計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

今回の研究発表の要旨

2008年11月26日 | 気象情報の現場から
 山形県米沢市周辺では、雪の降り方については上空の寒気を指標とするのは天気予報の常套ですが、この地域の場合は更に上空の季節風の強弱も考慮した方が良いかも知れない、とこれまで言及してきました。米沢市の場合は上空の季節風が弱い場合には(冬型の気圧配置となるような日であっても)午前中には晴れると言う事もありました。このような場合は、午前中は晴れてお昼頃から吹雪を伴うようになる天候の急変のパターンが見られました。

 このような局地的な気象特性について、上空の寒気と季節風と地形の影響を「一つの理論」で説明できないか、そしてそこから局地予報の判断を行う際の判断基準となる「ガイドライン」を示す事は出来ないかを研究してきたものです。

 今回は独自開発の乱流数値シミュレーション技術を用いて、冬型の気圧配置となる条件下での山形県置賜地方におけるフルード数と局地風の関係を解析しました。局地風は、フルード数が低い場合は季節風とは異なり南よりの風向が卓越する一方、フルード数が高い場合は季節風に沿って西よりの風向が卓越する特性が解析されました。これは、前者では自然対流の影響がより卓越する一方、後者では強制対流の影響がより卓越するためと考えられます。今後、さらに踏み込んだ研究を進めていく予定です。
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大気象サイエンスカフェ「かだっぺや」・・・杜の都で「かだりまくった」夜。

2008年11月23日 | CAMJ参加記録
 日本気象学会2008年度・秋季大会3日目の終わりに日本気象予報士会・東北支部が中心となってのイベント・大気象サイエンスカフェ「かだっぺや」が開催されました。日本気象予報士会・東北支部としても全国デビューを果たす良い機会になったと思います。この大気象サイエンスカフェでは、大学や気象庁の関係者、並びに気象予報士等が一同に会して各々の想いを語り合いました。

 まず始めに、大学で気象学の研究をされている先生をお招きして「カオスと気象学」と題した講演が行われました。かつては「物理帝国主義」と言う、全ての因果を詳細に解析することで、その後の未来の現象の全てが予測できるという決定論的な思想が罷り通っていました。すなわち、全ての未来・運命は既に定められているという事になるのです。しかし、未来は必ずしも一通りに定まっているわけではない事が発見され、今ではローレンツ・モデルとして知られている他、フラクタル構造、自己相似性=任意の一部分を拡大すると再び同じ構造が見えてくるような性質も発見されています。気象がカオスである事は予測限界性の議論においての重要な基本でありますが、短い時間ながら、とても面白い内容でした。

 教科書における予測限界性の説明では、ローレンツ・モデルを引き合いに出して初期値にほんの僅かな差異(誤差)が混入するだけでも将来に起こりうるシナリオが多種多様に広がっていく事を説いています。従って、気象予測においてはカオス性が不可避である事から、どうしても決定的な予想には限界があり、長期予報に見られるような「高い:平年並:低い=30:40:30」のような確率論的な予想になってしまうのです。この辺について、大学で数値予報モデルの研究に従事されている先生からからは現段階での予報誤差は「カオス性による誤差」よりも「モデル自身の誤差」が大きいので、まずこちらを無くす努力をしているとのコメントがありました。

 ユーザの立場からは「白か黒か」的な決定論的な予想を求められるのに対し、サプライヤーの立場からは確率的な予測での対応になるという、言わば「需給間のギャップ」が問題となります。必ず何らかの不確実性を含む予測情報であるとの認識に立ち、どのような形でユーザに情報提供をすれば良いのかについての議論にも発展してきました。それは、気象の予報がどのように社会に対して伝え、または伝わり、理解され、役に立つのかと言う所もまたカオス性を持つが故の問題でもあります。ある意味、どんどんカオスにカオスが輪を掛けるようなもの。ユーザ側に対しても気象の持つカオス性や気象情報の持つ不確実性に対する認識を持って頂けるよう、啓蒙活動を行う必要があるという点で会場の認識は概ね一致したように感じました。

 その際に、決定論的な情報に不確定性の情報を追加する形での提供する形が提案された一方、例えば、アンサンブル予報のスプレッドが不確定性の指標に相当するがこれをそのまま一般の人に伝えても混乱を招くという指摘もありました。利用者の予報に対する認識として「外れるときはどういう外れ方をするのか」と言うのも重要な情報であるという点の指摘もありました。いずれにせよ「カオスを隠れ蓑にして自らの予報の技量の無さの言い訳にしてはいけない」のは言うまでもありません。

 また気象庁の関係者の方からは、このような啓蒙活動を気象予報士に御願いしたい旨の発言があり、気象庁の代わりに啓蒙活動を行う、言わば気象庁のメッセンジャーというのはそれなりの対価がペイしないとできないのではないか、(現状行われている)ボランティア体制でも限界がある、との意見も出されました。これについては、気象庁が業務として行う啓蒙活動と日本気象予報士会の会員がボランティアで行っている啓蒙活動は似て非なるものです。一方はカネをもらって働くもの(=正当なる業務として行うもの)であり、もう一方はカネは無くても世のため人のために役立ちたいとの思いから行動している(=ボランティア活動として行うもの)という違いがあります。どちらが良くてどちらが悪い、というものではなく、単に「根本が違う」と言う点は忘れてはいけません。

 やはり、どのような対象に向けて提供するかに応じて、提供する情報も変わっていくものと考えた方が良いのでしょう。どんなに専門性の高い、きめ細かい情報も受け手となるユーザが使いこなす事ができて初めて、意味のある道具になるのです。そこに気象予報士の活躍の場のヒントが隠れているように思えてなりません。

 肝心の研究発表については、またの機会に・・・。
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(速報) 日本気象学会2008年度秋季大会 + 大気象サイエンスカフェ「かだっぺや」 無事終了

2008年11月22日 | CAMJ参加記録
 ようやく仙台から戻ってきました。さすがに3日も仙台にいると、最後には以前からずっと仙台にいるような錯覚さえ覚えてしまいます。今回は初めての気象学会での発表であり、ポスターセッションも初体験でした。これまでの学会発表や色々な場所での研究発表は全てオーラルセッション形態でしたので、いつもとは勝手が違いました。ただ、肝心の発表それ自体は一先ず成功だったと思います。今回の発表ポスターは、こんな感じ↓で纏めてみました。ポスターセッション終了後、打ち上げを兼ねて懇親会?と相成りました。


 2日目は時間に余裕があったので、ランチには予めお薦めを頂いていたお店(一番町)に行ってきました。私にとっては仙台名物の一つになりそうです。その後は学会のシンポジウム「地域の詳細な気象と気候の再現を目指して ─ダイナミックダウンスケール技術の高度利用─」に出席して、そのまま学会主催の懇親会にも参加しました。


 3日目は午前中に会場近くの仙台城跡に足を運んで、有名な伊達政宗公の騎馬像を見てきました。政宗公はこうして、時空を越えて仙台藩の様子を見守っているのでしょうね。



 この後、今回2回目のポスターセッション発表を見学し、午後からはスペシャルセッション「産業と気象ー気象情報・技術の産業への寄与を考える」、日本気象予報士会・東北支部主催の大気象サイエンスカフェ「かだっぺや ─天気を知って家庭や地域をもっと元気に!─」、そして打ち上げを兼ねたCAMJ主催の懇親会と続きました。つまり3日連続で「学会行事+懇親会」の繰り返しになっていたのです。

 日本気象予報士会からも数件の発表がありましたが、私の発表だけが何故か1日目で、その他の皆様の発表は3日目に集中しました。いっその事、私も仲良く3日目に入れてくれれば良かったのに・・・とも思いましたが、わざわざ初日から応援に駆けつけて下さった方もいらして、とても嬉しく、また心強く感じました(本当にありがとうございました、この場を借りて御礼申し上げます)。日本気象予報士会および同東北支部の行事に参加するのは本当に久しぶりでしたが(実に1年以上ぶり)、充実した一時を過ごす事が出来ました。

 大気象サイエンスカフェ「かだっぺや」では、文字通り気象予報士を取り巻く諸問題についても、いろいろ「かだりあい」ました。気象予報士と一口に言ってもそのバックグラウンドは実に様々で多様性に溢れています。気象業務法上、気象予報士の職務は「現象の予想」にあります。ただ、気象情報の活用方法は単に「予報」に留まらず、「現象の予想」と言う要素は色々な局面で内包される位置付けではないかと思われます。気象情報ビジネスの在り方や具体的な形、そこでの気象予報士の関わり方、気象研究者の関わり方、気象行政の関わり方、というのも多種多様なのかもしれません。すなわち、気象情報とそれに関わる人々、そしてその周囲のニーズといったものもある意味カオスなのかもしれません。「これをやれば必ずメガヒット」という解は無いのかもしれないが、だからといって気象情報産業が必ずしも「希望の見えない産業」という事ではない、と感じました。

 それでは、どのような希望があるのか?・・・それがわかったらもう起業してますわ!!(自爆)・・・おぼろげには見えるのですが、具現化しきれていないのが正直な所です。
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「2008年度秋季大会講演予稿集」が届きました

2008年11月15日 | 気象情報の現場から
 いよいよ秋季大会(仙台)も目前に迫ってきました。私の発表は1日目(19日)のポスターセッションです。時間は17:00~18:00と言う事で(ポスター掲載自体は13:00~可能)、私は当日15時頃に会場入りする予定です。

 最近は工業熱力学の研究に従事している私ですが、この3日間は久々に計算気象予報士に戻ります。大会の開催期間が19日(水)~21日(金)と平日と言う事もありますが、大会に参加される方がいらっしゃいましたら、お声をかけて頂けると嬉しいです。

 そして、3日目(21日)にはスペシャルセッション「産業と気象ー気象情報・技術の産業への寄与を考える」および、日本気象予報士会・東北支部主催の大気象サイエンスカフェ「かだっぺや」(天気を知って家庭や地域をもっと元気に!)が開催されます。私はこちらにも参加する予定です。

 2008年度秋季大会の全体プログラム及び詳細につきましてはこちらで
⇒(URL) http://msj.visitors.jp/
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