計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

「解析」の立場から何が出来るのか?

2009年08月12日 | 気象情報の現場から
 相次ぐ台風や地震で被害に遭われた皆様には心よりお見舞いを申し上げます。
 このような自然災害を前にして、果たして気象データの解析を通じて何が出来るのか、と思案する日々が続いております。

 確かに、気象現象、特に突発的な集中豪雨を予測できるようにする、と言う事が真っ先に挙げられる事でしょう。そのためには気象予測の根幹を成す数値予報モデルの精度向上もさることながら、これまでの事例を基に、どのような時に、どのようなメカニズムで、どのような場所に発生し得るのか、を分析する事も必要と思われます。その上で、自分の居る(住んでいる・勤務している)場所ではどのような危険ポテンシャルがあるのかをある程度シミュレートすると言う方法が考えられます。

 これまでの気象変化の傾向から、大規模場(入力条件)とそれに伴って生じる局地気象(出力結果)の関係はある程度見当をつける事ができます。つまり、ターゲットとする局地気象に関して何らかの解析モデルを構築する事ができます。

 近年、この大規模場のレベルでの異常性が目立つようになってきました。従って、入力条件に従来とは異なる場合を想定してみて、この解析モデルを走らせる事で、異常な気象条件下における影響を一つ一つ検証する事が出来るかもしれません。

 勿論、実際にこの想定した「異常な気象条件」が起こるかはわかりません。しかし、このような「なかなかありえないであろう気象条件」を付加して局地レベルでの気象面への影響を推定する、と言うのも計算シミュレーションの重要な役割と思います。その際の解析モデルの構築は、やはり物理学の理論はもとより、緻密な気象データ解析を積み上げる事によって可能になるのです。

 私は、このお盆休みを自主返上して気象データの解析に当たります。事務所開設1年目(開設してまだ4ヶ月程)、さすがに、夏だ・お盆だ・バカンスだ!・・・と浮かれている余裕はありません。

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海陸風の数値シミュレーション

2009年08月08日 | 計算・局地気象分野
 さて、久々に数値シミュレーション解析の話題を一つ。


 
 こちらは海陸風を簡単な構造で表現して計算した結果です。海陸風のシミュレーションはCFDの参考書籍でも良く取り上げられます。今回の計算では、計算領域の左半分を海上右半分を陸上としています。初期状態では、左半分では既に海面からある程度の高さまで空気が十分に冷やされる一方、右半分では地面からある程度の高さまで空気が既に十分に熱せられており、ある程度の高さより上の層では温度は寒暖の中間の状態であると仮定しています。また、境界条件では海面上は冷源陸面上は熱源であるとしています。

 地面及び海面付近では、海からの冷気が陸上に流れ込み、上空では陸上の暖気が海上に流れ込んでいる事がわかります。これに伴って海陸間で鉛直循環が生成されるわけです。このような海陸風の影響が局地気象の解析で重要となるのは、例えばこんな数値シミュレーションを行う場合です。



 これは私が今年の春の気象学会で発表した新潟県上越地方のフェーンに伴う高温域の解析事例です。沿岸部における気温の誤差が内陸地に比べて大きく、沿岸部ゆえの海陸間の熱容量の違いに伴う熱的条件の考慮・反映が今後の課題となっています。そこで、このような局地気象の地域特有の特性を形作る基本的な現象のメカニズムのモデリングの検討を進めています。

 熱流体数値モデルによる解析を進める際に、どのような初期条件や境界条件を与えるか・・・すなわちどのようなメカニズムや気象場を与えるかが重要になってきます。
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お知らせ

2009年08月07日 | 気象情報の現場から
 (社)日本気象学会・機関誌のウェブ公開版:オンライン「天気」に2009年06月号のバックナンバーが掲載されました。先般、学会誌「天気」の調査ノート欄に掲載された拙著「3次元熱流体数値モデルの独自開発 ―山形県置賜地方の冬季局地風への適用―」もpdf形式(2.33MB)で公開されています。
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