは正の北極振動やインド洋ダイポールモードの影響が重なったことが主な要因です。実に興味深いケースです。
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春の訪れ

2020年04月03日 | 何気ない?日常
 通勤途中に足元を見ると、つくしとタンポポのコラボレーションが・・・。

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感染症の数理モデル

2020年04月02日 | 気になるニュース
 今回はちょっと「専門外」のお話です。

 感染症の広がり方を理解するための数理モデルとして「SIRモデル」が知られています。これは「ある閉じられた領域(区画)」の中に存在する人々を、次の3つの状態(S,I,R)に分類して、その時間的な変化を解析するものです。

未感染者(Susceptible)
 未だ感染していないので、今後「うつされる」リスクがある。

感 染 者(Infected)
 既に感染しており、今後「うつしてしまう」リスクがある。

・回 復 者(Recovered)
 感染後に回復した状態であり、今後「うつす」ことも「うつされる」こともない。

 つまり、未感染者(S)感染者(I)回復者(R)の順に状態が遷移します。

 これをイメージで表すと、次の図のようになります。


 上の段は「感染過程(S→I)」を表しています。

 未感染者と感染者の(直接的な)接触により、感染が起こります。未感染者(うつされる側)の数が多ければ多いほど、また、感染者(うつす側)の数が多ければ多いほど、新たな感染者は増加します。従って、新たな感染者の発生数は未感染者数と感染者数の積に比例すると仮定することができ、その比例定数をβ(感染率)とします。

 下の段は「回復過程(I→R)」を表しています。

 これは感染者数の内の一定の割合に相当する数が回復すると仮定しています。このペースを表す比例定数をγ(回復率)とします。

 そこで、第t日目における未感染者数をS(t)、感染者数をI(t)、回復者数をR(t)と書き換えてみると、次の図のように表すことができます。



 第t日目におけるS(t)、I(t)、R(t)の時間的な変化をβ、γを用いて数式の形に表現すると、次のような連立常微分方程式で表すことができます。


 あとは初期条件とパラメータ(β、γ)の値を設定することができれば、数値計算でシミュレーションを行うことができます。(実はこの値の設定が難しい・・・)

 次のグラフは初期条件とパラメータを適当に設定して計算した一つの例です(設定は適当ですが、基本的な特徴は現れています)。

(平均回復期間 γ-1=25日,基本再生産数 R0=β/γ=3.55と設定した場合)

 未感染者数S(t)は時間の経過とともに減少する一方、感染者数I(t)が増加していきます。また、感染者数I(t)の増加に伴って回復者数R(t)も増加します。やがて感染者数I(t)はピークを迎えると、その後は減少傾向に転じます。

 感染者数I(t)に着目すると、次の2点がポイントです(図は省略)。

・感染の拡大が急速であれば、ピーク時の到来は早く、ピーク時の感染者数も増加します。グラフは急峻な形状になります。

・感染の拡大が緩慢であれば、ピーク時の到来は遅く、ピーク時の感染者数は抑制されます。グラフは丘陵な形状になります。


 なお、COVID-19の予測については、(その筋の)専門家が実施・公表されているシミュレーション結果を参照して下さい。この記事が理解のお役に立てれば幸いです。


 ご参考までに、感染症の数理モデルについて詳しく述べられている文献も紹介します。
西浦 博・稲葉 寿,2006,感染症流行の予測:感染症数理モデルにおける定量的課題, 統計数理(2006)第54巻 第2号,461–480c,統計数理研究所
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