計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

機械設計と局地予報・・・意外に似ている?

2008年08月15日 | オピニオン・コメント
 慣れない?機械工学の勉強に励んでいた事もあり、頭の中で天気と機械がゴチャ混ぜにブレンドされてきました・・・。そんな状態でふと気付いたのが、タイトルの通り、機械設計と局地予報・・・意外に似ている所があるのではないか?と言う事です。

 その時点では正解が分からない、若しくは唯一無二の正解が無い。そして、誰も正しいとは言ってくれない。その設計で本当に良いのか?その予想で本当に良いのか?設計の場合は試作品の検証を行うまで、予報の場合は実際に「その時」が来るまで・・・成否は分からない、と言う事です。「その時点」では本当にそれで良いのか分からない、というある種の不安が絶えず付きまとうのです。だからこそ機械設計の場合は不確定要素に備え「安全率」を設けて設計に反映し、局地予報においては多少の幅を持たせた予想を行うのです。

 設計の場合は、実験を繰り返して製品(試作品)を評価し、次の設計に反映させていきます。予報の場合は、実地観測を行い、予報の基本的な根拠として、また精度評価に役立てていきます。

 その一方で現実問題としては、実際の大気現象は実物の実験が出来ません。機械設計の場合も試作品を用いての実物評価はコストが掛かります。そこで、先の記事でも述べた通り、コンピューターによるシミュレーション(CAE解析)が役立てられます。しかし、その数値モデルもこれまでに積み重ねられた知見を基に構築されているため未知の影響は考慮されておりません。

 結局、どれだけモデルが進化したとしても、最後に決断をするのが人間である事は、機械設計と局地予報でも変わりないのです。

 ただ、予報を設計に例えようとする試みに対しては、最終的なアウトプット(製品)を実際の大気現象と解釈すると、一抹の違和感を覚えるかも知れません。大気現象は物理学の法則に従っているとは言え、人間がその全てを解明した訳でもなければ、自由自在に制御できる訳でもないのです。しかし「現象の予想」それ自体が人間のアウトプットと解釈すると、より趣旨が伝わると思います。

 また、設計はある種「創造的」な作業であるが、予報業務は果たして創造的な作業と言えるのか?という疑問もあるかも知れません。これは各人の主観に委ねられる部分かと思いますが、私は「創造性」を有していると感じています。むしろ、この創造性をどれだけ発展させる事が出来るのかが、これからの自分にとって大きな課題になるとさえ感じています。

 私が最初に入社した半導体企業の新人研修での技術開発部トップの言葉で印象に残っている言葉があります。

「既に分かっていることをやるのが学校であり、未知の事をやるのがエンジニアだ」

 未知の問題にアプローチするにしても、実際にはこれまでに培った知見やノウハウの組合せや応用です。局地的な現象をとらえるにしても、同じ事が言える筈です。気象予報士試験では特定地域の局地的な気象特性に関する事は問われる事は、殆どありません(最近はどうかは分かりませんが、私が受験した当時は)。このような分野はむしろ、気象予報士になってから自分たちで切り開いていくべきなのだと思います。自分なりに研究を行い、それを通じて見出していかなければならないものの範疇でしょう。設計もまた、様々な経験を通じて、より良い設計のノウハウを培って行かなければならないのです。

 私もこれまで、局地気象にアプローチする手法を色々を試行錯誤してきました。現象を表現するモデリングについても、アイデアを思いついては失敗→ボツの繰り返しでした。これからも色々なアイデアを思いついては試し、ボツにする事の連続でしょう。しかし、その中から幾つかでも、有効な知見が得られれば良いと思っています。熱流体シミュレーション解析についても、さらに勉強していかなければならないのですが、その他にも色々な応用解析の技術も学ばなければなりません。

 現在の高水準のテクノロジーで、大規模スケールでの動きはそれなりに高い精度で予想されるようになりました。そして、今度はそのような大規模場が形成された結果、局地ではどのような現象が起こりうるのかがむしろ重要な問題となりました。この部分が特に難しく、最近報道で取り上げられるゲリラ雨等は本当に恐ろしいものです。

 マーケットに目を向けて、気象ビジネス市場が頭打ちとなっている現状を見るに、ただ天気を予報するだけならば、気象庁並びに代表的な気象情報会社で十分なのかも知れない・・・とさえ思う事があります。むしろ、気象情報を価値ある「ツール」に発展させ、気象の影響を受ける問題の解決に活路を開く事こそ、目指すべき方向性であり、未来の現象を予報する事「だけ」が諸課題の解決の方法ではないのかも知れません。ただ、他にどのような方法があるのか・・・と問いかけについては今尚、日々その答えを模索しております。

 これまでの気象に関する知見やデータを「活かす」と言う視点に立って、新しい方向性を考えてみたい、そう思う今日この頃です。様々な産業において、どのような問題が存在するのか、そして解決策について、今までも、そしてこれからも追及して行きたいと思っています。

 それはすなわち、目の前に立ち塞がる課題を解決に導くために「自分なりの答えを導き出す」事の連続であり、そこには各々の創造性を存分に発揮する余地は大いに残されているのです。

 そんな事を考えているうちに、機械設計と局地予報・・・意外に似ているんじゃないか?そんな気がしてきました・・・。
コメント
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