計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

自家用乗用車を全てEV化した場合の電力は?

2021年10月30日 | 気象情報の現場から
 昨今、ガソリン車を廃止してEV車を普及させるという動きが現れています。確かにEV車が普及すれば、自動車からのCO2排出は無くなるので、その意味では「クリーン」と言えるでしょう。しかし、EV車を動かすためには電気(電力)の供給が必要です。

 つまり、CO2が自動車の排気口から排出されるのか、発電所から排出されるかの違いであり、いずれにせよ大なり小なりCO2は排出されるのではないか、とふと疑問に思うのです(今回はこの疑問は横に置いておきます)。


 とは言え、今後EV車が普及するのであれば、電力需要が高まるのは必至です。そこで、今回は国内の自家用乗用車が全てEV車に置き換わった場合の電力需要を概算してみます。


 簡単のため、国内のガソリン乗用車を「1台の乗用車」に集約して考えます。この乗用車が長距離を走行することで、大量のCO2が発生します。そこで、国内のCO2排出量が年間M[万t/年]である場合、上記の「1台の乗用車」がどれだけの距離D[km]を走行すれば、Mの排出を実現できるのかを考えます。この距離Dは、ガソリン乗用車から排出されるCO2の排出量M、燃費F、さらに燃料の消費によって発生するCO2の量Cから求めることができます。

 続いて、将来のEV乗用車を「1台の乗用車」に集約して考えます。この「1台の乗用車」をガソリン車と同じ距離Dだけ走行させるのに必要な電力量Jを求めます。これは走行距離Dと電費Eから求めることができます。

 これを計算式に表すと次のようになります。


ここで、各パラメータに以下の値を代入すると

 M = 9697[万t/年][1]
 F = 22[km/L][2]
 C = 2.4[kg/L][3]
 E = 6[km/kWh][4]

ガソリン乗用車の走行距離は

 D ≒ 8890×108[km/年] = 8890[億km/年]

と求められ、

EV乗用車に同じ距離を走らせるために必要な電力量は

 J ≒ 1482×108[kWh/年] = 1482[億kWh/年]

と求められます。

 さて、日本国内の年間発電量が約10000億kWh[5]に達します。つまり、1482[億kWh/年]という値は、年間発電量の約15%に相当します。例えば、この電力量を原子力発電で賄うことを考えてみましょう。

 一般的な原発1基当たりの出力は約100万kWと言われています。そこで設備使用率を80%、年間8760hだけ稼働するとして、1基当たりの年間発電量は次のようになります。

100×104[kW/基] × 0.80 × 8760[h/年]
= 700800×104[kWh/年・基]
≒ 70×108[kWh/年・基]
= 70[億kWh/年・基]

従って、EV車の電力量を賄うためには

 1482[億kWh/年] ÷ 70[億kWh/年・基] ≒ 21.17基 ≒ 約22基(※端数繰り上げ)

すなわち、原子力発電で約22基分に相当します。イメージとしては「世界最大級と言われる柏崎刈羽原発(7基)の3倍」です。

【reference】
[1]https://www.env.go.jp/council/38ghg-dcgl/y380-08/mat03.pdf
[2]http://guide.jsae.or.jp/topics/277499/
[3]https://www.ecofukuoka.jp/q_and_a/216.html
[4]https://www.zurich.co.jp/car/useful/guide/cc-evcar-mileage-battery/
[5]https://sustainablejapan.jp/2021/06/23/electricity-proportion/13961
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ノーベル物理学賞2021

2021年10月06日 | 気になるニュース
【ノーベル物理学賞に真鍋氏 温暖化予測、気候モデル開発(日本経済新聞)】
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC055BF0V01C21A0000000/

 気象・気候分野の研究では初の「ノーベル物理学賞」のニュースに、気象関係者の間でも歓喜の声が上がっています。

【ノーベル賞公式サイトより】
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2021/manabe/facts/

 今回の受賞理由は「地球気候の物理的モデリング、変動性の定量化、および地球温暖化の確実な予測」とのことです。

 地球気候の物理的モデリングである「大気・海洋結合モデル」は、今や気象・気候分野の研究の礎となっています。このモデルを活用することで、気候変動の様々なメカニズムについて研究が進められています。
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