計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

エネルギーと質量の等価性

2023年08月31日 | 物理学の基礎
 前回の記事では「ローレンツ変換」を導入しました。今回はその続編として「エネルギーと質量の等価性」を導いてみます。

 ここでも、前回と同様に2つの慣性系としてK系とK'系を導入し、それぞれに観測者A、Bが存在すると考えます。また、K系は静止する一方、K'系は(K系に対して)一定の速度vで運動する状況を想定しています。


【等速運動する慣性系における物体の衝突】

 今回は、等速運動する慣性系(K'系)の中で2つの物体を衝突させてみます。この2つの物体は同じ質量を持っており、互いに同じ速さ(向きは逆向き)で等速運動して衝突に至ります。



 この場合、K'系の観測者BとK系の観測者Aでは、現象の見え方(認識)が異なります。まず、観測者Bから見ると「同じ質量m'の物体が、同じ速さu'で逆向きに運動して正面衝突し、衝突直後は静止状態に至る」と認識します。

 一方、観測者Aから見ると「物体1と2は互いに同じ向きに、異なる速さu1,u2で等速運動しており(u1>u2)、物体1が物体2に追いつくように衝突し、衝突直後は(慣性系K'と同じ)速度vで運動する」と認識します。

 また、観測者Aから見ると、ローレンツ変換によってK'系内の時間と空間が変化しているので、2つの物体の質量m1,m2についても「互いに等しい」と認識できるとは限りません。



 そこで、K系の観測者Aの視点で、K'系内の2物体の運動量保存則、および各物体の速度のローレンツ変換の式と立て、2物体の質量比(m1/m2)を導きます。

 本来、2つの物体と同じ慣性系に存在する観測者(この場合はB)から見れば、質量比は「もちろん1」となるのですが、異なる慣性系の観測者(この場合はA)から見ると「必ずしも1とは限らない」と考えるのです。


 ここで、この質量比(m1/m2)2の式は、運動量保存則とローレンツ変換の式から「u'とvを消去する」ことで導かれるのですが(教科書には「この記述」しかなかった)、このやり方には「コツ」があります。当初、独力ではなかなか導けなかったので、ネットで調べて漸くそのテクニックを見つけました。


 (※予め「1-u12/c2」と「1-u22/c2」を計算しておいて、後からまとめて代入するのです。)


【相対論的質量】

 続いて、K系とK'系のそれぞれに物体を置いた場合を考えてみます。今度は、物体1はK'系において静止状態にあり、物体2はK系において静止状態にある状況を考えます。

 この場合、観測者Bから見ると物体1は静止状態として認識されます。一方、観測者Aから見ると物体1は(K'系と同じ速度)vで等速運動していると認識されます。



 さて、そもそもの前提として、物体1と物体2は同じ慣性系においては同じ質量を持っています。そこで、物体2を物体の本来の質量m0、物体1をK'系において変化したかも知れない質量mと考えて、質量比(m1/m2)を求めてみます。


 この結果、K'系内における質量はmは、本来の質量m0のγ倍に変化していることが判りました。この変化した質量mを「相対論的質量」と言います。


【相対論的力学】

 古典力学における「運動量」は質量と速度の積で定義されます。また、「ニュートンの運動方程式」は、「運動量の時間微分が外力に等しい」という形で表されます。

 これを踏まえて、相対論的質量と速度の積を「相対論的運動量」と言います。また、「相対論的運動量の時間微分が外力に等しい」という形で表される方程式を「相対論的運動方程式」と言います(次の式では速度と外力をベクトルで表記しています)。



 ここで、エネルギーの変化は外力による仕事によってもたらされると考えると、エネルギーの微小変化(dE)は微小仕事(F・dr)で表されます。後はひたすら数学の問題です。



 両辺を速度0からvまで積分すると、エネルギーの変化と質量の変化の関係(エネルギーと質量の等価性)が導かれます。



 ここで「右辺」の積分には、これまたちょっとした「コツ」が必要となります。こちらもネットで調べて漸くそのテクニックを見つけました。


 (※要は「(1-v2/c2)-3/2=(d/dv)(1-v2/c2)」を発想できるかどうかがポイントです。)
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ガリレイ変換とローレンツ変換

2023年08月31日 | 物理学の基礎
 先日の記事でも述べましたが、この夏の暑さは異常です。外に出るのも儘ならず、インドアで過ごすことが多くなりました。

 そこで、この8月中はスキマ時間に「特殊相対性理論」の解説を読み返しておりました。工学部(機械系)で特殊相対性理論を履修したのは、約四半世紀前の大学1年(教養部)の頃です。使用された物理学の教科書では僅か「10ページ前後」の記述でしたが、なかなか難解でした。あらためて理解したイメージを「メモ書き」として記事に残しておきます。


【異なる2つの空間(K系とK'系)】

 まずは一連の話の前提として、異なる2つの空間を導入します。一方の空間をK系、もう一方の空間をK'系と呼ぶことにしましょう。

 K系は静止状態にあり、この中には観測者Aが存在します。また、K'系は一定の速度で動いており、この中には観測者Bが存在します。K系が駅のホームだとすると、K'系はホームを通過する新幹線のようなイメージです。



【慣性系】

 ここで、K系とK'系のそれぞれに座標を設定します。これらの座標系は「慣性系」と呼ばれます。慣性系とは、慣性の法則が成立する座標系の事です。慣性の法則は「静止している物体は静止し続け、運動している物体は一定の速度を保ちながら運動を続ける」と言う法則です。

 つまり、座標系は静止しているか等速運動をしているため、その加速度は常にゼロであり続けます



【ガリレイ変換】

 K'系内における点Pに着目し、この点Pの位置を観測者A、Bのそれぞれから見た場合の見え方について考えてみます。点Pの位置(座標は)は、観測者Aからはxの位置に見えます。そして、この位置xは時々刻々変化します

 一方、観測者Bからはx'の位置に静止しているように見えます。観測者Aの立場から言えば「観測者Bもまた点Pと共に同じ速度で動いている」のです。

 この関係を等式で表し、時間微分を施すと、位置の関係から、速度や加速度が導かれます。その結果、運動方程式はK系、K'系で同じ形となります。


 すなわち、一つの座標(慣性系)で成立する力学の原理は、これと等速運動する他の座標系(慣性系)についても成立します。従って、力学現象の基礎として絶対速度を測定する方法は無く、ただ相対速度のみが測定できる、と言うことです。これを「ガリレイの相対論」と言います。


【非慣性系と慣性力】

 ここで、もしK'系が慣性系ではなかった場合を考えてみましょう。つまり、K'系が一定の「加速度」を持って運動している状況です。この場合、K'系は「非慣性系」と呼ばれます。



 先ほどのガリレイ変換と同様に、K'系内における点Pに着目し、この点Pの位置を観測者A、Bのそれぞれからの見え方(位置)について式を立ててみます。時間微分を施すと、位置の関係から、速度や加速度が導かれます。


 その結果、K'系の運動方程式の中に「-ma」と言う項(慣性力)が現れました。非慣性系の運動では、座標系自身の加速度に伴う「みかけの力」が新たに加わります。


【K'系における光の往復(1)】

 ニュートンの運動方程式と慣性系の関係を概観した後は、マクスウェルの電磁方程式と慣性系の関係を見てみましょう。ここでは、運動する座標系(K'系)の中で光(電磁波)を往復させ、その様子を外部の静止系(K系)の観測者Aの目線で考察してみます。

 まずはK'系の中で、光を(K'系の)進行方向に沿って、距離lだけ往復させてみます。



 K'系では「光源から反射板までの光の速度はcであり、また反射板から反射される光の速度もcと認識される」と考えられます。

 一方、K系では、K'系自体の速度vも加わるため、「光源から反射板までの光の(相対)速度はc+vであり、また反射板から反射される光の(相対)速度もc-vと認識される」と考えられます。

 この結果、K系の観測者Aから見た場合の光の往復に要する時間t1が求められます。



【K'系における光の往復(2)】

 続いて、K'系の中で、光を(K'系の)進行方向とは垂直に、距離lだけ往復させてみます。

 K'系では「光源から反射板までの光の速度はcであり、また反射板から反射される光の速度もcと認識される」と考えられます。

 一方、K系でも「光源から反射板までの光の速度はcであり、また反射板から反射される光の速度もcと認識される」と考えられます。


 ただし、K'系自体の速度vの影響で、「光の進み方は『真っ直ぐ』ではなく『斜めに傾く』と認識される」と考えられます。

 この結果、K系の観測者Aから見た場合の光の往復に要する時間t2が求められます。



【2種類の光を合わせると】

 ここで、上記の2つの光(1)(2)を合わせた場合を考えてみます。

(1) K'系の進行方向に沿った方向(往復時間:t1)
(2) K'系の進行方向に垂直な方向(往復時間:t2)

 当初、2つの光は時間差「Δt = t1 - t2」に相当する干渉を生じる(時間差がある=光路差がある)と考えられました。しかし、実際には観測されなかったのです(あれっ?)。

 K系とK'系との間で「ニュートンの運動方程式」は変わらず適用できますが、「マクスウェルの電磁方程式」の場合はちょっと勝手が違うようです。そこで、次のような要請(アインシュタインの要請)が基本原理に組み込れました。

(1)1つの慣性系で成立する物理法則は、これと等速運動する他の座標系(慣性系)に対しても同じ形で成立する。
(2)真空中の光の速度は、光源および観測者の運動とは無関係に、常に一定である(光速不変の原理)。

 つまり、光速が変化するのではなく、K'系の空間が歪む(縮む)ことで「Δt = t1 - t2 = 0」、つまり「t1 = t2」となる(←辻褄が合う)と考えます。この時、K'系の空間は元の長さlからl'に変化すると考えます。この結果、「t1 = t2」が実現すると考えると、次のような式が得られます。


 このように、慣性系の速度に応じて内部の空間が縮むことを「ローレンツ収縮」と言います。


【ローレンツ変換】

 ローレンツ収縮の概念を拡張してみます。 

 改めて、K系(静止)に光源を設置し、K'系(運動)の中にある点Pに向かって光を発射する状況を考えてみます。

 ここで、K系とK'系の時刻をそれぞれt,t'と表すことにします。また、K系とK'系の座標をそれぞれx,x'と表すことにします。

 初期状態(t = t' = 0)の時、K系とK'系は重なっており、この瞬間にK系の光源(x = 0)から光を発し、同時にK'系は速度vで動き出すものとします。



 ある程度の時間(K系ではt、K'系ではt')が経過した後の様子を考えてみます。ここからは、座標系の取り方とは無関係に一様に流れる「絶対時間」という考え方を捨てて、各慣性系毎に異なる時間を考えます。

 改めて、光の経路上に点P1、点P2、点P3を置いて考えてみます。P1~P2間はK系のみ、P2~P3間はK系とK'系が重なっている区間となります。



 ここで、K系に固定された光源(点P1)から発せられた光は、点P2を経てK'系内に入り、点P3に到達したとします。

 観測者Aの視点に立って、P1~P3間の距離を考えてみると、P1~P2間の距離は「時間tにおけるK'系の移動距離」であり、P2~P3間の距離は「K'系内を通過した距離」となります。

 一方、観測者Bの視点に立って、P2~P3間の距離を考えると、やはり「K'系内を通過した距離」となります。

 ここで、P2~P3間の距離について、2人の観測者の認識が異なります。観測者BはP2~P3間の距離をx'と認識しています。しかし、観測者Aはx'からローレンツ収縮した長さを認識しています。K'系内は空間そのものが収縮しているので、観測者Bも一緒に収縮していることになります。もちろん、観測者Bは自らの収縮を認識できません。

 従って、観測者Aの認識をベースに、観測者Bが認識する空間x'と時間t'を表現すると、次のようになります。


 つまり、K系とK'系では「空間の大きさが変わるのと同時に、時間の長さも変わる」ということです。この変換を「ローレンツ変換」と言います。また、この逆変換は次のようになります。



 ここで、ローレンツ変換の式を基に、空間と時間の微小変化を考えてみましょう。



 時間と空間の微小変化を基にして、速度成分のローレンツ変換の式を導くことができます。



 この続きとなる「エネルギーと質量の等価性」は、こちらです。

 ちなみに、現実の世界で身近な物理現象を考える際は、運動速度vは光速cよりも圧倒的に小さく「古典力学(ニュートン力学)」で十分対応できます。ローレンツ変換の式で「(v/c)→0」の極限を取ると、ガリレイ変換の式と一致します。

 一方、「光速に近い速度で運動する、または天体のような巨大な質量を扱う」ような物理現象を扱う際には、この知識は必要になると学びました。今後の人生において、そのような現象を扱うことが「全く無い」とは言い切れないので、念のため勉強しておきます。
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一方向に伝わる電磁波

2023年05月03日 | 物理学の基礎
 前回の記事では、マクスウェル方程式のイメージを概観した後、真空中の条件下における電場と磁場の波動方程式を導出しました。



 今回は簡単のため、電磁波が「1方向(z軸方向)にのみ」伝播する場合を想定します。つまり、電場と磁場は位置(zのみ)と時間(t)の関数として扱われます。この時、電場と磁場のベクトルの発散と回転は次のように求められます。



 この結果を「マクスウェル方程式(真空中)」に代入すると、電場と磁場の成分について次のような関係式を得ます。


 上記の赤字で示したように、電場と磁場のz方向(波の進行方向)成分は変化しません。つまり、電磁波は横波であることが判ります。

 また、「電場のx成分と磁場のy成分」および「電場のy成分と磁場のx成分」が互いに影響を及ぼし合う関係(波動方程式)が導き出されます。電場の波と磁場の波は互いに直交することが判ります。



 そこで、新たに「電場はx軸方向にのみ変化し、磁場はy軸方向にのみ変化する」と仮定しましょう。また、電場の波動方程式の解を「sin(ωt-kz)」の関数と仮定します。ここで、ωは角振動数、kは波数です。

 なお、初期時刻(t=0)の原点(z=0)では電場・磁場ともに変位を生じない(E=H=0)ものとします(初期条件)。



 計算の結果、磁場の波動方程式の解も「sin(ωt-kz)」の関数で表される事が導かれました。すなわち、電場と磁場の波は同位相で伝わることが判りました。

 この場合の電場と磁場の波のイメージをCGで描いてみると、次の図のようになります。



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電磁場のマクスウェル方程式

2023年05月02日 | 物理学の基礎
 実はここ数年、集合住宅の居室内で携帯電話の電波の不調が目立つようになりました。高層ビルが「雨後の筍」の如く周囲に出現していることも一つの要因ではないか、そうだとすると物理学的な背景は何か?と考えています(そもそも、電波環境の良い所に引っ越しを検討する方が先かも)。

 そこで、ここ最近は電磁気学を勉強し直しています。工学部(但し「機械系」)で電磁気学を履修したのは、約四半世紀前の大学1年(教養部)の頃です。当時は「ベクトル解析」に不慣れなことに加え、「電場と電束」「磁場と磁束」の概念を混同しておりました。改めて学び直すことで、ようやくイメージが掴めてきました。


 電磁気学の諸現象は「マクスウェル方程式」から出発して導くことができます。そして、この「マクスウェル方程式」とは電磁気に関する次の4つの方程式から構成されます。


 (1)(2)は各々「電場と磁場の特徴」について記述しており、(3)(4)は「電場と磁場の相互作用」について記述しています。

 この記事では、マクスウェル方程式の「イメージ」を概観した後、電磁波の「波動方程式」を導き出します。より深い専門知識については、多くのサイトで解説されているので、ここでは割愛します。


(1)電場に対するガウスの法則

 電気を帯びた物体があると、その周りでは電気的な力(静電気力)が働く空間が生成されます。この空間のことを「電場電界)」と言います。電場の強さは、その影響によって生じる電気的な力(静電気力)のベクトル量で表されます。

 電気には正(+)負(-)の2種類の電荷があり、電場によって生じる力は正から負の向きに働きます。この分布を図で表したのが電気力線電束線です。いずれも「+極」より出でて「-極」に至るのが特徴です。そして、正(+)と負(-)は各々単独の電荷(モノポール)として存在できます。

 これらの線は途中で枝分かれすることは無く、また互いに交わることもありません。また、正(+)の電荷からは線が湧き出し負(-)の電荷によって吸い込まれます。この様子を簡単に表したイメージが下の図です。さらに、電荷の絶対値が大きくなるにつれて、湧き出しや吸い込みの対象となる線の本数は増加します。



 正(+)と負(-)の2つの電荷を左右に置くと、正(+)の電荷から電気力線(電束線)が湧き出し、負(-)の電荷に吸い込まれます。電気力線や電束線を描くことで、電荷の周囲に現れた電場の分布が可視化されます。

 しかし、この図だけでは「電場(電気力線)」と「電束(電束線)」の違いが判りません。そもそも、学生時代を振り返っても、電場については「電気力線」で説明されることがほとんどで、「電束線」を使った記憶がありません。

 そこで、こんなことを考えてみましょう。一様な電場の中に(帯電していない)物体を挿入した場合、物体内ではどのような電気的な変化を生じるのか

 平行平板状の電極を用意して「左側を正(+)、右側を負(-)」に設定すると、極板間では左→右の向きに一様な電場を生じます。この中に、未だ帯電していない物体を挿入します。


 ここで、物体を構成する物質には「電気を通しやすいもの(導体)」と「通しにくいもの(絶縁体)」があります。従って、2つの場合を考える必要があります。

 もし、挿入する物体が「導体」の場合は、物体内の負電荷キャリア(自由電子)が左側、正電荷キャリアが右側に引き寄せられることで物体表面が帯電します(静電誘導)。これに伴って、物体内部では「右→左」の向きに電場を生成し、外部から加わる電場と相殺します。この結果、両者の電場は打ち消し合うため、物体内部では「電場を生じない」状態が作り出されます。

 一方、挿入する物体が「絶縁体」の場合は、物体を構成する各分子内で負電荷が左側、正電荷が右側に少しずつ偏ることで、全体で電気的な偏り分極ベクトル)を生じます(誘電分極)。これに伴って、物体内部では「右→左」の向きに弱い電場を生成し、外部から加わる電場と相殺します。この結果、物体内部では「外部から加わる電場」が幾分弱まった状態で作用し続けます(これがコンデンサーでは重要な意味を持ちます→「誘電体」)。

 いずれの場合でも、物体の内部と外部では「電場の扱い」が異なります。簡単に言えば「物体の表面を境に、電気力線の本数が変わる」ということです。

 そこで、物体の内部と外部でシームレスに扱える物理量として考えられるのが「電束」です。真空中であろうとも、物質中であろうとも、その特性(物性)の違いを「誘電率ε」で吸収することで、シームレスに扱うことができます。つまり、「物体の表面を境に、電束線の本数は変わらない」ということです。ある種の「保存量」のように扱えるような、「利便性」があると言っても良いでしょう。


(2)磁場に対するガウスの法則

 磁気を帯びた物体(例えば永久磁石)があると、その周りでは磁気的な力(磁力)が働く空間が生成されます。この空間のことを「磁場磁界)」と言います。磁場の強さは、その影響によって生じる磁気的な力(磁力)のベクトル量で表されます。

 磁気にはN極(+)S極(-)の2種類の磁荷があり、磁場によって生じる力はN極からS極の向きに働きます。この分布を図で表したのが磁力線磁束線です。

 これらの線は途中で枝分かれすることは無く、また互いに交わることもありません。さらに、磁荷の絶対値が大きくなるにつれて、線の本数は増加します。この様子を簡単に表したイメージが下の図です。

 ここで、磁力線は「N極」より出でて「S極」に至るのに対して、磁束線は閉曲線となっています。これは、電荷とは異なり、「N極」と「S極」各々単独の磁荷(モノポール)として存在できないことに起因します。この図を見ると「磁束」の方が、物体の内部と外部をシームレスに扱う物理量として適しています。

 それでは、「磁場(磁力線)」と「磁束(磁束線)」の違いは何でしょう。この点を明らかにするために、こんなことを考えてみましょう。一様な磁場の中に(磁気を帯びていない)物体を挿入した場合、物体内ではどのような磁気的な変化を生じるのか

 幅の広い永久磁石を2本用意し「一方の右端がN極、他方の左端がS極」となるように向かい合わせ、間隔を開けて設置します。この時、2つの磁石の間では左→右の向きに一様な磁場を生じます。この中に、未だ磁気を帯びていない物体を挿入します。その後、挿入された物質は、磁場に晒される内に磁気を帯び(磁石の性質を持ち)始めます(磁化)。


 ここで、磁化に伴って「物体に生じる磁場」の向きによって、物体は「強磁性体」「常磁性体」「反磁性体」の3つの種類に分けられます。ここで、物体に生じる磁場のS極からN極に向かって「磁気分極」というベクトルを生じます。これが磁化の強さを示すものです。

 強磁性体常磁性体の場合、磁気分極の向きは「物体外部の磁場の向きと同じ」です。この場合、物体に現れる磁場は「外部磁石のN極と向き合う側の表面でS極、外部磁石のS極と向き合う側の表面でN極」となるような向きとなります。このため、物体は外部磁石に吸い寄せられます

 一方、反磁性体の場合、磁気分極の向きは「物体外部の磁場の向きと逆向き」です。この場合、物体に現れる磁場は「外部磁石のN極と向き合う側の表面でN極、外部磁石のS極と向き合う側の表面でS極」となるような向きとなります。このため、物体は外部磁石に反発します

 いずれの場合でも、物体の内部と外部では「磁場の扱い」が異なります。簡単に言えば「物体の表面を境に、磁場の様子が変わる」ということです。そこで、物体の内部と外部でシームレスに扱える物理量として考えられるのが「磁束」です。

 つまり、「物体の表面を境に、磁束の様子や磁束線の本数は変わらない」ということです。真空中であろうとも、物質中であろうとも、その特性(物性)の違いを「透磁率μ」で吸収することで、シームレスに扱うことができます。


(3)ファラデーの電磁誘導の法則

 磁束が時間とともに変化すると、その磁束を囲むような電場(誘導電流)が誘起されるというものです。中学校の理科でも「コイルに磁石を近づけたり、遠ざけたりする実験」でお馴染みですね。

 例えば、磁束が上向きから下向きに変化すると、その周りを取り巻くように反時計回りの電場が発生します。また、磁束が下向きから上向きに変化すると、その周りを取り巻くように時計回りの電場が発生します。

 磁束密度はベクトルで表されます。この時間変化を反転したものが、生成される電場ベクトルの回転(rot)に相当します。ベクトルの回転は「相対渦度」を思い浮かべるとイメージしやすいでしょう。

 なお、電流(電流密度)と電場(電場)の間には、「=σ」の関係(一般化されたオームの法則)があります(σは電気伝導率)。


(4)アンペールの法則

 続いては、電流電場)の周りで、その電流を囲むような磁場が誘起されるというものです。そして、この電流には「伝導電流」と「変位電流」の2種類があります。

 通常の電気回路で「電流」と呼ばれるものは、(切れて無い)導線を伝わる「伝導電流」です。中学校の理科でも「直線電流の周りに磁場を生じる」ことを学びますが、この電流も「伝導電流」です。このような電流は、電流密度で表します。

 ここで新たに登場するのが「変位電流」です。例えば、コンデンサーのような平行平板状の電極を考えてみます。この極板間は空洞ですので、導線としては「切断」されています。


 この両側に「直流」の電圧を加えると、短い時間の中で「極板間には電場を生じ、極版には電荷が蓄積」されます。しかし、その後何もしなければ、電荷の移動は生じません。つまり、電荷の移動という点では「膠着状態」です。

 一方、両側に「交流」の電圧を加えると、短い時間の中で「極板間には電場を生じ、極版には電荷が蓄積」されます。さらに、電圧や電流の大きさや向きは時間と共に周期変動します。つまり、極板間の電場(電束)が周期変動を繰り返すことになります。これに伴い、蓄電と放電が交互に繰り返されるため、(極板間は切断されているにも関わらず)その両側では電荷の移動が持続することになります(変位電流)。これが電流としての役割を果たし、その周囲に磁場を生じさせるのです。

 以上が、電磁場の基礎方程式である「マクスウェル方程式」のイメージです。


真空中の電磁波

 それでは、マクスウェルの方程式から「電磁波の支配方程式(波動方程式)」を導いてみましょう。今回は「真空中」を伝わる電磁波について考えてみます。外部に電荷や電流が存在しないため、電荷密度や電流密度は全てゼロとして扱うことが可能です。


 マクスウェル方程式の他に、構成方程式が3つあります。これは電束密度と電場、磁束密度と磁場、電流密度と電場を各々関係付けるものです。これらの式に真空中の諸条件を適用して、真空中のマクスウェル方程式を導きます。ここで、方程式のパラメータは電場Eと磁場Hで揃えておきます。

 続いて、電場の回転(×)の式の両辺に回転の演算(×)を施します。左辺はベクトル3重積の要領で展開し、電場の発散の式(=0)を適用することで、電場Eのラプラシアンを得ます。右辺は磁場の回転(×H)の式を適用することで、電場の2階時間微分に導くことができます。この両者を合わせると、電場の波動方程式が得られます。



 また、同様にして、磁場の波動方程式も得られます。



 こちらの記事では、さらに電磁波の特性にクローズアップしていきます。
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弾性波の支配方程式

2022年11月18日 | 物理学の基礎
 前々回の記事では「連続体の運動方程式」を導出しました。続いて、前回の記事では「流体力学の方程式」を導出しました。そこで、今回は「弾性体における運動方程式」と導出し、さらに弾性体を伝わる波(弾性波)の支配方程式(波動方程式)を導いてみます。

 まずは「弾性体の運動方程式」を導出します。今回使用するのは次の4つの式です。



 前回の記事と同様に、「加速度の定義式」と「弾性体の構成方程式(フックの法則=応力とひずみの関係式)」を「運動方程式」に代入します。

 弾性体の場合は、変位勾配が小さいと考えられるため、加速度の式(ラグランジュ微分)の非線形項を無視できると考えます。つまり、加速度はそのまま「変位を時間で2階微分したもの」として扱います。

 後は式を整理して「弾性体の運動方程式」の形が現れます(下図・緑枠)。もし、加速度が無ければ(静止状態であれば)、この式は「変位の平衡方程式」となります。



 それでは、この方程式から弾性波の支配方程式(波動方程式)を導いてみます。今回は2種類のアプローチを行います。

 まずは、次のように軸方向の運動方程式(A)をxで微分します。x‐y‐z系で言えば、x軸方向の方程式をxで微分するものです。同様に、y軸方向の方程式をyで、z軸方向の方程式をzでそれぞれ微分し、辺々足し合わせるものです。



 さて、あるx軸方向の変位をxで微分したものは、x軸方向の垂直ひずみεiiとなります。上図の式の中で「e=∂u/x=∂u/x」と集約したものは、x‐y‐z系で言えば、x、y、z各方向の垂直ひずみεxx、εyy、εzzの和に相当します。これを「体積ひずみ」と呼びます。

 従って、ここで得られた波動方程式は「体積ひずみeが弾性体中を伝播する」ことを表します。それでは、この「体積ひずみ」について、次の図のような直方体状の微小片を例に考えてみましょう。


 いま、この微小片の各面に垂直応力が作用した結果、各辺が伸びて体積が増加した状況を想定します。この場合は微小片の体積が膨張したことになります。このとき、体積ひずみeは「(体積変化)/(元の体積)」で表され、「3方向の垂直ひずみの和」にほぼ等しくなります。

 弾性体内でこのような体積変化膨張や圧縮)を生じ、それが波動として伝播して行きます。このような波は「圧力波P波)」と呼ばれています。


 続いて、x軸方向の運動方程式(A)とx軸方向の運動方程式(B)を考えます。方程式(B)をxで微分、さらに方程式(A)をxで微分し、辺々引き算します。

 x‐y‐z系で例えると、x軸方向の方程式をyで微分、y軸方向の方程式をxで微分し、辺々引き算するようなものです。


 今度はωが伝播する波動方程式が得られました。このωは「∂u/x-∂u/x」を集約したものです。この式の形は「どこかで見たことがある」ような気がします。
 それもそのはず、ωは変位ベクトル()の回転(rot )のx軸方向成分に相当します。また、微分の形を見ると「せん断ひずみεij」とよく似ています

 そこで、せん断ひずみ:ε12と、変位ベクトルの回転の成分:ωを比較してみましょう。


 上の図は左から順に「(第1項の変形)+(第2項の変形)→(両者を合わせた変形)」を表しています。

 ここで、「ε12」と「ω」は共に第1項は等しいので、変形も等しくなります。一方、第2項は正負の向きが逆なので、その変形も互いに逆向きとなります。この結果、両者を合わせた変形も異なってきます。せん断ひずみ(ε12)の変形は「斜めに潰れる(ひしゃげる)」ように変形します。一方、回転(ω)の変形は「クルリと回転する」ように変形します。

 つまり、弾性体内では部分的に回転するような変形を生じ、それが波動として伝播して行くことが示されました。このような波は「せん断波S波)」と呼ばれています。
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流体方程式の導出

2022年11月16日 | 物理学の基礎
 前回の記事では「連続体の運動方程式」を導出しました。そこで今回はさらに「粘性流体の構成方程式」と「非圧縮性流体の連続の式」を適用することで、流体力学の方程式を導きます。

 まずは「ナビエ・ストークス方程式」を導出し、その後は簡単な条件を設定することで「ベルヌーイの定理」を導出します。今回使用するのは次の4つの式です。



 まずは、「加速度の定義式」と「粘性流体の構成方程式(応力と速度の関係式)」を「運動方程式」に代入します。その後、一部の項が「連続の式」の形となって消去されます。この結果、「ナビエ・ストークス方程式」の形が現れます。



 続いて、ベルヌーイの定理を導いてみましょう。

 次図のx‐z系において、青い流線で表される流れを想定します。ここでx軸は水平方向、z軸は鉛直方向に対応し、重力はz軸の負の方向に働くと仮定します。ここでは理想流体を考えるため、粘性係数ηはゼロとします。また簡単のため、流線に沿った1次元定常流れとしましょう。


 このような条件下で、流線sに沿ってナビエ・ストークス方程式を立てると次のように表されます。後は、これを流線sに沿って積分すれば良いのです。この結果、ベルヌーイの定理の式が得られます。




 ここでは、ベルヌーイの定理の式を2種類書いています。上の式は各項が「単位質量辺りのエネルギー」で表されるのに対し、下の式は各項は「水頭(ヘッド)」で表されています。但し、数式自体は同じものなので、必要に応じて使い分けると良いでしょう。


 ベルヌーイの定理の応用例として2つ紹介します。まずは「ポンプ」です。ポンプは、その機械的作用によって、作動流体にエネルギーを付加するものです。


 下の流入口(状態1)から流体を吸い上げて、上の流出口(状態2)から吐出する場合を考えてみます。作動流体の持つエネルギーは、状態1より状態2の方が高くなります。

 この時、ベルヌーイの定理の式(エネルギーで表示)は、次の関係を表しています。
(状態1のエネルギー)+(ポンプによって付加されたエネルギー)=(状態2のエネルギー)


 続いて、管を通る流れです。水槽から接続された円管を通って、作動流体が流れ出る場合を考えてみましょう。


(状態1)では作動流体は静止していますが、位置エネルギーを持っています。一方、管の出口の(状態2)では、作動流体が速度vで流出しています。

 作動流体の持つエネルギーは、状態1より状態2の方が低くなります。これは、管の入口(接続部)や管路の摩擦に伴うエネルギーの損失が生じるためです。

 この時、ベルヌーイの定理の式(ヘッドで表示)は、次の関係を表しています。
(状態1のエネルギー)=(状態2のエネルギー)+(管入口の損失)+(管摩擦損失)
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連続体の運動方程式

2022年11月14日 | 物理学の基礎
 今回は「連続体力学」の話題です。固体も流体も、力学的には「連続体」として統一的に扱うことができます。なお、この記事では「専門書」のような厳密かつ精密な理論展開ではなく、ざっくりとした「思考の流れ」を扱います。



 まずは、ある物質の塊を考えてみます。さらにこの塊に外から力(外力荷重)Fを加えてみた所、変形しました。そんな状況をイメージしてみましょう。


 この変形した塊の内部では、外力Fとは異なる力(内力)が分布しています。塊を仮想的に切断してみると、その切断面上では様々な内力Pが分布しています。

 この中のほんの一部(ΔA)に着目すると、このわずかな面積に対してわずかな内力(ΔP)が作用しています。この時の「面積に対する内力」のことを応力と言います。もう少し詳しく見てみましょう。


 微小面積ΔAに対する微小内力ΔPの向き(角度)は、切断面の取り方によって変わります。そこで、微小内力ΔPを成分分解します。つまり、微小面積ΔAに対して垂直な方向(法線方向)と切断面に沿う方向(接線方向)です。

 この各成分ΔPとΔPをΔAで割り、ΔA→0の極限をとったものが、垂直応力σ、およびせん断応力σとなります。


 この概念をもう少し拡張して考えてみましょう。塊全体を考えるに当たって、まずはそのごく一部だけを取り出して考えることにします。この取り出した部分を「微小片」と言います。


 微小片に対して、座標系を設定します。ここでは「x軸、y軸」に替えて「軸、x」を使用します(便宜上)。また、簡単のため「2次元問題」として考えてみます。従って、奥行の大きさは一律で「」(単位長さ)とします。

 微小片に働く応力を考えてみます。応力は微小片の外周(切断面)上に作用するものと考えます。また、応力には垂直応力せん断応力の2種類が存在します。ここで、応力は「σij」の形で表記されます。i軸をぶった切る方向の面に対してj軸の方向に作用する応力という意味です。


 垂直応力(σ11、σ22)は各面に対して垂直に作用する一方、せん断応力(σ12、σ21)は各面を擦る(または、滑る)ように作用します。図中の「×」が作用点です。

 ここで、微小片が勝手に回転することは無いので、せん断応力σ12とσ21は等しくなります(せん断応力σ12とσ21に伴うモーメントは常に釣り合います)。

 また、これらの応力に伴って、微小片に働くx軸とx軸方向の(=応力×面積)を右側の青枠に記載しました。いきなり微分記号(∂)が登場していますが、これは下記の近似を使用したためです。



 続いては、「ひずみ」について考えてみます。微小片に応力が働くと変形を生じます。そこで、「元の長さ」に対する「長さの変化」の割合を「ひずみ」と言います。


 まずは垂直ひずみを考えてみましょう。

 垂直応力σ11が働くことで、x軸方向の長さがΔuだけ変化します。また、垂直応力σ22が働くことで、x軸方向の長さがΔuだけ変化します。

 それぞれ、元の長さに対する変化の割合(さらに元長さ→0の極限)を求めて、ε11とε22が決まります(右側青枠)。


 続いて、せん断ひずみを考えてみましょう。

 せん断応力σ21が働くことで、x軸方向の面がΔuだけシフトします。これに伴い、元長さΔxの面が角度θだけ傾きます。

 また、せん断応力σ12が働くことで、x軸方向の面がΔuだけシフトします。これに伴い、元長さΔxの面が角度θだけ傾きます。

 それぞれ、元の長さに対するシフト長さの割合(さらに元長さ→0の極限)を求めて、角度θとθが決まります。θとθを足して2で割ったものとして、ε21とε12は定義されます(図中青枠)。

 ここで、2つの変位(ΔuとΔu)から3つのひずみ(ε11、ε22、ε21=ε12)が決まります。と、言うことは3つのひずみの間には何らかの関係があるはずです。

 そこで、せん断ひずみε12の式を、xとxで順次微分してみます。


 こうして、3つのひずみの関係が明らかになりました(図中青枠)。この関係を「ひずみの適合条件式」と言います。

 微小片に働く力(応力)と変形(ひずみ)について考えてきましたので、今度は移動(速度・加速度)について考えてみましょう。速度は変位の時間変化で定義されます。また、速度は位置(x、x)と時間(t)の関数です。



 上の図のように、時間Δtの間に点Aが点A’まで移動する場合を考えてみます。速度が時間Δtでの変化量、すなわち加速度を求めてみましょう。
 


 速度が位置(x1、x2)と時間(t)の関数であることに着目すると、加速度は時間微分項非線形項が加わった形で表されます。但し、速度が遅い場合、また変位勾配が小さい場合には非線形項は無視できる程度に小さいと近似することができます。

 最後に、塊全体を取り巻く環境条件を考慮することを考えましょう。例えば、重力場における重力、電磁場における電磁力などの影響です。このような環境(外界)の影響によって作用する力を、単位体積当たりに働く力として考慮し、これを体積力物体力)と言います。



 ここまでの結果を用いて、x軸方向、およびx軸方向の運動方程式を立ててみましょう。



 以上の内容を、アインシュタインの縮約記法(総和規約)を用いて一般化すると次のように表されます。記事の中では2次元問題として扱いましたが、一般化することで3次元問題への適用も容易になります。



 さて、ここまで微小片に働く力(応力)と変形(ひずみ)、移動(速度・加速度)を考察し、運動方程式を導出してきました。しかし、ここまで「この塊」が「固体」であるか「流体」であるかについては明確にしてきませんでした。つまり、ここまでの内容は固体・流体を問わず適用可能と言うことです。

 それでは、「固体」と「流体」の性質はどのように反映させるのでしょうか。実は「固体」と「流体」の性質を決める方程式は、また別に存在します。それは応力ひずみを結びつける「構成方程式」です。

 例えば、「固体」の場合は次のような構成方程式を適用します。


 これを応用することで、「弾性体の変形解析」を行うことができます。

 また、「流体」の場合は次のような構成方程式を適用します。


 上記の応力で表示した運動方程式に、こちらの構成方程式と連続の式を適用すると、粘性流体の運動方程式である「ナビエ・ストークス方程式」が導出されます。これを応用することで、例えば「建造物の通風・換気シミュレーション」を行うことができます。

 このような技術が、さらに「地域気象の計算シミュレーション」にまで発展します。
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