計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

学会発表に行ってきました。

2011年05月22日 | 気象情報の現場から
 学会発表前日の19日(木)は夜時間帯(19:00~20:30)にビジネス英会話を受講した後、そのまま万代バスセンターに向かい、高速バスが23:00に出発→翌20日(金)の04:35頃に西武池袋駅前に到着。人生初の車中泊を経験しました。


(西武池袋駅)


(PARCO池袋駅)

 東京に来た!って感じですね。さすがに早朝だった事もあり、まずは池袋駅周辺を歩いてみました。宿泊先も駅の近辺なので、先に宿の場所だけ確認しました。繁華街に行ってみると・・・さすがに、人もまばらで、朝帰りの人がチラホラと・・・05:00頃まではカラスが我が物顔でゴミを食い散らかし、05:00頃を過ぎると今度はハトがあちこちにたむろする光景が見られました。

 特にする事もないので、新宿に移り、新宿駅近辺を歩いてみました。まだ06時前なのに、結構人が歩いていました。そろそろ通勤ラッシュが始まるのか・・・と思い、小田急線で参宮橋駅に移り、学会の開催場所となる国立オリンピック記念青少年総合センターに向かいました。


(学会の開催場所・国立オリンピック記念青少年総合センター)

 おおよその場所はわかっていましたが、どこから入るのか?が、なかなかわからず随分と遠回りをしました。漸く、この入口を見つけた時には08時近くになっていました。学会のポスター掲示は09時から可能なので、時間的には思いっきり余裕がありました。折角なので、そのまま会場に入って、屋外広場で朝の太陽を受けて日向ぼっこを満喫しておりました。 

 08:30を回った頃、漸くセミナー棟に入りました・・・。


(ポスターを張りました。右下の青い袋にはテイクフリーの資料を用意しました。)

 今回のポスターの全景です。こうして見てみると・・・内容はあっさりしてますね(爆)。

 冬型の気圧配置が形成されると、新潟県内では北西寄りの季節風が吹き荒れる一方、陸上ではこれに対抗するような南東寄りの陸風が発生するため、この両者の収束域にはシアーラインが形成されます。今回は、このシアーラインの形成に関して、観測データに基づく事例解析LESによる数値実験(理想実験)を試みました。

 今回はテイクフリーの資料を15部用意しておりましたが・・・実際にはそれでも足りなかった程でした(当初は殆ど余ると思っていたのですが・・・)。 中には、討論を聞きながら私が用意した資料を手に取り、真剣にメモを取って下さる方もいらっしゃいました。討論を通じても、全般的に好意的に受け止められているとの印象を受けました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

いよいよ山場の一週間!

2011年05月16日 | 何気ない?日常
 20日(金)は日本気象学会2011年度春季大会のポスターセッションに出てきます。

 実はその前日、19日(木)の夜にビジネス英会話の第1回目が開講されるので、授業終了後にその足でバスセンターに行き、そのまま池袋行きの夜行バス(高速バス)で東京に向かいます。そしてそのまま学会発表に臨む・・・と言う強行日程です。

 ポスターセッションの発表は11:30~12:30の1時間なので、これが終わればあとはホッと一息つきたい所です。この日は都内に一泊して、翌日に新潟県内に戻る予定です。発表が終わったら、かつて自分が四年近くを過ごした思い出の(?)街を散策しようと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

物理現象を如何に解析モデルの形に表現していくか・・・

2011年05月10日 | お天気のあれこれ
 このブログも珍しく・・・連休中から毎日更新しています。今回は、物理現象を如何に解析モデルの形に表現していくか、について書き進めてみましょう。


図1. 乱流数値シミュレーションの考え方


 乱流は一つの流れの中に様々なスケールの渦成分が含まれています。これら各々が互いに影響を及ぼしあう事により、流れは複雑な挙動を見せてくれます。RANSでは、全体の平均成分とそこからの偏差に分離し、平均成分はレイノルズ方程式で直接的に解き、偏差分をk-εモデル等の乱流モデルで表現しています。一方LESでは、大きなスケール成分は基礎方程式で直接的に解き、小さなスケール成分についてはスマゴリンスキーモデル等の乱流モデルで表現します。このように乱流は様々なスケールの現象が同時に含まれるマルチスケール現象であると言えるでしょう。そして、気象現象もまた、様々なスケールの現象が同時に含まれるマルチスケール現象なのです。従って、自分が今、どのスケールの現象について考えているのか、を常に意識しなくてはなりません。例えば、総観規模の温帯低気圧の挙動と局地気象のフェーン現象を同列に(ごっちゃ混ぜに)扱ってはならないのです。


図2. モデリングの3つのステップ


 そして、気象現象を構成する要素は、流体力学現象、熱力学現象、地形効果、放射収支、相変化、自転の影響…等のように多岐に渡ります(図2)。従って、解析対象となる局地気象の現象について「どの要素が本質的に重要なのか」を理解し、解析モデルを構築することが大切です。局地的な地形の影響を受けて形成される風の流れ解析に関しては、流体力学現象と地形効果は勿論の事、大気の安定性の影響も重要なので熱力学的現象の影響を考慮する必要があります。このように物理現象のモデリングに際しては、解析対象となる現象を形作る要素に分解し、何が本質なのかを見定めるための仕分けを行い、本質的に重要とされた要素を基に解析モデルの場を構築する、と言う作業が必要となるのです 。


図3. 解析者の思想・哲学


 ここで重要となるのは、何が本質なのかを見定るための判断基準です(図3)。構成要素を仕分けにおいては、解析者の思想・哲学(自然科学的世界観)が問われていると言っても過言ではありません。解析者自身が「対象現象の本質」をどのように理解し、どのように捉えているのか、そしてこれらをどのように表現するのか、と言った考え方が重要となります。つまり、対象とする物理現象において「どの要素がより支配的・卓越する(ドミナント)であると考えられるか」と言う視点が問われる事になるのです。

 もう一つ考えなければならないのが、全体的な流れの方向です。工学問題として扱われるチャネル流れやバックステップ流れの場合は、周囲を壁面に囲まれた準閉空間内の流れであるため、流れが単方向であり、入口から出口への方向が明確です。しかし、局地気象の場合は、広大に開かれた三次元空間(開空間)から対象領域を切り出して、その周囲の流れを仮定し、これを境界条件として与えています。この場合、異なる方向の流れが共存する構造もありえます。実はこれこそが、私を長年にわたって悩ませ続けている課題なのです。


図4. 複雑な流れ構造の発生


 その一例を図4に示しましょう。日本の北東に高気圧の中心が停滞する一方、日本海上から前線を伴った温帯低気圧が接近してくる気圧配置の場合です。この時、A地点における風の流れを考えてみます。下層では高気圧から低気圧に向かって風が流れ込むため、A地点における下層の風向は北東象限となります。しかし、上層では偏西風がドミナントとなるため、上空の風向は南西象限となります。このように下層と上空で風向が逆転する事も珍しくありません。このような気象場を考慮する際の境界条件の設定は容易ではありません。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

熱変数は「温度」と「温位」のどちらを使うか?

2011年05月09日 | お天気のあれこれ
 いよいよGWも明けて、本格始動といったところでしょうか。

 熱流体解析では、運動量(=質量×速度)と熱変数(主に温度)のそれぞれについての支配方程式が必要となります。前者はナビエ・ストークス方程式、後者は熱エネルギー方程式として知られております。キャビティ流れや熱伝導のような工学問題を解く際には、熱エネルギー方程式で取り扱う変数は「温度」を使用します。しかし、局地気象のように(工学問題で扱うものよりも)スケールの大きな現象の場合は、そのまま温度を適用することができない事情があるのです。


図1.室内の水槽実験を考えてみると


 仮想的な室内実験として、キャビティの内部に乾燥した空気を充填させまた状態を想定してみましょう。下から加熱して、上から冷却すると、初期状態における温度の鉛直勾配は、(∂T/∂Z)<0となるため不安定となり、時間が経つにつれて鉛直対流が発生します。上から加熱して、下から冷却すると、初期状態における温度の鉛直勾配は、(∂T/∂Z)>0となるため安定となり、時間が経っても内部流体は静止したままとなります。(※上向きに正となるような鉛直座標をZとします)



図2.温度と温位の数学的取扱


 従って、小さな室内実験スケールのキャビティ流れを考えると

・(∂T/∂Z) < 0 ・・・ 不安定 ⇒ 対流が起こる
・(∂T/∂Z) = 0 ・・・ 中立  ⇒ 安定と不安定の境界線
・(∂T/∂Z) > 0 ・・・ 安定  ⇒ 対流は起こらない

と言う事は、想像に難くないと思います。

 ところが、実際の大気現象はと言いますと、大気が乾燥状態にあると仮定した場合は

・(∂T/∂Z) < Γd ・・・ 不安定 ⇒ 対流が起こる
・(∂T/∂Z) = Γd ・・・ 中立  ⇒ 安定と不安定の境界線
・(∂T/∂Z) > Γd ・・・ 安定  ⇒ 対流は起こらない
※Γd =g/Cp:乾燥断熱減率

となります(尚、符号の取り方によっては不等号の向きが逆になる事があります)。

 ここで注目したいのは、同じ温度Tであるにも関わらず、キャビティ流れと大気現象では中立の条件が異なると言う事です。すなわち、大気現象を解析するに際しては、温度Tに関しては、キャビティ流れと同じような感覚で扱う事ができないのです。数学的な取り扱いが異なるため、何らかの配慮をしなければならないのです(面倒くさいですね)。

 実は、室内実験で扱う現象スケールでは、気圧は殆ど一定を見做す事が出来ます(無意識のうちにそのように扱っているのです)。大気現象スケールでは、気圧は大きく変化するので、空気塊の温度も熱エネルギーそれ自体に加えて、周囲の気圧の影響も加味しなければなりません。

 大気現象の数値解析は、実際の現象を模擬した小さな模型を仮想的に作って実験を行うようなものです。そしてその究極の基本はキャビティ流れに通じます。従って、大気現象における熱的効果を加味するに当たっては、実際の大気現象の温度(非保存量)を何とかして、キャビティ流れの温度のような形(保存量)と同じように扱いたいとの要請が発生します。

 この大気現象の温度をキャビティ流れのような室内実験の温度のように扱うためには、変数変換を行う必要があります。この変換されたパラメータが温位であり、この温位を用いる事により、実際の大気現象を室内スケールの模型と同じように考え、取り扱う事が可能になるのです。そんな訳で、私は数値シミュレーションの際には熱変数には「温位」を採用しています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

天気図の見方をもう一度・・・

2011年05月07日 | お天気のあれこれ

 連休明けて初めての週末の方もいれば、ずっと連休が続いている方もいるのではないでしょうか・・・。


図1.新聞やテレビなどで見られる地上天気図



 図1は新聞やテレビなどで見られる地上天気図の模式図です。天気図の基本的な知識については中学校の理科でも履修しますが、バラエティーに富む知識を短期集中で学ぶため、消化不良でそのまま苦手意識を持ってしまう生徒さんも少なくないようです。今回はこのような地上天気図の見方を振り返ってみましょう。


図2.新聞やテレビなどで見られる地上天気図(説明を付記)



 地上天気図には様々な情報が記入されています。ここでは等圧線、高気圧、低気圧、前線に着目してみましょう。


図3.等圧線



 まずは等圧線を描いてみました。これは海面上(0m)気圧が等しい所を結んでいったものです。気圧の等高線と考えるとわかりやすいでしょう。


図4.空気にも重さがある



 そもそも気圧とは何か、について考えてみましょう。普段の生活では意識していませんが空気にも重さがあります。熱力学でも状態方程式(PV=mRT)が出てきますね。この空気の重さ(m)が気圧として現れるのです。冷たい空気は重くなる一方、暖かい空気は軽くなります。


図5.頭上の空気の総重量



 図5のイメージにように、私達は常に頭上の大気の重さを受けているのです。この重さによって生じる圧力が気圧です。この気圧が高い所が高気圧、低い所が低気圧と呼ばれるのです。


図6.高気圧と低気圧



 高気圧と低気圧を天気図で見ると、図6のような感じです。空気は気圧の高い所から、より気圧の低い所に向かって押し出されます。このために生じる空気の流れがです。


図7.高気圧と低気圧に伴う地上風



そして、高気圧と低気圧は図7のような渦となります。気圧分布が図7のように同心円状の場合は中心から放射状に流れ出したり、周囲から中心にまっすぐ流れ込みそうなものですが・・・実際には、時計回りや反時計回りに傾いています。これは、地球の自転の影響に伴って生じるコリオリの力を受けるためです。


図8.高気圧と低気圧の立体構造



 高気圧と低気圧の立体構造のイメージを図8に示しました。地上の低気圧の中心に向かって周囲から風が流れ込みます。集まった空気は逃げ場を失うため、そのまま鉛直上方へと移動し、次第に上昇気流が形成されていきます。この上昇気流に乗って昇って行くにつれて、(周囲の気圧が下がるため)空気が膨張し、その含まれている水蒸気が凝結するため、が形成されていきます。

 その一方、上空からの空気が降りて下降気流となる部分では、空気の流れが上から押さえつける形になるために大気圧が強化されるのに伴って、高気圧が形成され、この中心から周囲に風が吹き出していきます。


図9.前線を描き加える



 続いては図9のような、前線です。前線の近くでは天気は下り坂になります。


図10.寒気と暖気のぶつかり合い



 前線の構造を図10に描いてみました。南から北上する暖気と、北から南下する寒気がぶつかり合う接触面を前線面と言います。そして、前線面が地上に達してできた線上の領域を前線と言います。暖気は軽く寒気は重いので、暖気が前線面に沿って寒気の上に登ろうとします。これに伴って前線付近には上昇気流が発生し、これが雲を生み出していきます。


図11.実際の温帯低気圧の三次元構造



 実際の温帯低気圧は図11のような構造を持っています。転移層(前線面)の手前に向かって暖気が流れ込む一方、背後には寒気が流れ込んできます。前線面の前方(南東側)では南方から暖かい流れが前線面に流れ込みながら上昇する一方、前線面の後方(西側)では北西方から冷たい流れが前線面に流れ込みながら下降しています

 一枚の天気図から、このような立体構造のイメージに想いを馳せるわけですね・・・。

(追記)
 さらに詳しい解説は「地上天気図の見方・ポイント解説」「高層天気図の見方・ポイント解説」をどうぞ。

コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

傾圧不安定と偏西風波動、温帯低気圧の構造とライフサイクル

2011年05月06日 | お天気のあれこれ
 さて、連休も終わり・・・いよいよ今日から仕事始めの方も多いのではないでしょうか。

 これまで、大気大循環と温度風について述べてきましたので、傾圧不安定と偏西風波動、さらには温帯低気圧の構造とライフサイクルについても解説していきましょう。


図1.偏西風波動(傾圧不安定波)の発生


 既に述べたように、ジェット気流南北の温度差によって生じる傾圧性強化の結果、形成されるものですが、この傾圧性が過度に強化されると力学的に不安定な状態(傾圧不安定)となります。これは、傾圧性が強まりすぎると、その分余計に位置エネルギーを抱える事になる事を意味します。この余剰エネルギーを消費するために、大気は余分な動きをする事によりこれを解消しようとします。これが偏西風波動(傾圧不安定波)の形で具現化します。エネルギー論の視点からは、帯状有効位置エネルギー渦有効運動エネルギーに変換されると考えられます。


図2.偏西風波動の位相と高気圧・低気圧の対応


 地上から高層までをトータルで見ると、この偏西風波動の南側は相対的に高温・高圧であり、北側は相対的に低温・低圧となるため、波動が上(北)に盛り上がる位相(リッジ)では高温・高圧下(南)に盛り下がる位相(トラフ)では低温・低圧の特性が卓越します。従って、リッジとトラフはそれぞれ上空における高気圧、低気圧に対応しています。


図3.高気圧・低気圧と鉛直流


 図3には地上と上空の高気圧と低気圧の簡単な構造を示しました。このような図は中学校の理科(第2分野)でも履修したと思いますが、ここでもう一度確認しておきましょう。

 地上の低気圧の中心に向かって周囲から風が流れ込みます。集まった空気は逃げ場を失うため、そのまま鉛直上方へと移動し、次第に上昇気流が形成されていきます。この上昇気流に乗って昇って行くにつれて、(周囲の気圧が下がるため)空気が膨張し、その含まれている水蒸気が凝結するため、が形成されていきます。

 その一方、上空からの空気が降りて下降気流となる部分では、空気の流れが上から押さえつける形になるために大気圧が強化されるのに伴って、高気圧が形成され、この中心から周囲に風が吹き出していきます


図4.温帯低気圧の三次元構造


 図4には実際の温帯低気圧の三次元構造を示しました。上空のジェット気流、転移層、地上前線の対応関係は既に述べた通りです。転移層の前方(南東側)では南方から暖かい流れが転移層に流れ込みながら上昇する一方、転移層の後方(西側)では北西方から冷たい流れが転移層に流れ込みながら下降しています。


図5.温帯低気圧のライフサイクル


 図5には温帯低気圧のライフサイクルを示しました。上空のトラフが深まるにつれて低気圧も発達し、やがて閉塞していきます。

 このように・・・地球放射と太陽放射の熱収支により、南北方向に熱的不均衡を生じます。この不均衡を解消するべく、大気の大循環による熱輸送を実現しようとしますがコリオリの力が働くため、大循環の構造は三細胞構造となります。このため、隣接する二つの循環が接する領域では転移層が形成され、その上空では温度風の関係を満たすべく偏西風ジェット気流が形成されます。このプロセスにおいて傾圧性が過度に強化されると、大気は力学的な不安定性(傾圧不安定性)が強められ、この不安定性を解消するべく偏西風波動が形成されます。この波動のトラフの位相が低気圧に相当し、転移層前線面に相当する。この一連の結果、前線を伴う低気圧(温帯低気圧)が形成されます。これらのメカニズムは、地球大気の絶妙なバランスの上に成り立っているのです。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「温度風の関係」のイメージを描く・・・

2011年05月05日 | お天気のあれこれ
 今日は5月5日。GW休暇が今日までの方も少なくないのではないでしょうか・・・。明日から仕事、でもまたすぐに週末・・・。ちなみに、私は明日からいよいよ・・・疾風怒濤の日々が始まりそうです。

 さて、今日は「温度風の関係」を取り上げることにしましょう。当初は温度風の性質と「水平風の鉛直シアー」とかいう定義を暗記していましたが・・・後述の図3のような傾圧性に基づく力学的なイメージを構築できたことで、ようやく本質を掴む事ができました。今こうして、気象学を独学で学んだ日々を振り返ってみると・・・温位温度風は特に難解な概念でしたね・・・。



図1.大気大循環と転移層・ジェット気流のモデル図


 図1に示すように二つの循環が隣接する領域では、異なる循環の、互いに性質の異なる大気同士がぶつかり合うため転移層が形成されます。この領域では温度も急変するため、その水平傾度(∂Tm/∂y)も大きくなります。

 この時、後述する温度風の関係に基づいて、この転移層の上を強い偏西風の流れであるジェット気流が走向します。極循環とフェレル循環の間の転移層上空を走るジェット気流は寒帯前線ジェット気流(ポーラージェット)と呼ばれ、フェレル循環とハドレー循環の間の転移層上空を走るものは亜熱帯ジェット気流(サブジェット)と呼ばれます。中緯度地方の日々の天気はこれらのジェット気流の動きによって大きな影響を受けているのです。

 ここからは(北半球の)中緯度地方に限定して考えていきましょう。


図2.上空のジェット気流・転移層と地上前線の関係


 転移層の上空には偏西風ジェット気流が走向している一方で、転移層は地上では前線の形で現れます。この構造を模式的に示したのが図2です。中学校の理科(第二分野)では、二つの異なる性質を持った大気がぶつかり合う接触面を前線面、そして前線面が地上に達する領域を前線と履修した筈です。実は、この前線面はある程度の厚みを持った層状の構造となっており、これが転移層なのです。

 転移層の北側は相対的に低温南側は相対的に高温となるため、両者の間の温度差が大きくなればなるほど(寒暖のコントラストが強まるほど)、その転移層における水平傾度(∂Tm/∂y)は大きくなります。この温度傾度に比例して上空の西風が強まる事が理論的に知られており、これを温度風の関係と言います。上空に昇るにつれて水平風のu成分の変化量(温度風)をutと表記すると次のような関係があります。

t = ( R / f )( ∂Tm / ∂y ) ln(p1 / p2 )


 つまり、温度風の性質としては次の4点を挙げることができます。

(1)等温線に平行に吹く
(2)暖気側を右手に見る方向に吹く
(3)気温傾度(∂Tm/∂y)に比例する
(4)上空に行けば行くほど大きくなる(p1:地上気圧、p2:上空の気圧→上空へ行く程小さい)


 従って、転移層を挟む寒暖のコントラストが強化されると、温度風の関係により上空の西風がより強化されていきます。この結果、このコントラスト(∂Tm/∂y)が特に顕著な転移層の上空ではジェット気流が形成されています。


図3.温度風の関係


 温度風の関係についてさらに考察してみましょう。図3のように転移層を挟む寒気と暖気の気柱を考えると、転移層上空では暖気側から寒気側へと下る等圧面の坂道が形成されます。いま、この坂道の上を運動する空気の塊を考えましょう。この空気の塊は坂道の斜面上にあるため、坂道に沿って暖気側から寒気側に向かって運動させようとする力が考えられる。これはジオポテンシャル傾度力と呼ばれ、傾圧性によってもたらされるものです。その一方で、この空気塊には地球の自転に伴うコリオリの力が働いている。すなわち、この二つの力が釣り合う事で、空気塊は水平方向(西向き)に運動するのです。これは地衡風の関係と良く似ていますね。

 転移層を挟む高緯度側の寒気と低緯度側の暖気の寒暖コントラスト(∂Tm/∂y)が強化されると、暖気側と寒気側の高低差が増す事に伴って、等圧面の坂道勾配が急となるため、傾圧性が強化されます。そして、力の釣り合いの関係からコリオリの力も強化されていきます。この結果、空気塊の速度はさらに増加する・・・という一連の仕組みが働くのです。

(p.s.)
層厚と温度風のイメージ」では、さらに詳しく図解しています。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

地球大気の運動方程式を基に考える・・・

2011年05月04日 | お天気のあれこれ
 それにしても・・・高校の世界史は、なかなか覚えられませんね(やっぱり、理系なんだな・・・)。古代ギリシャとローマの区別がつきにくかったり、とにかく舌を噛みそうなカタカナ言葉が多いです。その一方で、古代中国では難しい漢字ばかりでやっぱり紛らわしい・・・何とか覚えたのが、古代インド・マウリア朝のアショーカ王・・・だけ(爆)。 

 そういえば、ブログではここ2~3日、珍しく真面目に気象学の記事を書いているので(←本来はいつもそうあるべきなのですが)・・・ついでに?、大気の運動方程式についても触れておきましょう。

 今回は、局地気象ではなく・・・むしろ局地気象に支配的な影響を及ぼす、北半球規模での大規模スケールの運動を考えてみましょう。図1のように北半球上に原点をとり、直交座標系を設定します。


図1.北半球上に設置された直交座標系


 直交座標系内のある一部の空気の塊についての運動方程式は次のように表すことができます。

(x軸方向:東西方向) ρ(du/dt)=-(∂p/∂x)+ρfv+Fx
(y軸方向:南北方向) ρ(dv/dt)=-(∂p/∂y)+ρfu+Fy
(z軸方向:鉛直方向) ρ(dw/dt)=-(∂p/∂z)    +Fz-ρg

ここで
 (du/dt)=(∂/∂t)+u(∂/∂x)+v(∂/∂y)+w(∂/∂z)
 f=2Ωsinφ

 地球上の大気には、気圧傾度力、コリオリの力、摩擦力、重力の4つの力が働いています。コリオリの力とは、地球の自転に伴う慣性力で、進行方向の右向きに働きます。


図2.上空の風と地上の風


 図2には地上と上空の風の様子を示してみました。上空の大気については、x軸方向とy軸方向の運動方程式において、第一近似としてこれを定常流と見做すと、結局は気圧傾度力とコリオリの力の釣り合いに帰着するので、次の式で表されるような流れに書き直すことができます。

 g = -(1/fρ)(∂p/∂y)
 g =  (1/fρ)(∂p/∂x)

 このような上空の風を地衡風と呼びます。実は、上空の風はこの地衡風に近い状態で流れています。その一方で、地上の流れはさらに摩擦力が加わるため、風の向きが等圧線に対して傾いています。

 続いて、今度は鉛直方向について考えてみましょう。図3のような気柱(大気の柱)を考えてみます。


図3.気柱と静力学平衡


 柱の一部を赤い部分のような微小片として捉え、この微小片に働く力の釣り合いを考えましょう。重力は下向きに働き、これに抗して微小片を上向きに支える力は上下の気圧の差によって生じます。従って、重力と気圧の差による力の釣り合いは次のように表されます。

-ρ×S×Δz×g=Δp×S

 これを簡単化して

Δp=-ρgΔz

 この極限をとると、次のような静力学平衡の関係を得る事ができます。

(∂p/∂z)=-ρg

 これは、鉛直スケールの運動が無視できると仮定した場合の鉛直方向の運動方程式であると言えます。

 また、理想気体の状態方程式は次のように与えられます。

p=ρRT


図4.層厚と傾圧帯


 ここまでの知見を応用して、図4の左側に示すような気柱の中のz1~z2の部分の厚さΔzを求めてみましょう。この厚さは層厚(シックネス)と呼ばれ、上端と下端の気圧(p2、p1)と層内の平均気温Tmから次のように求める事ができます。

Δz=(RTm/g)ln(p1/p2)

 気柱の底面における大気圧は気柱内に含まれる空気の総重量に比例しますが、この式の形から、この平均気温が高ければこの気柱の底面における気圧は高くなり、この平均気温が低ければこの気柱の底面における気圧は低くなると言えます。

 図4の右側には北半球の様子を経線方向の断面図で模式的に表してみました。低緯度側では気温が高いため気柱の高さ(気圧がp2となる面=等圧面の高度)は高くなる一方、高緯度側では気温が低いため気柱の高さは低くなります。両者に挟まれた中緯度地方では、気柱の上端(気圧がp2の等圧面)は低緯度から高緯度に向かって傾斜しています。すなわち、低緯度から高緯度に向かって等圧面p2の坂道が作られていると考える事ができます。この等圧面の坂道の傾きを傾圧性と呼び、この傾きが緩やかであれば傾圧性が弱い、この傾きが急になるほど傾圧性が強いと言います。


図5. 高層天気図で見る傾圧帯のイメージ図 (夏の場合)


 図5には、500hPa面の高層天気図のイメージを示しました。地上天気図は海面上における気圧や前線の分布、そして地上の各種観測値を一つの地図上に重ねて表示していますが、上空の大気の様子を示す高層天気図は等圧面上の地図を描いています。この図は500hPa等圧面上の天気図であるため、この図面上はどこでも気圧が500hPaとなります。

 この図の等値線は、気圧が500hPaとなる高度(ジオポテンシャル高度)を表しています。冬の天気予報で「上空5500m付近の寒気が・・・」と言うフレーズを良く聞くと思いますが、この「上空5500m付近」とは、500hPa等圧面の事を指しています。この高度では60m毎に等高度線が引いてあります。図5では、500hPa等圧面は日本の南海上では5940mと高くなる一方、オホーツク海上空で5520mと低くなっていますね。

 この図の場合は、青森県からオホーツク海にかけては等圧面の坂道の傾きが急となるため傾圧性が強くなる一方、華中からシベリアにかけては等圧面の坂道の傾きが緩やかになるため傾圧性が弱い事が見て取れます。また、等高度線の形に注目してみると、沿海州から中国東北部、黄海を経て華中に向かって、下(南)に凸となる領域が広がっています。これが上空の気圧の谷(トラフ)です。その直ぐ西側では等高度線が上(北)に凸となる領域が広がっています。これが上空の気圧の峰(リッジ)です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大気の大循環は、なぜ三細胞構造となるのか・・・

2011年05月03日 | お天気のあれこれ
 世間はゴールデンウィークのようですが、私には浮かれている余裕はありません・・・。

 さて、大気大循環はどうして三細胞構造になるのか ・・・この問題もまた、私にとっては非常に悩ましいものだったので、今回取り上げてみました・・・。


図1.地球放射と太陽放射(上)、地球放射と太陽放射の熱収支(下)


 地球放射と太陽放射の関係について図1上に示しました。周知のように地球には太陽からのエネルギーが降り注いでいます(太陽放射)。その一方で地球は外部に向かって常にエネルギーを放出し続けています(地球放射)。

 図1下のグラフには地球放射と太陽放射の熱収支を示しました。赤道付近では加熱が進む一方、極地方では冷却が進む事になるので、赤道から極に向かっての熱輸送が行われます。この熱輸送の仕組みとして考えられているのが、これから述べる大気大循環です。


図2.大気大循環の構造


 当初は図2(a)のように赤道を熱源極地方を冷源とした一つの大きな熱対流が起こっていると考えられていました。しかし、実際には図2(b)のような三つの循環からなる三細胞構造だったことがわかってきました。この構造のメカニズムについて、単純化して考えてみましょう。


図3.大気大循環の水槽モデル概念図


 図2の大気の大循環を、図3のように簡単なモデルに表してみました。水槽の片側を熱源反対側を冷源としてこの水槽内の鉛直循環を考えるものです。


図4.極循環の形成メカニズム


 まずは極循環の形成メカニズムを考えてみます。図4に示したように、当初の考え方によれば、水槽の底面では空気の塊は冷源から熱源に向かって真っ直ぐに進もうとする筈ですが・・・

 ここで重要となるのが、コリオリの力です。地球上で運動する物体には、地球の自転に伴ってコリオリの力という慣性力が働きます。いま、物体が速度u[m/s]で運動している場合、コリオリの力は進行方向の右向きに作用し、その大きさは「2Ωusinφ」で表すことができます(Ω:地球の自転の角速度[rad/s]、φ:緯度[°])。

 従って、実際にはコリオリの力が働くため、空気塊の軌道は右向きにねじ曲げられていきます。この結果、90°Nからスタートした空気塊の南下はおよそ60°Nまでが限界となり、この範囲に限定した鉛直循環を形成する事になると考えられます。


図5.ハドレー循環の形成メカニズム


 続いてハドレー循環の形成メカニズムを考えてみましょう。図5に示したように、当初の考え方によれば、水槽の上面では空気の塊は熱源から冷源に向かって真っ直ぐに進もうとする筈です。しかし、上記と同様に、実際にはコリオリの力が働くため、空気塊の軌道は右向きにねじ曲げられていきます。この結果、0°Nからスタートした空気塊の北上はおよそ30°Nまでが限界となり、この範囲に限定した鉛直循環を形成する事になると考えられます。

 以上の極循環とハドレー循環のように力学的なメカニズムで直接的に駆動される循環を直接循環と言います。これに対してフェレル循環のように二つの直接循環に挟まれる事によって結果的に新たな(見せかけの)循環として生じるものを間接循環と呼びます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

温位=ポテンシャル温度・・・これは一体、何なのか?

2011年05月02日 | お天気のあれこれ
 そういえば・・・似たような言葉に電磁気学の「電位」がありますね。たまには真面目に気象学的な事も書いてみます・・・。

 まずは、空気塊を断熱的に持ち上げるとどうなるかを考えてみましょう。空気塊を断熱的に鉛直上方に持ち上げると、周囲の気圧が低下するのに伴って膨張します。このため空気塊自身の温度も低下していきます。この時に重要になるのが、周囲の大気の温度状態です。図1のように3つのパターンを考えてみましょう。空気塊が地上→1km→2km→3kmと上昇するのに伴って、空気塊自身の温度は30℃→20℃→10℃→0℃と低下していきます。


図1.大気の安定性


 空気塊自身の温度よりも周囲の気温が常に高い場合(a)は、空気塊は周囲よりも低温となるため、空気塊はもとの位置(高度)まで自然に戻っていきます。このような大気の状態を安定と言います。安定大気場においては、何らかの要因で空気が持ち上げられたとしても自然にもとの状態に戻ると言えます。

 空気塊自身の温度よりも周囲の気温が常に等しい場合(b)は、空気塊は周囲と同温となるため空気塊は自然にその位置に留まろうとします。このような大気の状態を中立と言います。

 空気塊自身の温度よりも周囲の気温が常に低い場合(c)は、空気塊は周囲よりも高温となるため空気塊はさらに浮力を得て自然にどこまでも浮かび上がっていきます。このような大気の状態を不安定と言います。不安定大気場においては、何らかの要因で空気が持ち上げられたとしても、そのまま空気は上昇を続けるため対流が起こりやすい状態にあると言えます。


図2.大気の安定性と気温減率


 周囲の大気の気温プロファイルを比較してみましょう。図2には、図1の安定、中立、不安定の各パターンにおける周囲の気温の鉛直プロファイルをグラフで示しました。横軸に気温、縦軸に高度をとっています。この図から、気温の鉛直プロファイルの傾きが中立の場合よりも直立に近ければ安定、中立の場合よりも横に傾いていれば不安定と言えます。すなわち、上空に寒気が入るほど、または地上気温が上がるほど、気温の鉛直プロファイルは横に傾きやすく不安定性が強まる、と言えるのです。

 以上の関係を数式で表すと次のようになります。

dT/dz < -Γd (不安定)
dT/dz = -Γd (中 立)
dT/dz > -Γd (安 定)


 ここで、Γd = g / Cp乾燥断熱減率と言います。

 図1で考察したように、空気塊が断熱的に鉛直運動をすると、周囲の気圧が変化する事に伴って膨張や圧縮をするので空気塊自身の温度も変化します。この事から空気塊自身の温度は変化の経路の影響を受けると言えます。しかし、空気塊の挙動は断熱的に行われるため、外界との熱エネルギーの授受は行われておりません。すなわち、空気塊自身が持っている熱エネルギーは常に一定に保存される筈です。このような、変化の経路の影響を受けることなく条件が決まれば一義的に定まるようなパラメータとして、気象学では次式で定義される温位(ポテンシャル温度)を使用します。これは、ある等圧面p上に存在する空気塊を、断熱的に基準気圧面p0にまで持ってきた時の空気塊の温度を表します。ちなみに、温位に近い存在としては、例えば、工業熱力学のエントロピー(dS = dQ / T)を挙げる事ができるかもしれません。

θ = T ( p0 / p ) R/Cp



図3.温位の概念


 ここでは温位の物理的な意味を考えてみましょう。図3には空気塊の断熱的な鉛直運動の際の温度と温位を比較してみたものです。両者の条件は等しいものであると考えています。空気塊が上昇すると、周囲の気圧低下に伴って断熱膨張するため、空気塊自身の温度は低くなっていきます。また、空気塊が下降すると、周囲の気圧上昇に伴って空気塊は断熱圧縮されるため、空気塊自身の温度は上昇します。その一方で、空気塊の一連の挙動は全て断熱変化であるため、外界との間での熱エネルギーの授受はありません。このため空気塊の温位は常に保存されています


図4.大気の安定性と温位減率


 続いて、大気の安定・不安定を温位を用いて考えてみましょう。図2では高度‐温度線図を示しましたが、図4には高度‐温位線図を示してみましょう。中立状態では温位が高度に関わらず一定となり、これより右側に傾けば安定、左に傾けば不安定となります。次に示す温位鉛直方向の温位傾度dθ/dzを考えると、以下のような関係が成立します。

dθ/dz = ( dT/dz + Γd ) ( p0 / p ) R/Cp

dθ/dz < 0 (不安定)
dθ/dz = 0 (中 立)
dθ/dz > 0 (安 定)

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

山越え気流の解析モデル

2011年05月01日 | 計算・局地気象分野
 いよいよ5月に入りました。学会発表も間近に迫ってきています。今回は「新潟県内における冬の季節風と陸風によるシアーライン発生の数値実験」と題して、また新しい数値シミュレーションを試みました。数値実験を色々と試行する事で、想定した条件に対する局地気象のレスポンスを探ってみました・・・。そんなわけで、もう一度、基本的な知識をおさらいしてみようと思います。


 さて、日本の国土の多くは急峻な山岳地形ですので、局地気象の基本として山岳地形の影響を考える必要があります。この出発点となるのが山岳地形を乗り越える気流の解析(山越え気流)です。山越え気流の問題は局地気象の古典的な問題として多くの研究者によって解析が行われてきました。

 まずは、山越え気流の中でも良く知られているフェーン現象を例に挙げてみましょう。一般にフェーン現象は、山を乗り越えて吹き降りる風が高温になる現象ですが、大きく分けると次の二種類があります。一つ目は様々な気象の記事や教科書等で目にする湿ったフェーン(熱力学的フェーン/ウェットフェーン)であり、もう一つは相変化を伴わない乾いたフェーン(力学的フェーン/ドライフェーン)です。


図1.二種類のフェーン現象


 飽和した空気の高度に伴う気温変化率(dT/dz)は約0.5℃/100mですが、乾燥した空気の気温変化率(dT/dz)は約1.0℃/100m(乾燥断熱減率)となります。湿ったフェーンは、山を乗り越える際はdT/dz≒0.5℃/100m(湿潤断熱減率)の割合で降温する傍ら、山頂付近で水分が凝結→降水を経て空気の外に出て行くために空気自身は乾燥し、山の斜面を吹き降りる際にはdT/dz≒1.0℃/100mで昇温していきます。

 一方、乾いたフェーンは、山頂付近を流れる風が、山頂を越えた後に力学的な要因により急降下する事に伴い、断熱圧縮されるために昇温するものです。実際には乾いたフェーンと湿ったフェーンの発生ウェイトは、最新の研究報告によると「乾いたフェーンが80.8%、湿ったフェーンが19.2%」と言われています(※2021年11月24日・追記)。乾いたフェーンのように、山頂付近の流れが急降下して風下側の麓に強風として吹き降りる現象をおろしとも言います。



図2.山越え気流のモデル化 (定常流れの理論に基づく)


 図2にはこのメカニズムの解析モデルを示しました。ある高さH0[m]における等圧面を点線で表し、これを自由表面と呼びましょう。地表面付近の大気(上空数km程度←山岳標高の2倍程度を目安)を、自由表面を境に上下2つの層に分ける二層構造で考えます。そして、下側の層の温位(ポテンシャル温度)をθ0[K]、上側の層の温位を少し高めのθ0+Δθ[K]であるとしましょう。この温位(ポテンシャル温度)とは温度に替わるパラメータです。また、左側から速度u0[m/s]の風が流入するものと考えましょう。そうすると、次に示すフルード数Frの大小によって山を乗り越える流れの様子が大きく変化します。フルード数の定義には、流入速度u0の大小が反映されているため、u0が大きいほど(Frが大きいほど)流れは山を乗り越えやすく、風下でのおろしが発生しやすいのです。

Fr = u0 / { g (Δθ / θ0 ) H0 } 0.5



図3.山越え気流の数値シミュレーション


 図3には、山越え気流の数値シミュレーションの解析例を掲載しました。初期状態として、図2のような大気の二層構造を考え、自由表面は水平であるものと仮定しました。境界条件としては、左端面から右方へ向かう一様な水平流u0が安定して流入し、右端面から流出していくものとします。そして、この流路の途中に山岳地形を模して三角形の山を置くものとします。この時、流れが山を乗り越える際の流れの特性の違いを見てみましょう。

 上の低フルード数では自由表面は山頂付近で凹状に僅かに陥没しましたが、ほぼ初期状態(=水平状態)を維持しています。山頂付近で風速が一時的に強化された後も、そのまま水平な流れを維持しながら減速傾向にあるといえます。一方、下の高フルード数の場合では、自由表面は波状にうねり、風下側の麓に向かって風が強く吹き降りる様子が解析されおり、図2の特性が再現されているのが判ります。

 このような山越え気流のシミュレーションは、多くの研究者によって既に解析されております。それは換言すると、シンプルでありながら実に奥が深い、という事の現れでもあるように感じます。この解析モデルの考え方を応用して、実際の詳細な地形条件を考慮した三次元の熱流体解析を行った事例を次の紹介しましょう。


図4.冬型の気圧配置となる条件下での山形県置賜地方におけるフルード数と局地風の関係

 まずは冬型の気圧配置となる条件下での山形県置賜地方におけるフルード数と局地風の関係を解析です。局地風は、フルード数が低い場合は季節風とは異なり南よりの風向が卓越する一方、フルード数が高い場合は季節風に沿って西よりの風向が卓越する特性が解析されました。


図5.新潟県上越地方のドライフェーンに伴う高温域

 続いて、新潟県上越地方のドライフェーンに伴う高温域の再現実験です。局地風系と気温の特徴(高温域の発生)は、数値モデルの単純さにも関わらず良く再現されましたが、高温域の気温が実際のケースよりも若干高めに計算される等の誤差も見受けられました。

 このように、二層構造による山越え気流の解析モデルはシンプルな構造でありながら、幅広く応用が効くのです。但し、フルード数やそれに関わる各種のパラメータの決め方で、毎回悩むんですよね・・・。

(p.s.)
さらに詳しいシミュレーションを「山越え気流の2次元解析」に掲載しています。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする