計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

2013年も間もなく終わります。

2013年12月30日 | 何気ない?日常
 この冬もまた、3年前の12月に「予報業務許可事業者」の仲間入りを果たした会社の事務所で局地予報に係わっています。

 この会社の3年前は「ギリギリセーフでようやく立ち上がり始めた」年、2年前(一昨年)は「やっと本格始動の時を迎えた」年、そして1年前(昨年)は「少しずつ、ゆっくりと歩みを進めた」年となりました。今年もまた「ゆっくりと歩みを進めた」一年だったように思います。しかし、いつまでも「ゆっくり」と言うのは、正直「気掛かり」です。

 「会社のスタッフ」としての歩みに加えて、「一人の専門家」としての歩みについても真剣に考えて行かなければならないのかも知れません。もちろん、両者がN-MOSP-MOSのような存在になって、互いにコンプリメンタルな関係となることで、優れたC-MOSのような存在になれるのがベスト(一応、元・半導体エンジニアです)。

 さて、日本気象予報士会のメンバーの中には、別に本業を持っているにも関わらず、週末等を中心に気象予報士としても活躍されている方が多くいらっしゃいます。かつての私もその一人でした。そのような方々のバイタリティにも、再び目を向け、見習わなければならない。そんな事を感じています。かつての私今の私とでは、何が違うのか・・・。もちろん、知識・見識・経験・技術では今の方が圧倒的に勝っている筈です(そうでなければ「今まで何をやっていたのだ」という話になります)。

 しかし、「バイタリティ」と言う点ではどうだったか。確かに、かつては「雲の上の世界」と思っていた、日本気象学会での発表や論文投稿にトライできたのは良かった。その一方で、そろそろ「その次」の何かを「仕掛ける」段階に来ているのかもしれません。

 私の2013年を振り返ってみると、 「学び」「挑戦」の一年だったように思います。

 「学び」については、気象データの解析を通じて色々な知見を学んだだけでなく、地元の商工会議所主催の「FBをビジネスに活用するセミナー」「営業力セミナー」、さらに地元の市役所が中心になって開催された「起業・創業塾」を受講して新しい視点を学ぶ事が出来ました。

 「挑戦」というのは主に学会発表です。一昨年は学会発表の実績が「1件」、昨年は「2件」、そして今年は「4件」を達成することが出来ました。今年は春季大会(東京)にて2件と秋季大会(仙台)にて1件をポスター発表し、その他に1件の論文(調査ノート)が学会誌に掲載されました。そして現在も尚、投稿中(査読審査の段階)の論文があります。これまで積み上げてきたものを「論文」と言う形にまとめ上げています。

 一年のサイクルは「1月1日(元日)に始まり12月31日(大晦日)で終わる」のが普通ですが、私の場合は「4月1日に始まり翌年3月31日で終わる」感覚です。

 前者の感覚に立てば「今年ももう終わる」となりますが、後者の感覚に立てば「今年(今年度)もサード・クウォーター(第3四半期)が終わって・・・」となります。来るファイナル・クウォーター(1~3月)は、まさに雪国の空に挑む日々に明け暮れつつも、新たな春の到来を待ち侘びる・・・って感じです。1年の中でも最も過酷なクウォーターです。
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三次元熱流体数値モデルの基本原理

2013年12月08日 | 計算・局地気象分野
[1] 層流と乱流


 水道の蛇口を少しだけひねると、水は静かに真っ直ぐに流れて出てきます(層流)。そこからさらにひねっていくと、水の流れは勢いを増し、ぐじゃぐじゃに乱れ始めます(乱流)。

 ゆっくりと真っ直ぐ進む流れを「層流」と言うのに対して、さらに速度を増して、ついには勢い余ってぐちゃぐちゃな流れ方をするものを「乱流」と言います。

 層流は「秩序」を持った動き方をするのに対して、乱流は「ある程度の秩序」を持ちつつも、「挙動不審」な一面も持ち合わせているので(これが「カオス」と言われる所以)、その動きを予測するのは容易なことではありません。

 身の回りの大気の流れは「乱流」になります。


[2] 山越え気流のモデル

 山岳地形に向かって空気が流れ込む場合、その流れが地形の周りでどのように動くのかは、流れの強さ(速さ)に依存します。基本的な形は「ベル型の山に向かって一様な風が流れ込む場合」です。


 流れが強い(速い)場合、流れはその勢いに乗ったまま山を乗り越えてしまいます。しかし、流れが弱い(遅い)場合、流れは地形に合わせて変形し、山の周囲を迂回するように流れて行きます。

 実際にはベル型の山と言うよりも、幾つもの山が連なって壁のようにそびえ立っている場合が多いので、三角柱状の地形の場合を考えてみましょう。


 流れが強い場合、流れは山を乗り越えてしまいます(一見、勢い余って・・・のようにも見えますが、実際には大気の安定度による影響です)。しかし、流れが弱い場合、流れは迂回して山の風下側へ行くことが出来ません。そうかと言って乗り越える事もできません。仕方ないので、逆流することになります。

 このような「山越え気流」の理論解析に用いられる古典的な解析モデルを示します。


 ある高さH0[m]における等圧面を点線で表し、これを自由表面と呼びましょう。地表面付近の大気(山岳標高の2倍程度を目安)を、自由表面を境に上下2つの層に分ける二層構造で考えます。

 そして、下側の層の温位(ポテンシャル温度)をθ0[K]、上側の層の温位を少し高めのθ0+Δθ[K]であるとしましょう。この温位(ポテンシャル温度)とは温度に替わるパラメータです。左側から速度u0[m/s]の風が流入するものと考えましょう。

 そうすると、u0が大きいほど(Frが大きいほど)流れは山を乗り越えやすく、風下では「おろし」と呼ばれる強風が発生しやすいことが理論的に明らかにされております。ここでFrとはフルード数の事で「Fr = u0 / { g (Δθ / θ0 ) H0 } 0.5」で定義されます。


[3] 凝結・降水過程モデル


 ある空間に含み得る水蒸気の量(比湿q)には限界値(飽和比湿)qsが存在し、q≧qsであれば自動的に凝結量(q’≡q-qs)を生じるものと考えます。


 さらにこの内の一部(q’αΔt)に相当する分が凝結後、瞬時に直下の地上に落下するものとし、この落下分を地上降水量として順次積算していくものとしました。その一方で、落下せずに残った分( q’(1-αΔt))に相当する分は大気中に残り、引き続き大気中を輸送されるものと考えます。


[4] 数値モデル地形

 実際の地形はこのような山々が連なっています。


 地形はこんなイメージです。




[5] 数値シミュレーションの結果例

 左下の図は場合の数値シミュレーションの結果の例です。カラーは積算降水量のレベルを表しています。朝日連峰周辺とその南東側(置賜地域)と北東側(最上地域)にそれぞれ降水域が広がっている特性が再現されています。

 右下の図は 1989年12月~2013年3月までの各12月~翌03月末までの4か月間のシーズン降雪量の平均値の分布です。等値線を手描きで引いたのですが、全体的な特徴については、シミュレーションの結果と概ね一致しているようです。


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山形県置賜地方の冬期の風向の日変化

2013年12月06日 | 山形県の局地気象
 先日の記事の続きです。タイトルの「置賜」は「おきたま」と読みます(念のため)。

 山形県南部の置賜地方には小国・長井・米沢の3か所のアメダスで降積雪の観測を実施しており、さらに海側の下関アメダスを加えて、時間帯別の出現風向を調べてみました。使用したのは、2008~2013年の各1~2月の時別観測データです。

 こうしてみると、4か所のアメダスは概ね直線上にあるような感じです。

 出現風向は次のような感じです。上段から順に朝、昼、夜の時間帯、そして各段左から順に下関、小国、長井、米沢の風配図となっています。これは、16方位で表される風向の出現比率をレーダーチャート状に表現したものです。


 従って、次の2つの特徴が考えられます。

●下関・小国では北西象限の風向が卓越しており、海上から陸に向かう季節風の特性がそのまま現れやすいようです。一方、長井・米沢では西よりの風向に加えて、地形に起因する季節風に対抗する特性(南風)も現れやすいのが特徴です。

●長井で見られる南風成分は時間帯に依存していないため「地形の存在自体の影響」と考えられますが、米沢で見られる南風成分は特定の時間帯(夜~朝)に顕著であることから「夜間の山頂から麓の平地への流れ(山風)の特性」が現れていると考えられます。

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再び、山形県の冬空に挑む!

2013年12月01日 | 山形県の局地気象
 暦は師走を迎えました。いよいよ本格的な冬の幕開けです。この記事では、私にとって重要な専門分野である「山形県の局地気象」をテーマに、山形県の地形や降雪量の分布、そしてこれまでの私が取り組んできた研究の概要を振り返ろうと思います。

 山形県は東北地方南部の日本海側に位置し、北に丁岳山地や神室山地、東に奥羽山脈、南に飯豊連峰と吾妻連峰、そして県央に朝日連峰が連なっています。

 山形県は庄内(しょうない)・最上(もがみ)・村山(むらやま)・置賜(おきたま)の4つの地域に分けられます。私の故郷は南部の置賜地域に当たります。 この「置賜地域の雪の降る条件やメカニズム」が私の気象予報士としての出発点でもあり、長年にわたって取り組んでいる研究テーマです。

 1989年12月~2013年3月までの各12月~翌03月末までの4か月間のシーズン降雪量の平均値を求めてみました。 山形県を横顔に例えると、ちょうど頬骨の辺りで降雪量のピークとなるところがあります。ここが温泉で有名な「肘折(1401cm)」です。


 そして顎の奥側、最も右下(南東)にあるのが「米沢市(729cm)」です。降雪量の特に多い領域(極大域)は、朝日連峰の位置と概ね重なっています。その右側(東側)では降雪量の特に少ない領域(極小域)が目立っています。そのまた右側(東側)には、奥羽山脈(脊梁山脈)が連なっています。降雪量の分布と地形の分布は概ね一致しているようですね。

 続いては、私が独自に研究・開発を進めている、山形県の3次元熱流体数値モデル(工学モデル)のイメージです。左側の日本海上からは右側に向かって西~西北西の季節風が流れ込みますが、このような複雑な地形を影響により、山間部ではその流れ方が乱されます。季節風の条件に応じて、陸上の流れがどのように乱れ、それに応じて降水域の分布が形成されるのか、が重要なファクターとなってきます。


 左側は北西の季節風、右側は西北西の季節風の条件を与えた場合の数値シミュレーションの結果の例です。カラーは積算降水量のレベルを表しています。朝日連峰周辺とその南東側(置賜地域)と北東側(最上地域)にそれぞれ降水域が広がっている特性が再現されています。(※この数値シミュレーションは現在も改良・検討を重ねており、研究論文を投稿中です)。



 私は、米沢市周辺でまとまった降雪を予想するための目安としては経験上「上空1400m付近で-9~-12℃、西~西北西の風14~15m/s以上」を考えています。また、その時の地上の気圧配置も、南北に走る等圧線の本数が多く、しかもその間隔が狭く、密集しており、見るからに「典型的な冬型の気圧配置」となっております。このような気圧配置は「山雪型」と言います。

 米沢市の冬季の除雪車の出動基準は「朝までの降雪量が10㎝ 以上と予想されるとき(3月1日以降は15㎝以上)」と定められています。除雪作業は車道が午前3時〜7時、歩道は午前4時〜7時と、道路混雑を避けるため主に早朝に実施しています。


 米沢における、過去6シーズン(2008~2013年の各1~2月)を通しての、3時間降雪量が1cm以上となる降雪の発生件数を時間帯別に示しました。 米沢は午後から夜間にかけて増加し、6~12時すなわち除雪作業の直後にピークが現れる傾向が見られました。
(この特性については、引き続き調査中・・・今シーズンはこちらがメインになるかも)
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