計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

台風10号が過ぎ去った後の雑感

2020年09月09日 | 気象情報の現場から
 先の台風の影響で被災された皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。

 ここ数日、SNS上では台風10号などの進路について海外の様々な予報、気象庁から発表される最新情報、その他の災害発生時に役立つ情報を紹介・解説する内容の書き込みを多く拝見しました。発信される方の多くは「純粋な善意」、それも「世のため人のために役立ちたい」と言う熱意を持っています。

 その一方で、これらの情報が「受け手の皆様にどのように伝わり、受け止められているのだろうか」と言う疑問も浮かびました。現在、気象情報の高度化は目覚ましい勢いで進んでいます。一つ一つの情報がとても素晴らしく、そして充実しています。また、専門的に踏み込んでいる情報も見られました。私自身、とても勉強になるものばかりです。

 しかしながら、危険な状態が迫っている中にあっては、多くの情報に目を通すような余裕はないと思われます。従って、情報の受け手の立場に立って整理する必要性も感じました。その観点から、様々な媒体を通じて「解説する」ことは大切です。

 そして、それだけに留まらず、「日頃から」気象に対して「興味を持ったり、好きになるためのきっかけ」を創ることも大切ではないかと感じました。例えば「天気図を理解できること」を「かっこいい」と思わせてくれる存在であったり、もしくは気象の「面白さ」や「楽しさ」や「情熱」を伝えると同時に、そのワクワク感を「共有」できることです。ただ、昨今はコロナ禍の影響もあり、何かと制約の多い状況にあるので難しい所です。

 続いて「予報業務」に目を向けてみると、これは一つの(自然現象に関する)「リスクマネジメント」と捉えることもできます。リスクマネジメントの分野では「将来時点で発生する不確定な事象やその影響」を「リスク」と言います。不確定性との折り合いを探るのは容易なことではありません。将来の様々な可能性や影響を分析した上で「(現時点で)想定されるリスクは何か、それをどこまで、どのような形で伝えるか」を「決断」する必要があります。

 例えば、台風の場合は「予報円の大きさ」と言う形でリスク(不確実性)が可視化されています。将来の話になればなるほど、予測の不確定性は増大します。仮に大まかな傾向が定まるとしても、ある程度の幅の中に多様な可能性が含まれています。また、この幅も対象時刻が先になるにつれて増大します。将来を予測するのは「かくも難しく、自ずと慎重かつ謙虚にならざるを得ない」と言うことなのでしょう。

 このような「背景」についても理解を広めていく、その前に「興味・関心を喚起する」ことが大切なのではないか、と感じている今日この頃です。
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海の波について(波浪・風浪・うねり・高波・高潮)

2020年09月03日 | お天気のあれこれ
 台風や低気圧の接近時は、海の波についても注意が必要となります。今回は「波浪」「風浪」「うねり」「高波」「高潮」について、ざっくりと整理します。

 海上で(台風や低気圧などに伴う)強風に煽られて尖った波が生まれます。この波を「風浪」と言います。その波は遠方に伝播するにつれて(ザブン…ザブン…と言った感じの)次第に丸みを帯びた波になります。このような波を「うねり」と言います。この「風浪」と「うねり」をひっくるめて「波浪」と言います。



 続いて「高波」とは文字通り「高い波」を言います。例えば、強風によって海面が高く押し上げられて(葛飾北斎の絵のような?)高い波を生じる場合です。なお、気象庁では「波浪注意報・警報の対象になる程度の高い波」と定義しています。

 また、低気圧や台風に伴う気圧降下で海面が高く吸い上げられたり、強風によって海水が海岸に吹き寄せられることで、海面の上昇が引き起こされます。これを「高潮」と言います。高潮は「海面が上昇する」点では津波と似ています(※津波は地震によって発生するので別物)。

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台風・熱帯低気圧の発生・発達と北上のプロセス

2020年09月01日 | お天気のあれこれ
 こちらのグラフは、台風の発生・接近・上陸数の月別の傾向を表しています。このグラフは、気象庁HPより「台風の平年値」を用いて作成しました。


「接近」は台風の中心が国内のいずれかの気象官署から300km以内に入った場合を指します。
「上陸」は台風の中心が北海道、本州、四国、九州の海岸線に達した場合を指します。

 このグラフによると、概ね7月~11月は台風の影響に注意が必要となる時期と言えます。特に8月~9月は上陸数のピークとなっており、一層の注意・警戒が必要な時期と言えるでしょう。しかし、これはあくまで「平年値」なので、年によってピークの時期が前後することもあります。

 この記事では、特定の台風についてではなく「一般的な」傾向を述べています。


 さて、台風や熱帯低気圧は(ざっくり言うと)熱帯(熱帯収束帯:ITCZ)の海上で雲が渦を描くように集まって形成されます。その際のプロセスを段階を追って解説します。


 熱帯付近の海上で、下層の暖かく湿った空気が、低気圧の渦を描きながら集まってきます。この渦は気圧傾度力・コリオリ力・遠心力で釣り合い同心円を描く風となり、海面摩擦により中心部に向かう収束となります。



 集まってきた空気は次第に上昇流を生じます。次から次へと空気が集まってくるので、行き場を失った空気は上方へ逃れようとするのです。そして、空気が上昇すると、今度はその中に含まれている水蒸気が凝結します。この相変化(凝結:気体→液体)の際に「潜熱」を放出します。



 この潜熱によって周囲の空気は加熱されるので、暖められた空気には「浮力」が発生します。この浮力に伴ってさらに上昇流を生じ、この空気に中に含まれている水蒸気が凝結します(以後、凝結→加熱→浮力→上昇→凝結…の繰り返し)。この過程で中心に現れる暖気核は台風発達に寄与する一方、周囲を巡る強風は摩擦で(下層の)収束を減じる効果を持っています。



 このような上昇を続け、やがて対流圏界面に達すると、それ以降は上方ではなく「水平」に広がります。下層での収束の際は反時計回りの流れとなりますが、上層での発散では時計回りの流れとなります。


 続いて、熱帯低気圧や台風がどのようなプロセスを経て北上するのか、について話題を進めていきましょう。


 低緯度の熱帯の海上で熱帯低気圧が形成されると、まずは「地球の自転に伴う効果」でゆっくりと北上します。この効果については、過去の記事「ベータ効果のイメージ」を参考にして下さい。

 そのままゆっくりと北上しながら、暖かい海面から熱エネルギーや水蒸気を持続的に補給されて、発達を続けます。やがて、中心付近の最大風速が約17.2m/s(34ノット)以上に達するようになると、「熱帯低気圧」から「台風」と呼ばれるようになります。これが「台風○号が発生した」と報じられます。

 中緯度まで北上すると、太平洋高気圧の縁辺の流れの影響を受けるようになります。北上のスピードも自転車に乗るような速度となります。台風が太平洋高気圧の縁辺流に乗って北上する一方、西から偏西風の波動が(主に「気圧の谷」として)近づいてきます。

 台風が高緯度に近づくと、次第に偏西風の流れに乗り換えます。偏西風の流れに乗り換えると進路は東向きに変わり、北上するスピードも増して自動車に乗るような速度となります。偏西風の影響を受けながら、台風の形は次第に崩れて行き、やがて温帯低気圧の形に姿を変えていきます。しかし、見た目の形は変わっても、もともと持っているエネルギーはそのままです。

 台風が温帯低気圧の形に変わったとしても、その破壊力・影響力が消滅するわけではありません。引き続き、注意・警戒が必要です。




 続いては、海面との関わりに着目してみます。熱帯低気圧や台風は、海面水温が26~27℃以上の暖かい海域で発生します。そして、海面から水蒸気と熱エネルギーの持続的に補給されつつ、発達しながら北上を続けます。

 やがて、高緯度地方に達すると海面水温は下がり、また自らが伴う強風と海面との摩擦によるエネルギーの損失も加わり、次第に衰弱します。その後は偏西風の影響を受けて、次第に温帯低気圧へと姿を変えて行きます。

 しかし、台風が温帯低気圧の形に変わったとしても、引き続き注意・警戒が必要なのは上述の通りです。
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