計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

上空の強い寒気が・・・

2008年02月22日 | 気象情報の現場から
 この冬も「上空の強い寒気が・・・」と言うフレーズを何度聞いた事でしょう。いつも決まって「上空1500m付近で-6℃以下の寒気」「5500m付近の-36℃以下の強い寒気」が登場します。ある意味、予報を行う上での定石にさえなっているこの目安ですが・・・

 「所変われば基準も変わる」のが局地気象の難しい所です。私は当初、山形県米沢市の冬の局地予報を専門としていたのですが、もしその時の勘と経験そのままで、現在の新潟県中越某市の天気を予想すると・・・とんでもない事になってしまいます。

 大雪の定義(基準値)もその人その人の感じ方によって様々と思いますが、仮に大雪の定義をある平均降雪量(cm/day)以上として分析してみると、米沢市でこの程度の大雪をもたらす寒気と、当地でこの程度の大雪をもたらす寒気の目安(気温)は違っていました。上空500hPa面上の気温で見てみると、当地で大雪となるのは確かに-36℃程度の寒気ですが、経験上、米沢市の場合はもう少し高めの気温(とは言っても十分に冷たい寒気)でも可能性があります。その際に重要な鍵となってくるのが下層の季節風です。季節風が強く吹き付けるような場合は要注意です。

 米沢市の場合は下層の風が弱い場合には(冬型の気圧配置となるような日であっても)午前中には晴れると言う事もありました。このような場合は、午前中は晴れてお昼頃から吹雪を伴うようになる天候の急変のパターンが見られました。当地でもこれに似たような現象が見られるようです。このメカニズムについても漸く一つの理論的な見解を見出せそうですが、もう少し時間が掛かります。ここでいよいよ山形県域の局地気象・乱流数値シミュレーションモデルが用いられます。現在はその初期条件と境界条件の設定内容を検討しています。

 さて、また寒気の話に戻りますが、一般的には上空500hPa面で-36℃の寒気に覆われれば大雪の可能性は十分にあります。しかし、所によっては-33℃でも、または-30℃でも大雪になる可能性があると言う事です。そして、大雪や吹雪の予想では寒気の強さ(気温)も去ることながら、下層の季節風の強さ(風速)も考慮に入れる必要があります。そのバランスをどのように勘案するかは地形その他の条件もあるので一概には言えません。そして、何より雲が発生するかどうか。降水現象が起こりうるかどうかも忘れてはなりません。

 そのような意味では「(降水)+(寒気)=( 雪 )」「( 雪 )+(強風)=(吹雪)」という2つの式を意識する事になります(降水、寒気、強風の3つの要素に分解し、それらをまた組み立てている点に注目して頂きたい)。これらの要素のそれぞれにはまた閾値が存在するわけですが、その閾値も対象とする地域によって異なります。「所変われば(予報の)基準(値の組み合わせ)も変わる」と言う、当たり前の事を天気図を見つめながら、改めて感じているのでした。
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「今頃」気づいた事ですが・・・

2008年02月03日 | 気象情報の現場から
 気象庁のホームページから高層実況観測データが閲覧できるようになりました!と言うより、なってました。2007年12月26日に公開を始めたとの事なので、約1ヶ月前からと言う事になります。気象庁トップページ→気象統計情報→過去の気象データ検索→高層の気温・風など・・・まあ、こちらから入って見て下さい。

 かつて山形県置賜地方の局地気象解析を行う際に、地上と高層の対応を分析するべく、高層天気図(AUPQxx,AXFExx)やエマグラム等から図示された記号を読み取って、高層の風や気温の観測値を何とか探り出そうとしていた頃の事を思うと・・・喜ばしいのは確かに喜ばしいのですが、もっと早く実現して欲しかった・・・と言うのが正直な思いです。ただ、これからは高層データも扱いやすくなります

 数値シミュレーションを構築するに際しても、基本的場の設定(初期条件や境界条件etc.)には高層データが欠かせません。局地気象の複雑な構造を境界条件に反映するためには、物理量の鉛直プロファイルが必要不可欠な情報です。こちらも漸く長い間悩まされてきた境界条件に関する問題も一段落したので、色々な実際に観測された鉛直プロファイルを解析してみたいと考えています。

 この週末は久しぶりに、Sawyar-Eliassenの鉛直循環と前線形成関数、Qベクトルのω方程式に関する気象力学の理論を勉強していました。これらの理論は鉛直流ωの発生メカニズムに関するものですが、従来とは異なる視点からのアプローチがなされています。低気圧や前線形成に対する認識が変わったのと同時に、大きな驚きと興奮を覚えました。以前、勉強した際はさすがに難しくて挫折してしたのですが、色々と勉強・研究を重ねて来た事で漸く、このような議論にcatch upできるようになってきました。

 最近はどちらかと言うと、数値シミュレーションやデータ解析に関する基礎解析技術の研究に重点を置いていましたが、やはり究極のターゲットである気象の理論に対する理解を深めていかなければなりません。今回、気象庁ホームページから、従来の地上データに加えて高層データまでが公開された事で、より一層、局地気象に関する研究・解析も進め易くなります。
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