計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

4種類の線状降水帯

2022年06月20日 | お天気のあれこれ
 暦も6月に入り、梅雨前線の季節が近づいてきました。豪雨などの大雨に伴う被害が未然に防止されることを願って止みません。

 梅雨の時期はやはり「大雨」が気になります。集中豪雨のような大雨において重要な要因は、下層約1kmまでの範囲内に含まれる水蒸気量です。また、大雨がもたらされた結果、その上空3km程度の高さで湿舌が形成されます。

 さて、暖かく湿った空気が流れ込む等の要因で、大気の状態が非常に不安定になると、活発な対流が起こりやすくなります。このような場において、地形の影響等から誘発された上昇気流に伴って積乱雲が発生します。

 そして、様々な条件が重なると、積乱雲が列を成すような線状の激しい降水域(線状降水帯)が形成されます。今回は、線状降水帯の主な4つのパターンについて簡単なイメージを描いてみました。

(1) バックビルディング型

 下層の風と中層の風の向きが同じ場合、発生した積乱雲は中層の風に伴って風下側に移動します。そして、この背後には新たな積乱雲が発生します。

 このように同じ場所(後方)で積乱雲が次々に発生するパターンを「バックビルディング型」と言います。なお、バックビルディング型の線状降水帯については、過去にこちらの記事にも書きました。




(2) バックアンドサイドビルディング型

 下層の風と中層の風の向きが直向する場合、発生した積乱雲は中層の風に伴って風下側に移動します。ただ、下層の風が側方から加わるので、積乱雲の移動方向は少しずつ斜めに傾いていきます。そして、この積乱雲の背後や側方で新たな積乱雲が発生します。

 このように後方に加えて側方でも積乱雲が次々に発生するパターンを「バックアンドサイドビルディング型」と言います。上から見ると、雲や雨の領域は細長い三角形(ニンジン型)を形成しています。(中層の風の)風下側を頂点とし、風下に向かって横幅が広がるためです。




(3) スコールライン型

 下層の風と中層の風の向きが逆向きの場合、両者のぶつかり合う領域(収束帯)で上昇気流を生じます。この上昇気流に伴って積乱雲が発達するため、収束線収束帯)に沿って幾つもの積乱雲が列を成すような形となります。このようなパターンを「スコールライン型」と言います。


(4) 破線型

 局地前線上に暖かく湿った空気が流入することで、前線上に積乱雲が発生します。もともとは、前線上に個々の積乱雲が生じるため、破線を描くような形となります。これらの積乱雲の発達に伴い、その領域が広がることで線状の降水帯となります。



 日本で多く見られるのは、「バックビルディング型」と「破線型」と言われています。

 ※以上、4つのパターンについて紹介しましたが、実際の雲列を取り巻く風の流れはとても複雑です。その詳しい立体構造については、この記事では割愛しています。

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オメガ方程式のイメージ

2022年06月12日 | お天気のあれこれ
 気象予報士試験の勉強では必ず登場する「オメガ方程式」。その姿は見る者を圧倒します。



 少し解りやすくするために、次の2つの式を適用すると



 このように書き直すことができます。


 鉛直運動(鉛直流の分布)は「渦度移流の鉛直シア」と「温度移流」によって生じる、という意味です。また、上の式には書いておりませんが、「非断熱効果」を加えることもあります。

 数式自体が長く、複雑な形をしているので、その意味するイメージを描きにくいのが特徴です。試験対策としては、「鉛直流」の要因を考える際は「渦度移流の鉛直シア」「温度移流」あとは「非断熱効果」に着目する、と言うことを押さえておけばよいでしょう(実際、私がそうでした)。

 この記事では、「ごく簡単な条件」を想定することで、この複雑・難解な「オメガ方程式」のイメージを読み解いていきます。

 例えば、次のような場を考えてみましょう。x軸は東西方向、y軸は南北方向を表します。ここで、擾乱はy軸,p軸方向に一様とし、鉛直シアを持つ西風の一般流U(p)の場に重なるものと仮定します。


 今回は4つの等圧面(500,700,850,1000hPa)に着目します。
 想定する領域の長さをLxとし、500hPa面は渦度ζw500(西端)とζe500(東端)、700hPa面は鉛直流ω700(中央)、そして850hPa面は温度Tw850(西端)とTe850(東端)とします。また、一般流として等圧面毎にU500、U700、U850、U1000とします。これらは一様に西風とします(但し、上空ほど速度が増す)。

 つまり、「500hPa面と1000hPa面の間の渦度移流の鉛直シア」および「850hPa面の温度移流」から「700hPa面の鉛直流」が決まることを考えています。FAX天気図のイメージです。

 擾乱はy軸,p軸方向に一様と仮定したので、これらの物理量は「x軸方向のみ」を考えます。



 ここで、解ωの関数形について、次のような三角関数で表すことができると仮定します。



 続いて、微分演算子、一般流の鉛直シア、1000hPa面の一般流を次のように近似します。



 以上を「x軸方向のみ」のオメガ方程式に適用すると、次のような式が得られます。



 こうして簡単な代数方程式の形に帰着しました。あとは右辺の各項について見てみましょう。

右辺第1項について
・ζe500<ζw500 ⇒ (-ω700)>0 の側に作用する(上昇流)
・ζe500>ζw500 ⇒ (-ω700)<0 の側に作用する(下降流)

右辺第2項について
・Te850>Tw850 ⇒ (-ω700)>0 の側に作用する(上昇流)
・Te850<Tw850 ⇒ (-ω700)<0 の側に作用する(下降流)

 このように、渦度や温度の「移流」が「傾き」の形で表現されるので、イメージがつかみやすくなります。
 
 さて、上昇流となる場合のイメージ図は既出ですので、下降流となる場合のイメージ図も掲載しておきましょう。


 ちなみに、Qベクトルを用いると、オメガ方程式は次のように書き表されます。


 とってもシンプルになりました。
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水平温度場の変化と鉛直循環を結ぶQベクトル

2022年06月11日 | お天気のあれこれ
 1か月ほど前の記事「前線形成と鉛直循環の励起」では、水平面上において地衡風による温度場(温位場)の変化が生じると、二次的な鉛直循環が励起されることを紹介しました。

 そして、この鉛直循環は、地衡風による温度場(温位場)の変化によって生じた温度風バランスの崩れを解消する(基に戻す)働きを持っていました。


 水平面で地衡風の収束が生じ、フロントジェネシス(前線強化・温位傾度が増大)を生じると、鉛直面ではフロントリシス(前線消滅・温位傾度が減少)の二次循環を生じます。

 一方、水平面で地衡風の発散が生じ、フロントリシスを生じると、鉛直面ではフロントジェネシスの二次循環を生じます。

 このような「水平面上の温度場(温位場)の変化」と「鉛直循環の発生」を関連付ける指標として「Qベクトル」が用いられます。Qベクトルの定義は、主に次の式が用いられます。


 この式を、水平面上におけるフロントジェネシスとフロントリシスの各ケースについて適用してみます。まずは、各ケースについて、ごく簡単な条件を設定してみましょう。



 水平面(x-y平面)上に等温線を3本引いています。つまり、y方向に温度傾度を生じています。ここで、同じくy方向の地衡風を仮定します。

 いま、対象領域(水色の正方形の中心「●」におけるQベクトルを考えます。簡単のため、正方形のx方向、y方向の距離(Δx、Δy)は単位長さ(=1)とします。

 フロントジェネシス(左側)では、y方向の地衡風(上・-v,下・+v)が対象領域の中心に向かうように収束しています。このため、温度傾度が増大する等温線の間隔が狭まる)ように推移します。

 フロントリシス(右側)では、y方向の地衡風(上・+v,下・-v)が対象領域の中心から離れるように発散しています。このため、温度傾度が減少する等温線の間隔が広がる)ように推移します。

 各ケースで仮定した条件をQベクトルの定義式に適用します。


 このように、各ケースにおけるQベクトルが得られました。式だけを見ても判りにくいので、先ほどの図にQベクトルを重ねて書いてみます。Qベクトルは赤で示しました。



 フロントジェネシスの場合(左側)、Qベクトルはy軸負の向きとなりました。等温線に垂直で、暖気側を指しています。

 フロントリシスの場合(右側)、Qベクトルはy軸正の向きとなりました。等温線に垂直で、寒気側を指しています。

 それで、Qベクトルと鉛直循環の間にはどのような関係があるのでしょうか。冒頭の図に倣って、立体的に考えてみましょう。


 冒頭の図をベースにQベクトルを重ねてみました。この結果、Qベクトルの指す側で上昇流、反対側で下降流となるような鉛直循環が励起されることが判ります。


 ここまでは、水平面上における等温線と地衡風が垂直に交わる場合を考えてきました。続いては、等温線と地衡風が互いに斜めの場合を考えてみましょう。


 今回は一例として、斜めの地衡風に伴って温度場自体が(等温線の間隔を保ちながら)回転するような場合を想定してみます。

 上の図で仮定した条件をQベクトルの定義式に適用します。


 得られたQベクトルを、図に重ねて書いてみます。これまでと同様にQベクトルは赤で示しました。

 Qベクトルはx軸、y軸共に正の向きとなりました。等温線に平行な向きを指しています。

 さて、一般的なQベクトルと鉛直流の関係については、Qベクトルを用いたオメガ方程式で説明されます。この辺の話はまたの機会に。
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ジェットストリークと鉛直循環の励起

2022年05月21日 | お天気のあれこれ
 先日の記事「前線形成と鉛直循環の励起」では、下層の水平面上における前線の形成や消滅に伴って、鉛直面上にも二次循環が現れる、と言う話題に触れました。

 そこで、今回は上空の水平風の強弱に伴って生じる鉛直循環の話題に触れたいと思います。上空のジェット気流の中で、特に風速の大きい領域を「ジェットストリーク」と言います。

 次の図では、ある等圧面上のジェット気流の様子を模式的に表してみました。左側が西(風上)、右側が東(風下)に相当します。


 等圧面高度は下(南)から上(北)に掛けて低下します。ジェット気流を流れる空気塊に着目すると、北向きに気圧傾度力、南向きにコリオリ力が働いており、この両者が釣り合った地衡風となっています。

 (1)の段階では等高度線の間隔は広く、(2)の段階に進むとその間隔が狭くなっています。その後、(3)まで進むと再び間隔は広がる場を想定します。

 (1)→(2)の変化では、等高度線の間隔が狭まるので、気圧傾度力は強まります。これに伴い、コリオリ力も順応して強まります。両者の釣り合いの結果、地衡風の速度も大きくなります

 (2)→(3)の変化では、等高度線の間隔が広がるので、気圧傾度力は弱まります。これに伴い、コリオリ力も順応して弱まります。両者の釣り合いの結果、地衡風の速度も小さくなります

 このように、風上から風下にかけて等高度線の間隔が変化するのに伴い、気圧傾度力も変化します。ただし、気圧傾度力の変化コリオリ力の順応常に同時に進むわけではありません



 (1)→(2)に変化する途中の(1)’では気圧傾度力が強まるのに対し、コリオリ力の順応が遅れています。地衡風のバランスが崩れ、気圧傾度力の方が強い状態となり、空気塊は北側に引き寄せられようとします。つまり、従来の地衡風(西風成分)の他に、新たに非地衡風成分(南風成分)が励起されます。

 (2)→(3)に変化する途中の(2)’では気圧傾度力が弱まるのに対し、コリオリ力の順応が遅れています。地衡風のバランスが崩れ、コリオリ力の方が強い状態となり、空気塊は南側に引き寄せられようとします。つまり、従来の地衡風(西風成分)の他に、新たに非地衡風成分(北風成分)が励起されます。

 このように、コリオリ力の順応の遅れに伴って、(過渡的に)地衡風のバランスが崩れ、新たに非地衡風成分が励起されます。さらに、この非地衡風成分によって二次的な鉛直循環が作り出されます。


 風上側(1)’の循環は直接循環であり「フロントリシス」に対応します。(1)→(2)の変化は等高度線の間隔を狭める(フロントジェネシスに相当する)ものであるため、この状態を解消する(等高度線の間隔を広げる)方向に働きかける循環が現れます。

 風上側(2)’の循環は間接循環であり「フロントジェネシス」に対応します。(2)→(3)の変化は等高度線の間隔を広げる(フロントリシスに相当する)ものであるため、この状態を対抗する(等高度線の間隔を狭める)方向に働きかける循環が現れます。

 この結果、上層では次のような収束域と発散域を生じます。


 この図のように、下層からの上昇流が上層に達すると発散域となる一方、上層で収束すると下降流に転じます。
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前線形成と鉛直循環の励起

2022年05月10日 | お天気のあれこれ
 前回の記事「前線形成関数を構成する4要素」の続編です。

 前回の記事で述べたように、前線付近では温位傾度は増大します。このため、等圧面における温位傾度の時間変化で定義される「前線形成関数」を用いて、温位傾度の変化を評価します。

 今回は、水平面上の温位傾度の変化によって励起される「二次的な鉛直循環」(ソーヤー・エリアッセンの鉛直循環)について扱います。以下、フロントジェネシス(温位傾度が増大)する場合と、フロントリシス(温位傾度が減少)する場合について各々考えてみます。


【(1)フロントジェネシスに伴う直接循環の励起】


①初期状態

 等温位線は水平面上には横向きに、鉛直面上では傾斜している状態を想定します。また、水平面上では手前側が暖気(高温位)、奥側が寒気(低温位)に相当します。また、赤矢印は上層・下層における相対的な風速を表しており、互いに温度風の関係を満たした状態にあると考えます。つまり、風の鉛直シアのバランスが取れた状態と言うことです。

②前線形成

 このように温位傾度が増大すると温度風が強化されるので、上空ほど西風が強まります。このため、風の鉛直シアのバランスが崩れます


③鉛直循環(二次循環)

 上記のフロントジェネシスに伴って生じた「風の鉛直シアのアンバランス」を解消するため、温位傾度を基に戻そうとする「直接循環」が励起されます(上図右側・前線消滅を参照)。これは、前線形成関数の「立ち上がり項」がフロントリシスの側に働くことに相当します。

※上図では、左側と右側・前線消滅では等温位線の傾きが逆向きに描かれています。これは、直接循環によって等温位線の傾きが逆向きに誘導されるという趣旨です。


 ただし、合流項・シアー項はフロントジェネシスの側に働き、また非断熱項の影響も加わるため、(各項の綱引きの結果)温位分布は新たな均衡状態に落ち着きます。そして、この新しい温位分布の下で風の鉛直シアのバランスが再構築されます。この結果、下層では温位傾度が強く、上層に行くほど温位傾度は弱まります。


【(2)フロントリシスに伴う間接循環の励起】


①初期状態

 先の「(1)フロントジェネシスに伴う直接循環の励起」と同じです。こちらでは、予め「温位傾度が大きい状態」で風の鉛直シアのバランスが取れた状態を想定しています。

②前線消滅

 このように温位傾度が減少すると温度風が弱まるので、上空の西風も弱まります。このため、風の鉛直シアのバランスが崩れます


③鉛直循環(二次循環)

 上記のフロントリシスに伴って生じた「風の鉛直シアのアンバランス」を解消するため、温位傾度を基に戻そうとする「間接循環」が励起されます(上図右側・前線形成を参照)。これは、前線形成関数の「立ち上がり項」がフロントジェネシスの側に働くことに相当します。

 ただし、合流項・シアー項はフロントリシスの側に働き、また非断熱項の影響も加わるため、(各項の綱引きの結果)温位分布は新たな均衡状態に落ち着きます。そして、この新しい温位分布の下で風の鉛直シアのバランスが再構築されます。

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前線形成関数を構成する4要素

2022年05月09日 | お天気のあれこれ
(1)2次元流れの変形・渦度・発散

 2次元の流れを考える上で、流体のある微小片に着目すると、この後の変化の仕方は大きく4つのパターンに分類することができます。


 ここで、微小片の変形前を灰破線の正方形、変形後を黒実線、また変化に伴って微小片が動く方向を赤矢印で表現しています。

【左上・合流変形】
 一方の軸方向に縮む一方、もう一方の軸方向に伸びるような変形です。上の図では微小片に向かって、上下からの流れが合流し、その後左右の両側に広がっています。この場合の横軸(黄緑色)を拡大軸と言います。

【右上・シアー変形】
 合流変形が縦横の軸から傾いた形です。上の図では微小片に向かって、左上と右下からの流れが合流し、その後左下と右上の両側に広がっています。この場合の左下から右上に向かう傾斜した軸(黄緑色)が拡大軸になります。

【左下・渦度】
 微小片が流れの中で回転するパターンです。上の図では反時計回りに回転しています。これが正の渦度です。また、時計回りに回転する場合は負の渦度となります。

【右下・発散】
 微小片が内側から外側に向かって湧き出るように拡大する形です。上の図では赤の矢印が全て外側を向いています。これが正の発散です。一方、赤の矢印が全て内側を向くと、微小片は内側に向かって吸い込まれるように縮小します。これが負の発散(収束)に当たります。


(2)前線形成関数とは

 さて「前線」とは、寒気と暖気がぶつかり合う際の境目として現れます。詳しいことは過去の記事「地上天気図の見方・ポイント解説」を御参考下さい。要は、寒気の流れと暖気の流れがぶつかる領域(前線帯)が発生すると、そこでは等温線が帯状に密集します。つまり、温度傾度の大きな帯状の領域が現れるのです。

 ここでは、寒暖の度合いを表す指標として「温度」ではなく「温位」を用います。温位については、過去の記事「温位=ポテンシャル温度・・・これは一体、何なのか?」で述べています。こちらも併せて御参考下さい。

 あらためて「寒気と暖気がぶつかり合う」と言うことは、水平面上では「合流変形」や「シアー変形」を生じることになります。また、この他にも鉛直流の影響非断熱効果による影響も加わり、明瞭な前線が形成(温位傾度が強化)されます。この温位傾度の指標として用いられるのが「前線形成関数」です。これは等圧面における温位傾度の時間変化で定義されます。

 前線形成関数Fは、合流項Fc、シアー項Fs、立ち上がり項Ft、非断熱項Fdの和で表されます。F>0ならば前線は形成・強化され(温位傾度は増大:フロントジェネシス)、F<0ならば前線は衰退・消滅に向かいます(温位傾度は減少:フロントリシス)。


(3)前線形成関数を構成する4要素

 上述の通り、前線形成関数Fは「F=Fc+Fs+Ft+Fd」と表されます。そこで、右辺の各項のイメージについて各々述べていきます。


≪合流項:Fc≫

 合流項は、流れの「合流変形」に伴う影響を表しています。次の図では「水平面上における流れ場」を考えます。上下から流入した流れが中ほどでぶつかった後、左右両側に抜けていくことを想定しています。従って、拡大軸は横向きとなっています。


 この図の上段と下段では等温位線の向きが異なります。上段では下側が暖気、上側が寒気となっており、上下方向に温位傾度を生じています。一方、下段では左側が暖気、右側が寒気となっています。こちらは、左右方向に温位傾度を生じています。

 上段の場合、上下の流れが拡大軸に向かうのに伴って、上側からの寒気移流と下側からの暖気移流を生じ、拡大軸の上下にある等温位線が互いに近づいてきます。つまり、拡大軸付近の温位傾度が増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。

 下段の場合、上下の流れが拡大軸に沿って左右に抜けていくのに伴って、左側の暖気はより左側に、右側の寒気もより右側に運ばれていきます。このため、等温位線が互いに離れて行き、温位傾度は減少します(フロントリシス)。


≪シアー項:Fs≫

 シアー項は、流れの「シアー変形」に伴う影響を表しています。次の図も「水平面上における流れ場」を考えます。先の「合流変形」の流れと本質的には同じものですが、こちらでは拡大軸が傾いているのが特徴です。


 この図の上段と下段では等温位線の向きが等しく、下側が暖気、上側が寒気で、上下方向に温位傾度を生じています。また、等温位線に対して、拡大軸が角度α°だけ傾いています。上段では傾斜角α°が45°より小さく、下段では傾斜角α°が45°より大きい点が異なります。

 上段の場合、上下の流れが拡大軸に向かうのに伴って、上側からの寒気移流と下側からの暖気移流を生じ、拡大軸の上下にある等温位線が(傾斜しながら)互いに近づいてきます。つまり、拡大軸付近の温位傾度が増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。

 下段の場合、上下の流れが拡大軸に沿って左下・右上に抜けていくのに伴って、下側の暖気はより左下側に、上側の寒気もより右上側に運ばれていきます。このため、等温位線が(傾斜しながら)互いに離れて行き、温位傾度は減少します(フロントリシス)。


≪立ち上がり項:Fs≫

 立ち上がり項は「鉛直流」に伴う影響を表しています。次の図は「鉛直面上における流れ場」を考えます。等温位線は鉛直方向でも傾きを持っており、「寒」は低温位側、「暖」は高温位側を表しています。次の図ではいずれも下層が低温位側(「寒」)、上層が高温位(「暖」)を想定しています。


 上段では、左下から右上にかけて温位が増す分布を想定しています。また、鉛直流は左側に行くほど上昇流、右側に行くほど下降流が強まっています。つまり、間接循環の場(寒気側で上昇流、暖気側で下降流)となっています。この場合、下層からの寒気(低温位)移流と上層からの暖気(高温位)移流に伴い、左上から右下にかけて等温位線が互いに近づくため、温位傾度が増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。

 下段では鉛直流が左側に行くほど下降流、右側に行くほど上昇流が強まっています。つまり、直接循環の場(寒気側で下降流、暖気側で上昇流)となっています。この場合、温位傾度を弱める方向に働きます(フロントリシス)。


≪非断熱項:Fd≫

 非断熱項は非断熱効果に伴う影響を表しています。次の図は一例として、日射に伴う加熱を挙げてみます。次の図も「鉛直面上における流れ場」を考えています。


 ここでは、左下から右上にかけて温位が増す分布を想定しています。また、図の左側では雲が広がる一方、右側では日射し優勢となっています。左側は雲に覆われるため、加熱がなかなか進まず、温位の分布はそれほど変化しません。一方、右側は日射に伴って加熱が進み、温位が上昇するため、温位傾度も増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。
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春の訪れと積算最高気温

2022年03月14日 | お天気のあれこれ
 暦は3月を迎え、いよいよ春の足音が聞こえてみました。
 さて、この時期に参考になる積算最高気温の目安として次のようなものがあります。

1月1日から日々の最高気温を足して、300~350℃が東日本で花粉飛散が始まる目安。
2月1日から日々の最高気温を足して、600℃サクラの開花時期の目安。

 そろそろ花粉も飛び始めているようです。気温も上がってきているので、サクラの生育も進みそうですね。

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温室効果の仕組みをどのように理解するか

2021年11月14日 | お天気のあれこれ
 今回は、前回の記事「気候変動の背景をどのように理解するか」の続編になります。

 前回は、平均気温の上昇傾向を取り巻く背景について、メモを記載しました。そこでは「人間活動に伴う温室効果ガスの増加がトリガーとなり、水蒸気フィードバックを通じて気温上昇に寄与している」との考え方を示しました。しかしながら、肝心の「温室効果」そのものには触れておりませんでした。

 そこで今回は「温室効果」にスポットを当てて、メモの続きを書き記したいと思います。今回の前半は「マクロの視点」で放射平衡と大気層の影響に着目し、後半では「ミクロの視点」で赤外吸収と分子の動きに着目します。


【マクロの視点(温室効果とは何か)】

 物体が発する熱が電磁波の形となって伝わる現象を「放射」と言います。太陽から発せられる放射(太陽放射)は地球にも降り注ぎ、地球上の大気大循環を駆動する源となっています。


 太陽放射の強さはS≒1370[W/m2]であり、これを太陽定数と言います。地球を球体と仮定した場合の半径をRとすると、πR2の面積に相当する放射エネルギー(SπR2)が地球に降り注ぐことになります。この放射は、地球の表面積の半分の領域(太陽に向いている側)で受け取ります。

 一方、地球の表面(大気の上端)で太陽放射の一部を反射します。その割合(アルベド)は、A≒0.3とされています。従って、地球大気に降り注ぐ太陽放射はS(1-A)πR2となります。


 一方、太陽が放射を発するように、地球もまた放射を発します(地球放射)。この放射は常に全ての表面積(4πR2)から発せされます。いま、地球表面の平均温度をTeとすると、放射エネルギーIはステファン・ボルツマンの法則から「I=σTe4」で表されます。ここで、σは比例定数(ステファン・ボルツマン定数)です。

 すなわち、地球は太陽からエネルギー(熱)を吸収する一方で、自らもエネルギー(熱)を宇宙に放出しているのです。この両者のバランスによって地球表面(地表面)の平均温度Teが決まります。


 それでは、上の図のように太陽放射I0と地球放射σTe4のバランスによって、地球表面における平均的な温度Teが決まると考えてみましょう。つまり、次の方程式を解いてTeを求めます。

0=S(1-A)πR2

0=4πR2σTe4 (※11/16修正)

 ところが実際に解いてみると・・・Teの値は「254K」つまり「-19℃」となります。この温度を放射平衡温度と言いますが、それにしても現実とはかけ離れた値です(こんなに寒いわけないでしょ・・・)。

 要するに、単純に太陽放射と地球放射のバランスを考えるだけでは不十分と言うことです。そこで新たに「大気の影響」を加えて考えることにしましょう。ここでは簡単のため、大気を均一な一層構造とします。

 太陽放射I0は、その一部αI0を大気層に吸収され、残り(1-α)I0が地表面に到達します。また、地球放射Ieはその一部βIeを大気層に吸収され、残り(1-β)Ieが宇宙空間に放出されます。(ここで、0<α<1,0<β<1です)

 大気層は、吸収したαI0とβIeにより温度をTaに保ちます。さらに、地表面と宇宙空間に向かって各々σTa4を放出します(熱の再分配)。つまり、次の連立方程式が成り立ちます。

0=S(1-A)/4=σT04 (※11/16修正)

e=σTe4

αI0+βIe=2σTa4

(1-α)I0+σTa4=Ie

 これを解いてみると・・・Teの値は「288K」つまり「+15℃」となります。今度は現実的な値になりました。この結果から、太陽放射と地球放射に加えて大気層の存在を考慮することが大切、ということが判りました。

 もし、大気層が存在せず、地球の表面温度が太陽放射と地球放射のバランスのみで決まるのであれば、その温度は非常に低くなります。しかし実際には大気層が存在し、地球放射が宇宙空間にそのまま全てが逃げるのを防ぐことで、地球の表面温度は温暖な水準に保たれています。

 このプロセスはまるで「大気の層が布団のような役割を担っている」ようにも見えます。これが「温室効果」のイメージです。そして、この「温室効果」の本質を担うのが、大気中に含まれる「温室効果ガス」と呼ばれる成分です。


【ミクロの視点(温室効果ガスとは何か)】

 ここからはさらにミクロな視点で考えます。まずは、下図に空気を構成する主な成分(分子)の種類を挙げてみます。


 見ての通り、乾燥空気の約99%は酸素(O2)と窒素(N2)です。残り1%の中に水素(H2)や二酸化炭素(CO2)などが含まれます。また、実際の空気における水蒸気(H2O)の比率は定まっていません。そして、二酸化炭素(CO2)や水蒸気(H2O)は温室効果ガスである一方、酸素(O2)、窒素(N2)および水素(H2)は温室効果ガスではありません。

 さて、あらためて注目したいのは、二酸化炭素(CO2)の比率は僅か0.03%であるということです。換言すれば、これほど微量の存在が地球温暖化のような大きな影響を引き起こし得るのか、と疑問にさえ感じます。

 しかしながら、「存在自体は微々たるものであっても、大きな影響を及ぼし得る」事例は身近にもあるものです。例えばウイルスなどは非常に小さい存在ではありますが、人間の体に大きな影響を及ぼすことがあります。つまり、存在自体は微々たるものでも、何らかの特徴や能力を持っていれば、自分よりも巨大な存在に影響を及ぼす可能性はあり得ます(少なくとも否定はできません)。

 ここでは、その「特徴や能力」の一つとして「温室効果」について深堀して行きます。まずは、黒体放射の性質について概観しましょう。熱の伝わり方には大きく分けて、熱伝導熱伝達熱放射の3つの形があります。その中の「熱放射」(以下、「放射」)とは、熱を「電磁波」の形でやり取りする形態です(他の2つは割愛します)。


 あらゆる物体(物質)は、外部からの熱を放射電磁波)という形で吸収し、また外部に熱を放射電磁波)の形で放出する性質を持っています。しかし、現実には外部からの放射を全て吸収しているのではなく、一部を反射しています。また、電磁波にはさまざまな波長が含まれているので、物体(物質)によって吸収しやすい波長帯とそうでない波長帯もあります。

 そこで、外部から受けた放射を波長に関わらず全て吸収し、再び外部に放出する理想的な物体を仮定します。これを「黒体」と言います。黒体は受けた放射を全て吸収すると同時に、その分だけ自らも放射(黒体放射)します(よく吸収する黒体は、よく放射します)。その際に含まれる波長帯(正確にはピークの波長)は、黒体の表面温度に反比例します(ウィーンの変位則)。

 要するに「高温の黒体から発せされる放射の波長は短いものが多く、低温の黒体から発せられる放射の波長は長いものが多い」と言うことです。波長の短い電磁波(短波)には紫外線可視光線が含まれ、波長の長い電磁波(長波)には赤外線などがあります。

 ちなみに、太陽放射は短波放射、地球放射は長波放射または赤外放射とも呼ばれます。太陽は高温なのでピーク波長は短くなる一方、地球はより低温なのでピーク波長が長くなるためです。しかし実際は、太陽放射には様々な波長の電磁波が含まれています。紫外線や可視光線などの短波をピークとしつつも、赤外線などの長波もしっかり含んでいます。このため、太陽の光は眩しいほどに明るく、しかも熱を持っていて温かいのです。


 さて、短波と長波では、物質を構成する原子や分子に与える影響が異なります。短波は原子の中にある電子の状態に変化を与えます。一方、長波は分子の動きに変化を与えます。


 原子の構造については「ボーアの原子模型」が有名です。これは「電子が原子核の周囲を円運動する」と言うものです。上の図のように電子がぐるぐると回る軌道は、原子核を中心とする同心円状に複数存在します。

 各軌道には内側(原子核の近く)から順に、K殻L殻M殻・・・と名前がついています。また、外側の軌道ほどエネルギーレベル(エネルギー準位)の高い状態となります。


 原子内部に短波が吸収されると、電子はより外側の軌道に飛び移ります(電子遷移)。吸収された短波によってエネルギーがもたらされるため、電子のエネルギーレベルが上がるのです。

 この状態から電子が再びもとに軌道に戻る(電子遷移)ためには、外部に余分なエネルギーを放出する必要があります。この場合、エネルギーを短波として放出します。これに伴い、内部の電子のエネルギーレベルは下がり、電子は再び元の軌道(状態)に戻ります。

 ちなみに高度100km以上の大気では、太陽からの紫外線による光電離作用で生じた電子が多数存在し、電離層を形成しています。


 続いては、長波の影響です。長波は「分子の動き」に影響を及ぼします。

 空気中の分子が長波を吸収(赤外吸収)すると、その動き(熱運動)が活発になります。これに伴い、熱が発生します(電子遷移は起こりません)。また、原子間の結合部が伸縮して振動を生じます。この振動に伴い、分子は電磁波(長波)を発します。

 このように、長波は分子の動きを通して「熱的な影響」を及ぼすと言えるでしょう。つまり、地表面や周囲の分子から放出される長波を吸収し、自らの熱運動を活発化すると共に、分子振動のエネルギーを再び長波として周囲に放射再分配)します。この過程が大気中のあちこちで繰り返されることで、まるで布団のような「温室効果」を生み出しているのだと理解できます。

 また、分子を構成する原子間の結合部における伸縮は、大きく分けて「対称伸縮振動」と「逆対称伸縮振動」の2種類があります。分子構造と伸縮振動の組合せに応じて、赤外吸収(放射も含む)が起こる場合と起こらない場合があります。簡単にまとめると、次の表の通りです。



【参考文献】 日本分光(株),「FTIRの基礎(1) 赤外分光法の原理」 を基に作成
 https://www.jasco.co.jp/jpn/technique/internet-seminar/ftir/ftir1.html

 上の表から、窒素分子(N2)や酸素分子(O2)、水素分子(H2)は同一元素の原子2個が直線状に結合し、逆対象伸縮振動を行わないため、赤外吸収は生じません。つまり、温室効果ガスにはなれません。

 二酸化炭素分子(CO2)は異なる元素の原子が直線状に結合するため、赤外吸収が生じる場合と生じない場合があります。また、水蒸気分子(H2O)は異なる元素の原子が非直線状に結合するため、赤外吸収を生じます。これらの「赤外吸収を生じる」分子だけが、温室効果に寄与する(温室効果ガスになる)のです。

 さて、二酸化炭素(CO2)の存在比率それ自体は非常に微小なものです。しかし、その増加に伴って海面からの蒸発が徐々に促され、大気中の水蒸気(H2O)量が次第に増すことで、トータルとしての温室効果が増大します。このような「水蒸気フィードバック」については、前回の記事で述べた通りです。
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気候変動の背景をどのように理解するか

2021年11月06日 | お天気のあれこれ
 私は本来「ローカル気象」を専門としています。気候変動のような「グローバル気象」の問題とは対極にあります。しかし、最近は何かと「独自の見解」を問われることが多くなりました。いわば「必要に迫られて」勉強しているようなものです。

 また、気候変動などのグローバル気象は、関係する専門分野が余りにも広大で、またバラエティに富む議論も盛んに行われております。そこで、それらの理解のための一つの「取っ掛かり」や「たたき台」として、ここにメモを書き記します。私もそうですが、読者各位の勉強の一助となれば幸いです。

 まずは、世界と日本の気温の変化を見てみましょう。気象庁HPに掲載されている観測データを基に、直近130年程度の年平均気温偏差の変化をグラフに表してみました。


 このグラフからは確かに気温上昇の傾向(上昇トレンド)が認められます。小刻みのアップ・ダウンはあるものの、長期的には緩やかな上昇傾向が現れています。この背景には「人為的要因」と「自然変動」が挙げられます。

 この2つの要因について深堀するべく、例えば次のような「特性要因図」の形で整理することができます。ここでは、自然変動について簡単のため「地球内変動」と「地球外変動」の2つに集約しています。前者は主に大気・海洋などに関する変動、後者は主に太陽活動などの影響を想定しています。


 また、世界規模(グローバル)の気温上昇と地域規模(ローカル)の気温上昇を混同してはいけません。ある地域の気温上昇には、グローバルとローカルの両方の影響が含まれます。グローバルの気温上昇は、いわば「ベースライン」の上昇です。さらにローカルの事情として土地利用の変化に伴うヒートアイランド現象など、その地域に特有の影響が加わるのです。つまり、次の式のように考えます。

(ある地域の気温上昇)=(グローバルの気温上昇)+(ローカルの気温上昇)

 続いて、気候変動のプロセスを「フローチャート」の形に整理してみました。ここで「フローチャート」が登場するというのは、情報処理の名残ですね。


 出発点は「人間活動の影響」と「自然変動」です。まずは「人間活動の影響」により、温室効果ガスが増加します。一部は海洋に吸収されますが、残りは大気中に放出されます。その各々が熱の蓄積や海面水温・平均気温の上昇に寄与します。その一方で「自然変動」が海面水温・平均気温の上昇に寄与する過程も考えられます。そして、これらの影響がやがて海面上昇や異常気象につながるのです。

 要は「人間活動の影響」と「自然変動」のどちらの影響もあり得る、と言うことです。一方を肯定することが、同時に他方を否定することにはなりません。ただ、どちらの影響がより支配的なのかは、私には判りません。確かなことは、観測データによると「現状は平均気温・海面水温の上昇傾向が現れている」ということです。

 そして、従来は余り見られなかった現象や傾向が現れることが多くなりました。これらは「異常気象」と呼ばれるようになりました。ただし、安易に「異常」を多様してしまうと、やがて「異常」と言う表現自体が「通常」のものとなります。それはすなわち、本来「異常」という表現を以て強調すべき「異常性」が認識され難くなるということです。どこまでが「通常」で、どこからが「異常」なのか、その線引きは非常に難しい問題です。

 さて、温室効果ガスの代表として槍玉に上がるのが二酸化炭素(CO2)です。このCO2の増加と人間活動に関係があるのか気になります。そこで、1600年~2000年におけるCO2の濃度と世界人口の推移をグラフに表してみました。


 この結果、1750年以前は両者とも概ね横ばい~漸増で推移する一方、1850年以降は明らかな増加傾向に転じています。この期間の中頃に起きた産業革命(黄色域)が一つのターニングポイントとなっているようです。人口増加とCO2の増加は互いに呼応するような動きを示しました。

 その一方で一つの疑問がありました。そもそも最大の温室効果ガスは「水蒸気(H2O)」のはずです。しかし、地球温暖化などに関する話題で「CO2だけ」が槍玉に上がるのは、いったい何故でしょうか。実は、この疑問を解く鍵は「水蒸気フィードバック」にあります。下図がそのプロセスのイメージです。


 人間活動に伴って大気中の温室効果ガスが増加すると、温室効果の働きが増すことで気温が上昇します(人為的な外部効果)。この結果、海水の蒸発がより盛んになるため、大気中への水蒸気の放出が増加します。水蒸気は温室効果ガスなので、さらに温室効果の働きが増すことになります(水蒸気フィードバック)。この辺の詳細な解説は【参考】の記事に述べられています。是非、御参考下さい。

 以上から、冒頭のグローバルな気温上昇の「人為的要因」については「人間活動に伴う温室効果ガスの増加がトリガーとなり、水蒸気フィードバックを通じて気温上昇に寄与している」ものと、私は理解しています(ある意味「トランジスタ」のようなイメージでしょうか)。

 現在、「脱炭素」「カーボン・ニュートラル」のように「CO2削減」が求められています。これは、炭素の排出を減らすことで水蒸気フィードバックの働きが弱まれば、ひいては気温の上昇を抑制し得ると言うことです。その意味では、炭素がまるで「諸悪の根源」であるかのような物の言い方には違和感を禁じ得ません。

 さて、日本国内の温室効果ガスの排出量に目を向けてみましょう。排出量の85%がエネルギー起源のCO2です。さらに、国内のエネルギー・発電の供給資源の約4分の3を化石燃料(火力発電)に依存しています。しかし、年別の排出量に注目すると、2013年以降は年々減少しています。すなわち、着実に「結果」が出ています。この点はもっと評価されても良いでしょう。


 そして、結果は「行動」から生まれます。換言すれば「日本国内の高い技術力に基づく高効率の資源活用により、温室効果ガスの排出を抑制している」ことの現れではないでしょうか。

 また、環境対策を推進していく上では「原資」が必要です。その原資は「経済活動」を通して調達されます。環境対策と経済活動のバランスを見据えながら、これからの未来を考えていく上で「技術的な選択肢」を増やすことも重要です。
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成層圏突然昇温

2021年02月03日 | お天気のあれこれ
 大雪をもたらす強い寒波の背景として「ラ・ニーニャ現象」の影響という話を聞くと、私の視線は自ずと北極圏に向かうのです。

 成層圏における東西流の平均場を見ると、夏季は同心円状の東風循環を形成する一方、冬期は変形を伴う西風循環となります。これは下方・対流圏のプラネタリー波(偏西風波動)の上方伝播の影響です。成層圏が東風循環の場合は上方伝播できず、西風循環の場合は上方伝播できるという違いが現れています。



 対流圏のプラネタリー波が成層圏に上方伝播することに伴い、西風循環が変形します。この変形が過大になると、時として周囲の高気圧性循環が北極付近を乗っ取る?ような形になることがあります。冬季にも関わらず、まるで夏季のような状態となり、一時的に成層圏の気温が上昇します。この現象を「成層圏突然昇温」と言います。成層圏突然昇温が生じると、北極圏に蓄積された寒気が中緯度地方に放出されやすくなります。



 ここで、ふと思い浮かぶのが北極振動です。北極振動は、北極付近と中緯度の地上気圧が互いに変動する現象です。正の北極振動(下図・左)は、北極付近に寒気が蓄積されるため、寒気の南下が起こりにくくなります。一方、負の北極振動(下図・右)では、北極付近に蓄積された寒気が周囲に向かって放出されるため、日本付近でも強い寒気の南下が起こりやすくなります。つまり、成層圏突然昇温が生じると、負の北極振動のパターンが現れやすくなる傾向があります。


 さて、この冬の特徴として、昨年夏から続いたラ・ニーニャ現象の継続に加え、負の北極振動の影響が加わったため、非常に強い寒気が南下しました。その上空ではどうやら、成層圏突然昇温も発生していたようです(西風循環が変形の様子は上記の図とは異なるようですが)。
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平野部にはり付く雪雲の背景

2021年01月09日 | お天気のあれこれ
 冬型の気圧配置の場合は、日本海上の等圧線に注目します。等圧線の走向が縦に並んでいるか、横に傾いているか、それとも「く」の字状に折れ曲っているかによって、雪の降りやすい場所も変わります。


 日本海の等圧線が縦縞になると山沿い中心となる一方、等圧線が「く」の字状になると日本海寒帯気団収束帯の影響で平野部でも大雪となることがあります。

 日本海の等圧線が「く」の字状になった場合の天気図の一例です。日本海の等圧線が見事なまでに折れ曲がっています。



 日本海寒帯気団収束帯は、朝鮮半島北部の山脈によって寒気流が二分され、日本海上で合流する際に形成される風の収束域のことです。要は、二つの流れが合流する帯状(線状)の領域とイメージすると良いでしょう。


 各々の季節風の流れに伴って生じた雪雲が、この収束帯上に集まり、その延長線上の下流側に向かって移動します。まさに、雪雲が大群を成して押し寄せるようなものです。

 天気図上では「く」の字等圧線の折れ曲る所を結んだ線が、概ね日本海寒帯気団収束帯に対応すると考えます。この周辺の衛星画像を見ると、シベリアからの吹き出しに沿う雲列(Lモード)と、これに直交する雲列(Tモード)が見られます。その様子を模式的に描いたのが次の図です。


 ここで、風の向きは高気圧側から低気圧側に向かって(北半球では)等圧線を斜め右に横切る方向として推定されます。これを利用して風の向きを矢印で描き込んでみました。

 日本海寒帯気団収束帯が、北寄りの風と西寄りの風の境界となっている様子が判ります。やがて、各々の流れに伴って生じた雪雲が、この収束帯上に集まってきます。


 この雪雲の大群が収束帯上を下流側に移動していくので、この収束帯の延長線がどこに向かっているのか・・・という点は、天気図を読み解く上でも大切なポイントです。
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海の波について(波浪・風浪・うねり・高波・高潮)

2020年09月03日 | お天気のあれこれ
 台風や低気圧の接近時は、海の波についても注意が必要となります。今回は「波浪」「風浪」「うねり」「高波」「高潮」について、ざっくりと整理します。

 海上で(台風や低気圧などに伴う)強風に煽られて尖った波が生まれます。この波を「風浪」と言います。その波は遠方に伝播するにつれて(ザブン…ザブン…と言った感じの)次第に丸みを帯びた波になります。このような波を「うねり」と言います。この「風浪」と「うねり」をひっくるめて「波浪」と言います。



 続いて「高波」とは文字通り「高い波」を言います。例えば、強風によって海面が高く押し上げられて(葛飾北斎の絵のような?)高い波を生じる場合です。なお、気象庁では「波浪注意報・警報の対象になる程度の高い波」と定義しています。

 また、低気圧や台風に伴う気圧降下で海面が高く吸い上げられたり、強風によって海水が海岸に吹き寄せられることで、海面の上昇が引き起こされます。これを「高潮」と言います。高潮は「海面が上昇する」点では津波と似ています(※津波は地震によって発生するので別物)。

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台風・熱帯低気圧の発生・発達と北上のプロセス

2020年09月01日 | お天気のあれこれ
 こちらのグラフは、台風の発生・接近・上陸数の月別の傾向を表しています。このグラフは、気象庁HPより「台風の平年値」を用いて作成しました。


「接近」は台風の中心が国内のいずれかの気象官署から300km以内に入った場合を指します。
「上陸」は台風の中心が北海道、本州、四国、九州の海岸線に達した場合を指します。

 このグラフによると、概ね7月~11月は台風の影響に注意が必要となる時期と言えます。特に8月~9月は上陸数のピークとなっており、一層の注意・警戒が必要な時期と言えるでしょう。しかし、これはあくまで「平年値」なので、年によってピークの時期が前後することもあります。

 この記事では、特定の台風についてではなく「一般的な」傾向を述べています。


 さて、台風や熱帯低気圧は(ざっくり言うと)熱帯(熱帯収束帯:ITCZ)の海上で雲が渦を描くように集まって形成されます。その際のプロセスを段階を追って解説します。


 熱帯付近の海上で、下層の暖かく湿った空気が、低気圧の渦を描きながら集まってきます。この渦は気圧傾度力・コリオリ力・遠心力で釣り合い同心円を描く風となり、海面摩擦により中心部に向かう収束となります。



 集まってきた空気は次第に上昇流を生じます。次から次へと空気が集まってくるので、行き場を失った空気は上方へ逃れようとするのです。そして、空気が上昇すると、今度はその中に含まれている水蒸気が凝結します。この相変化(凝結:気体→液体)の際に「潜熱」を放出します。



 この潜熱によって周囲の空気は加熱されるので、暖められた空気には「浮力」が発生します。この浮力に伴ってさらに上昇流を生じ、この空気に中に含まれている水蒸気が凝結します(以後、凝結→加熱→浮力→上昇→凝結…の繰り返し)。この過程で中心に現れる暖気核は台風発達に寄与する一方、周囲を巡る強風は摩擦で(下層の)収束を減じる効果を持っています。



 このような上昇を続け、やがて対流圏界面に達すると、それ以降は上方ではなく「水平」に広がります。下層での収束の際は反時計回りの流れとなりますが、上層での発散では時計回りの流れとなります。


 続いて、熱帯低気圧や台風がどのようなプロセスを経て北上するのか、について話題を進めていきましょう。


 低緯度の熱帯の海上で熱帯低気圧が形成されると、まずは「地球の自転に伴う効果」でゆっくりと北上します。この効果については、過去の記事「ベータ効果のイメージ」を参考にして下さい。

 そのままゆっくりと北上しながら、暖かい海面から熱エネルギーや水蒸気を持続的に補給されて、発達を続けます。やがて、中心付近の最大風速が約17.2m/s(34ノット)以上に達するようになると、「熱帯低気圧」から「台風」と呼ばれるようになります。これが「台風○号が発生した」と報じられます。

 中緯度まで北上すると、太平洋高気圧の縁辺の流れの影響を受けるようになります。北上のスピードも自転車に乗るような速度となります。台風が太平洋高気圧の縁辺流に乗って北上する一方、西から偏西風の波動が(主に「気圧の谷」として)近づいてきます。

 台風が高緯度に近づくと、次第に偏西風の流れに乗り換えます。偏西風の流れに乗り換えると進路は東向きに変わり、北上するスピードも増して自動車に乗るような速度となります。偏西風の影響を受けながら、台風の形は次第に崩れて行き、やがて温帯低気圧の形に姿を変えていきます。しかし、見た目の形は変わっても、もともと持っているエネルギーはそのままです。

 台風が温帯低気圧の形に変わったとしても、その破壊力・影響力が消滅するわけではありません。引き続き、注意・警戒が必要です。




 続いては、海面との関わりに着目してみます。熱帯低気圧や台風は、海面水温が26~27℃以上の暖かい海域で発生します。そして、海面から水蒸気と熱エネルギーの持続的に補給されつつ、発達しながら北上を続けます。

 やがて、高緯度地方に達すると海面水温は下がり、また自らが伴う強風と海面との摩擦によるエネルギーの損失も加わり、次第に衰弱します。その後は偏西風の影響を受けて、次第に温帯低気圧へと姿を変えて行きます。

 しかし、台風が温帯低気圧の形に変わったとしても、引き続き注意・警戒が必要なのは上述の通りです。
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角運動量保存の法則

2020年08月26日 | お天気のあれこれ
 いま、回転軸の周りを半径r[m]、角速度ω[rad/s]で円運動する質量m[kg]の質点を考えます。この時、質点mの速度v[m/s]はv=rωで表されます。


 ここで運動量は「(質量)×(速度)=mv=mrω」で定義されます。また、運動量が保存される「運動量保存の法則」も高校の物理でお馴染みと思います。主に直進運動を考える場合です。

 回転運動の場合は新たに、角運動量「(質量)×(半径)×(速度)=mrv=mrω2」という物理量を考えます。この角運動量が保存される「(角運動量)=(質量)×(半径)×(速度)=(一定)」というのが「角運動量保存の法則」です。

 この考え方を空気塊の回転に応用してみましょう。ここでは、円筒形の空気塊が回転している状況を考えます。

 まず、左側の状態では回転半径が大きく、ゆっくりと回転しています。この空気塊が、何らかの理由で生じた上昇流によって、鉛直方向に引き延ばられる状況を考えてみます。

 すると、右側のように細長くなってしまいます。つまり、容積は一定のまま、回転半径は小さくなります。先の「角運動量保存の法則」の考え方に基づけば、半径が小さくなる分、回転速度が増すことになります。

(※厳密には、空気塊の状態までを考慮した「渦位」という物理量があります。この「渦位」については、気が向いたらまたの機会に・・・)

 このメカニズムが働く現象にはどのようなものがあるのか、2つの例を紹介します。


 竜巻は「積乱雲に伴う活発な上昇流」によって発生するものです。この上昇流によって、空気塊は鉛直方向に引き延ばされることで、強い渦が形成されます。

 一方、つむじ風(塵旋風)は「地面が日射によって加熱されることで生じる上昇流」によって発生します。この上昇流によって、空気塊は鉛直方向に引き延ばされます。

 両者は一見すると形が似ていますが、上昇流の要因は異なります。
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気候変動と暖冬・寒冬

2020年02月10日 | お天気のあれこれ
 この冬(2019年末~2020年初)は記録的暖冬とも言われるほどの暖冬となっています。そこで、今回は「暖冬・寒冬に影響を及ぼす主な要因」について、(自分の勉強も兼ねて)ざっくりと整理してみます。

(1)エル・ニーニョ現象の影響

 エル・ニーニョ現象とは、太平洋赤道域の東部から南米沿岸にかけて海面水温が高くなる現象です。これに伴い熱帯の対流が東側にシフトすると、その影響は中緯度地方の偏西風波動にも伝わります。この結果、上空の寒気の南下する場所(トラフ)も、通常の状態より東側にシフトするため、上空の寒気も日本付近には南下しにくい傾向となります。


(2)ラ・ニーニャ現象の影響

 ラ・ニーニャ現象とは、太平洋赤道域の東部から南米沿岸にかけて海面水温が低くなる現象です。これに伴い熱帯の対流が西側にシフトすると、その影響は中緯度地方の偏西風波動にも伝わります。この結果、上空の寒気の南下する場所(トラフ)も、通常の状態より西側にシフトするため、上空の寒気も日本付近には南下やすい傾向となります。


(3)負の北極振動の影響

 北極振動とは、北極付近と中緯度の地上気圧が互いにシーソーのように変動する現象です。北極振動には「正の北極振動(AO+)」と「負の北極振動(AO-)」の2種類のパターンがあります。この両者を交互に繰り返しているのです。

 負の北極振動とは、北極付近の地上気圧が平年よりも高く、中緯度の地上気圧は平年よりも低くなるパターンと言います。北極付近に蓄積された寒気が、中緯度地方に向かって放出されます。つまり、北からの寒気の南下が顕著になりやすいので、日本付近で偏西風が南に蛇行すると、日本海側で豪雪に見舞われやすくなります。



(4)正の北極振動の影響(今回の暖冬の要因・その1)

 正の北極振動とは、北極付近の地上気圧が平年よりも低く、中緯度の地上気圧は平年よりも高くなるパターンと言います。北極付近に寒気が蓄積されます。つまり、北からの寒気の南下が顕著になりにくいので、日本付近でも寒気の南下が起こりにくくなります。この冬もこの傾向が現れました。


(5)正のダイポールモード現象(今回の暖冬の要因・その2)

 さて、太平洋赤道域の東部から南米沿岸にかけて海面水温の変動として「エル・ニーニョ現象」や「ラ・ニーニャ現象」が知られているように、インド洋にも海面水温が変動する現象があります。これが「インド洋ダイポールモード」現象です。

 ここで紹介する「正のダイポールモード現象」は、インド洋西部で海面水温が高くなる一方、インド洋東部では海面水温が低くなる現象です。インド洋西部の熱帯域で対流が活発になると、北側の偏西風の流れ方(蛇行の仕方)が変わり、日本付近では北に盛り上がるような形(リッジ位相)になります。つまり、日本付近では偏西風が北側に偏るため、上空の寒気も南下しにくくなります。

 この冬の暖冬傾向は「正の北極振動」と「正のダイポールモード現象」が主な要因となっているようです。ただし、いくら「暖冬」とは言っても、一時的に強い寒気が入って雪が降ることはあります。

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