計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

いよいよ冬の到来か

2022年11月30日 | 気象情報の現場から
 天気図を見ていると、いよいよ冬の到来と思えるような状況が見えてきました。


 この日は低気圧や前線の接近に伴って、南西から暖かい空気も流れ込んだため、季節外れの陽気となりました。また、気圧の傾きも大きくなったため、風が強まりました。低気圧や前線が通過した後は、日本付近は冬型の気圧配置となりました。


 日本列島を境に南側では暖気、北側では寒気のコントラストが明瞭となっています。また、日本海上に形成された収束帯を境に、南側では西よりの風、北側では北寄りの風となっています。その上空の寒気も南下しています。

 この寒気が日本列島を広く覆うようになると、いよいよ冬の到来を実感できそうです。空模様も気温も目まぐるしく変わりそうです。
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2022年11月も半ばを過ぎて

2022年11月21日 | 気象情報の現場から
 ここ最近(2022年11月半ば)のラニーニャの影響と偏西風の蛇行、および成層圏の極渦をイラストに整理してみました。


 今年の梅雨に影響を及ぼした「負のIODインド洋ダイポールモード現象)」は減衰しつつあるようです。一方、相変わらずラニーニャ現象は続いており、熱帯の活発な対流の位置が平年より西側にシフトしています。また、偏西風(Jp)の蛇行も「負のEUパターン」となっています。

 この両者の影響が絶妙に合わさって、今の所は日本付近での寒気の南下はそれほど顕著ではないようです。・・・とは言え、今後の上空の動きからは目が離せません。

 冬の成層圏では北極付近は「極渦(低気圧性循環)」が広がります。しかし、この極渦は対流圏から伝播する波動(プラネタリー波)の影響で型崩れしやすく、夏の高気圧性循環に比べて不安定な一面を持っています。特に冬の極渦が分裂した隙に、高気圧性循環に本丸(北極付近)を乗っ取られると「成層圏突然昇温」を経て「負の北極振動」に発展することもあります。

 冬の本番はこれからです。準備は早めに進めておくと良さそうです。
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弾性波の支配方程式

2022年11月18日 | 物理学の基礎
 前々回の記事では「連続体の運動方程式」を導出しました。続いて、前回の記事では「流体力学の方程式」を導出しました。そこで、今回は「弾性体における運動方程式」と導出し、さらに弾性体を伝わる波(弾性波)の支配方程式(波動方程式)を導いてみます。

 まずは「弾性体の運動方程式」を導出します。今回使用するのは次の4つの式です。



 前回の記事と同様に、「加速度の定義式」と「弾性体の構成方程式(フックの法則=応力とひずみの関係式)」を「運動方程式」に代入します。

 弾性体の場合は、変位勾配が小さいと考えられるため、加速度の式(ラグランジュ微分)の非線形項を無視できると考えます。つまり、加速度はそのまま「変位を時間で2階微分したもの」として扱います。

 後は式を整理して「弾性体の運動方程式」の形が現れます(下図・緑枠)。もし、加速度が無ければ(静止状態であれば)、この式は「変位の平衡方程式」となります。



 それでは、この方程式から弾性波の支配方程式(波動方程式)を導いてみます。今回は2種類のアプローチを行います。

 まずは、次のように軸方向の運動方程式(A)をxで微分します。x‐y‐z系で言えば、x軸方向の方程式をxで微分するものです。同様に、y軸方向の方程式をyで、z軸方向の方程式をzでそれぞれ微分し、辺々足し合わせるものです。



 さて、あるx軸方向の変位をxで微分したものは、x軸方向の垂直ひずみεiiとなります。上図の式の中で「e=∂u/x=∂u/x」と集約したものは、x‐y‐z系で言えば、x、y、z各方向の垂直ひずみεxx、εyy、εzzの和に相当します。これを「体積ひずみ」と呼びます。

 従って、ここで得られた波動方程式は「体積ひずみeが弾性体中を伝播する」ことを表します。それでは、この「体積ひずみ」について、次の図のような直方体状の微小片を例に考えてみましょう。


 いま、この微小片の各面に垂直応力が作用した結果、各辺が伸びて体積が増加した状況を想定します。この場合は微小片の体積が膨張したことになります。このとき、体積ひずみeは「(体積変化)/(元の体積)」で表され、「3方向の垂直ひずみの和」にほぼ等しくなります。

 弾性体内でこのような体積変化膨張や圧縮)を生じ、それが波動として伝播して行きます。このような波は「圧力波P波)」と呼ばれています。


 続いて、x軸方向の運動方程式(A)とx軸方向の運動方程式(B)を考えます。方程式(B)をxで微分、さらに方程式(A)をxで微分し、辺々引き算します。

 x‐y‐z系で例えると、x軸方向の方程式をyで微分、y軸方向の方程式をxで微分し、辺々引き算するようなものです。


 今度はωが伝播する波動方程式が得られました。このωは「∂u/x-∂u/x」を集約したものです。この式の形は「どこかで見たことがある」ような気がします。
 それもそのはず、ωは変位ベクトル()の回転(rot )のx軸方向成分に相当します。また、微分の形を見ると「せん断ひずみεij」とよく似ています

 そこで、せん断ひずみ:ε12と、変位ベクトルの回転の成分:ωを比較してみましょう。


 上の図は左から順に「(第1項の変形)+(第2項の変形)→(両者を合わせた変形)」を表しています。

 ここで、「ε12」と「ω」は共に第1項は等しいので、変形も等しくなります。一方、第2項は正負の向きが逆なので、その変形も互いに逆向きとなります。この結果、両者を合わせた変形も異なってきます。せん断ひずみ(ε12)の変形は「斜めに潰れる(ひしゃげる)」ように変形します。一方、回転(ω)の変形は「クルリと回転する」ように変形します。

 つまり、弾性体内では部分的に回転するような変形を生じ、それが波動として伝播して行くことが示されました。このような波は「せん断波S波)」と呼ばれています。
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流体方程式の導出

2022年11月16日 | 物理学の基礎
 前回の記事では「連続体の運動方程式」を導出しました。そこで今回はさらに「粘性流体の構成方程式」と「非圧縮性流体の連続の式」を適用することで、流体力学の方程式を導きます。

 まずは「ナビエ・ストークス方程式」を導出し、その後は簡単な条件を設定することで「ベルヌーイの定理」を導出します。今回使用するのは次の4つの式です。



 まずは、「加速度の定義式」と「粘性流体の構成方程式(応力と速度の関係式)」を「運動方程式」に代入します。その後、一部の項が「連続の式」の形となって消去されます。この結果、「ナビエ・ストークス方程式」の形が現れます。



 続いて、ベルヌーイの定理を導いてみましょう。

 次図のx‐z系において、青い流線で表される流れを想定します。ここでx軸は水平方向、z軸は鉛直方向に対応し、重力はz軸の負の方向に働くと仮定します。ここでは理想流体を考えるため、粘性係数ηはゼロとします。また簡単のため、流線に沿った1次元定常流れとしましょう。


 このような条件下で、流線sに沿ってナビエ・ストークス方程式を立てると次のように表されます。後は、これを流線sに沿って積分すれば良いのです。この結果、ベルヌーイの定理の式が得られます。




 ここでは、ベルヌーイの定理の式を2種類書いています。上の式は各項が「単位質量辺りのエネルギー」で表されるのに対し、下の式は各項は「水頭(ヘッド)」で表されています。但し、数式自体は同じものなので、必要に応じて使い分けると良いでしょう。


 ベルヌーイの定理の応用例として2つ紹介します。まずは「ポンプ」です。ポンプは、その機械的作用によって、作動流体にエネルギーを付加するものです。


 下の流入口(状態1)から流体を吸い上げて、上の流出口(状態2)から吐出する場合を考えてみます。作動流体の持つエネルギーは、状態1より状態2の方が高くなります。

 この時、ベルヌーイの定理の式(エネルギーで表示)は、次の関係を表しています。
(状態1のエネルギー)+(ポンプによって付加されたエネルギー)=(状態2のエネルギー)


 続いて、管を通る流れです。水槽から接続された円管を通って、作動流体が流れ出る場合を考えてみましょう。


(状態1)では作動流体は静止していますが、位置エネルギーを持っています。一方、管の出口の(状態2)では、作動流体が速度vで流出しています。

 作動流体の持つエネルギーは、状態1より状態2の方が低くなります。これは、管の入口(接続部)や管路の摩擦に伴うエネルギーの損失が生じるためです。

 この時、ベルヌーイの定理の式(ヘッドで表示)は、次の関係を表しています。
(状態1のエネルギー)=(状態2のエネルギー)+(管入口の損失)+(管摩擦損失)
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連続体の運動方程式

2022年11月14日 | 物理学の基礎
 今回は「連続体力学」の話題です。固体も流体も、力学的には「連続体」として統一的に扱うことができます。なお、この記事では「専門書」のような厳密かつ精密な理論展開ではなく、ざっくりとした「思考の流れ」を扱います。



 まずは、ある物質の塊を考えてみます。さらにこの塊に外から力(外力荷重)Fを加えてみた所、変形しました。そんな状況をイメージしてみましょう。


 この変形した塊の内部では、外力Fとは異なる力(内力)が分布しています。塊を仮想的に切断してみると、その切断面上では様々な内力Pが分布しています。

 この中のほんの一部(ΔA)に着目すると、このわずかな面積に対してわずかな内力(ΔP)が作用しています。この時の「面積に対する内力」のことを応力と言います。もう少し詳しく見てみましょう。


 微小面積ΔAに対する微小内力ΔPの向き(角度)は、切断面の取り方によって変わります。そこで、微小内力ΔPを成分分解します。つまり、微小面積ΔAに対して垂直な方向(法線方向)と切断面に沿う方向(接線方向)です。

 この各成分ΔPとΔPをΔAで割り、ΔA→0の極限をとったものが、垂直応力σ、およびせん断応力σとなります。


 この概念をもう少し拡張して考えてみましょう。塊全体を考えるに当たって、まずはそのごく一部だけを取り出して考えることにします。この取り出した部分を「微小片」と言います。


 微小片に対して、座標系を設定します。ここでは「x軸、y軸」に替えて「軸、x」を使用します(便宜上)。また、簡単のため「2次元問題」として考えてみます。従って、奥行の大きさは一律で「」(単位長さ)とします。

 微小片に働く応力を考えてみます。応力は微小片の外周(切断面)上に作用するものと考えます。また、応力には垂直応力せん断応力の2種類が存在します。ここで、応力は「σij」の形で表記されます。i軸をぶった切る方向の面に対してj軸の方向に作用する応力という意味です。


 垂直応力(σ11、σ22)は各面に対して垂直に作用する一方、せん断応力(σ12、σ21)は各面を擦る(または、滑る)ように作用します。図中の「×」が作用点です。

 ここで、微小片が勝手に回転することは無いので、せん断応力σ12とσ21は等しくなります(せん断応力σ12とσ21に伴うモーメントは常に釣り合います)。

 また、これらの応力に伴って、微小片に働くx軸とx軸方向の(=応力×面積)を右側の青枠に記載しました。いきなり微分記号(∂)が登場していますが、これは下記の近似を使用したためです。



 続いては、「ひずみ」について考えてみます。微小片に応力が働くと変形を生じます。そこで、「元の長さ」に対する「長さの変化」の割合を「ひずみ」と言います。


 まずは垂直ひずみを考えてみましょう。

 垂直応力σ11が働くことで、x軸方向の長さがΔuだけ変化します。また、垂直応力σ22が働くことで、x軸方向の長さがΔuだけ変化します。

 それぞれ、元の長さに対する変化の割合(さらに元長さ→0の極限)を求めて、ε11とε22が決まります(右側青枠)。


 続いて、せん断ひずみを考えてみましょう。

 せん断応力σ21が働くことで、x軸方向の面がΔuだけシフトします。これに伴い、元長さΔxの面が角度θだけ傾きます。

 また、せん断応力σ12が働くことで、x軸方向の面がΔuだけシフトします。これに伴い、元長さΔxの面が角度θだけ傾きます。

 それぞれ、元の長さに対するシフト長さの割合(さらに元長さ→0の極限)を求めて、角度θとθが決まります。θとθを足して2で割ったものとして、ε21とε12は定義されます(図中青枠)。

 ここで、2つの変位(ΔuとΔu)から3つのひずみ(ε11、ε22、ε21=ε12)が決まります。と、言うことは3つのひずみの間には何らかの関係があるはずです。

 そこで、せん断ひずみε12の式を、xとxで順次微分してみます。


 こうして、3つのひずみの関係が明らかになりました(図中青枠)。この関係を「ひずみの適合条件式」と言います。

 微小片に働く力(応力)と変形(ひずみ)について考えてきましたので、今度は移動(速度・加速度)について考えてみましょう。速度は変位の時間変化で定義されます。また、速度は位置(x、x)と時間(t)の関数です。



 上の図のように、時間Δtの間に点Aが点A’まで移動する場合を考えてみます。速度が時間Δtでの変化量、すなわち加速度を求めてみましょう。
 


 速度が位置(x1、x2)と時間(t)の関数であることに着目すると、加速度は時間微分項非線形項が加わった形で表されます。但し、速度が遅い場合、また変位勾配が小さい場合には非線形項は無視できる程度に小さいと近似することができます。

 最後に、塊全体を取り巻く環境条件を考慮することを考えましょう。例えば、重力場における重力、電磁場における電磁力などの影響です。このような環境(外界)の影響によって作用する力を、単位体積当たりに働く力として考慮し、これを体積力物体力)と言います。



 ここまでの結果を用いて、x軸方向、およびx軸方向の運動方程式を立ててみましょう。



 以上の内容を、アインシュタインの縮約記法(総和規約)を用いて一般化すると次のように表されます。記事の中では2次元問題として扱いましたが、一般化することで3次元問題への適用も容易になります。



 さて、ここまで微小片に働く力(応力)と変形(ひずみ)、移動(速度・加速度)を考察し、運動方程式を導出してきました。しかし、ここまで「この塊」が「固体」であるか「流体」であるかについては明確にしてきませんでした。つまり、ここまでの内容は固体・流体を問わず適用可能と言うことです。

 それでは、「固体」と「流体」の性質はどのように反映させるのでしょうか。実は「固体」と「流体」の性質を決める方程式は、また別に存在します。それは応力ひずみを結びつける「構成方程式」です。

 例えば、「固体」の場合は次のような構成方程式を適用します。


 これを応用することで、「弾性体の変形解析」を行うことができます。

 また、「流体」の場合は次のような構成方程式を適用します。


 上記の応力で表示した運動方程式に、こちらの構成方程式と連続の式を適用すると、粘性流体の運動方程式である「ナビエ・ストークス方程式」が導出されます。これを応用することで、例えば「建造物の通風・換気シミュレーション」を行うことができます。

 このような技術が、さらに「地域気象の計算シミュレーション」にまで発展します。
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