計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

見えてきた?「ゆきぐに山形の冬空」の姿

2014年10月30日 | 山形県の局地気象
 そろそろ冬の訪れを感じ始めたところで・・・この話題に触れようと思います。

 
第1図・山形県内の主な地形と地域

 山形県は東北地方南部の日本海側に位置し、北に丁岳(ひのとだけ)山地や神室(かむろ)山地、東に奥羽(おおう)山脈、南に飯豊(いいで)連峰と吾妻(あづま)連峰、そして県央に朝日(あさひ)連峰が連なっています。

 山形県は庄内(しょうない)・最上(もがみ)・村山(むらやま)・置賜(おきたま)の4つの地域に分けられます。私の故郷は南部の置賜地域に当たります。この「置賜地域の雪の降る条件やメカニズム」は、まさに長年にわたって取り組んでいる研究テーマです。

 冬の雪の降る範囲は日々変わり行くものですが、大きく分けると沿岸側に偏るか、それとも内陸まで深く入り込むかに大別できるようです。例として2013年01月のケースを紹介しましょう。

 

第2図・山形県内の冬季の夜間の降水量分布(等値線は3mm毎に描画)
(左) 2013年01月16日21時 ~ 翌17日09時 の12時間降水量 (mm/12h)
(右) 2013年01月17日21時 ~ 翌18日09時 の12時間降水量 (mm/12h)

 この時の秋田の上空1400m付近(850hPa等圧面)における風速を見ると、(左)の場合は7~10m/s、(右)の場合は9m/s~14m/sでした。

 上空1400m付近(850hPa等圧面)の風は、冬の季節風の目安として見ています。左右のケースを比較してみると、左はフルード数が低い場合、右はフルード数が高い場合の特徴を現していると見ることが出来ます。

 (左)の場合の降水域は、朝日連峰よりも海側を中心に広がり、内陸側への広がりがあまり見られません。その一方で、(右)の場合の降水域は、朝日連峰の北東側と南東側の内陸部へと深く広がろうとしている様子が見てとれます。

 この特徴は(諸条件の際に伴い、上記の分布とは多少異なる部分もありますが)コンピューターシミュレーションでも再現することができます。第3図として、独自に研究・開発を進めている山形県の3次元熱流体数値モデルを用いて計算した結果を紹介します。ここでは、日本海上からは西~西北西の単純な季節風が流れ込み、この流れに合わせて西の海上から水蒸気も流入する状況を想定しています。

 
第3図・山形県内の降水量シミュレーション
(左) フルード数が低い場合( Fr = 0.6 ) (右) フルード数が高い場合( Fr = 1.0 )

 西北西寄りの季節風が弱い場合は(左)のように、降水域は朝日連峰の手前側を中心に広がります。その一方で、季節風が強い場合は(右)のように(降水域は)朝日連峰を南北に迂回するように内陸側に向かって広がります。このようなパターンになると、吾妻付近の北側に位置する米沢盆地周辺でも降雪しやすくなります。

第4図 十余年前の研究ノート(上空の寒気・風と米沢市内での降雪状況の傾向)

 研究を始めた当初は、高層天気図を見て翌日の降雪状況を予想しているだけでした。それでも段々と経験則と言いますか、傾向が見えてくるものです。それを一つの概念モデル(マップ)にまとめたのがこの図です。縦軸は上空1400m付近の風速で単位はノット(kt)です。横軸は同じ高度での気温(℃)です。

 上空の季節風が強く吹き付けるほど、また上空の寒気が強い(気温が低い)ほど、米沢では降雪しやすいという事です。逆に言えば、上空の季節風が弱いほど、また上空の寒気が弱い(気温が高い)ほど、米沢では降雪しにくい(むしろ一時的にでも晴れやすい)という事です。

 この図の傾向を理論的に解明しようとして、紆余曲折の人生の最中にあっても、数値シミュレーションを勉強して・・・もう十余年。

第5図 大気の条件とフルード数の関係(横軸:安定度、縦軸:風速)

 実は・・・第4図のノートはこのような大気安定度と風速の組み合わせによってきまるフルード数の関係を表しているのです。冬型の気圧配置の場合を考えるとフルード数は「上空の寒気が強まるにつれて、また季節風が強まるにつれて大きく」なります。そして、米沢で降雪しやすいのはフルード数が大きい場合です。
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改めてフルード数を考える・・・。

2014年10月26日 | お天気のあれこれ
 基本的な「山越え気流」の理論解析に用いられる古典的な解析モデルとして、このようなものが知られています。


 ある高さH0[m]における等圧面を破線で表し、これを自由表面と呼びましょう。地表面付近の大気を、自由表面を境に上下2つの層に分ける二層構造で考えます。

 そして、下層の温位をθ0[K]、上層の温位をθ0+Δθ[K]であるとします。そして、左側から速度U0[m/s]の風が流入するものと考えましょう。この時、U0が大きいほど(Frが大きいほど)流れは山を乗り越えやすく、風下では「おろし」と呼ばれる強風が発生しやすいことが理論的に明らかにされております。ここでFrとはフルード数の事です。

 この「Fr数が大きい、小さい」というのは「実際の大気の状態とどのように対応するのか」を考えてみます。

 フルード数Frが実数である時、すなわち「Fr∈R (※Rは実数全体の集合)」である時、根号(√)の中の数は正でなければなりません。つまり、「g(Δθ/θ0)H0>0」となります。

 ここで、現実の問題を想定すると「U0>0 ∧ g>0 ∧ θ0>0 ∧ H0>0」となるので、Δθもまた「Δθ>0」となります。確かに、この解析モデルは、下層(θ0)よりも上層(θ0+Δθ)の温位が高い構造となっているため、安定成層「Δθ/Δz>0」となることが前提となっています。

 つまり、安定性が増すとΔθは大きくなり、分母も大きくなるので、Fr数は小さくなる一方、安定性が減ると(不安定性が増すと)Δθは小さくなり、分母も小さくなるので、Fr数は大きくなる方向にシフトしようとします。

 また、風速U0が増すと、分子も大きくなるので、Fr数は大きくなる一方、風速U0が減ると、、分子も小さくなるので、Fr数は小さくなります。

 フルード数の式の形は大気安定性(分母)と風速(分子)のバランスを「一つの物差し」で表現していると言えるのです。これを簡単に描くと・・・


 と言う事ですね。冬型の気圧配置の場合を考えると「上空の寒気が強まるにつれて、また季節風が強まるにつれてフルード数が大きくなる」という事です。

 但し、大気安定性(分母)は(1/2)乗で効いて来るのに対し、風速(分子)は1乗で効いてくるので、風速に対する感度の方がより強いと言えるでしょう。風が強いとFr数が大きく、風が弱いとFr数が小さいと言えるのも、この辺の事情が絡んでいるようにも思えます。

 ちなみに、工業熱力学や伝熱工学を学んだ方ならご存知のレイノルズ数(Re)グラスホフ数(Gr)と、フルード数(Fr)の間には「1/Fr2 = Gr/Re2という関係があります。この式を見ても風速に相当するレイノルズ数が2乗で効いているのに対し、グラスホフ数は1乗で効いていますね。なお、「1/Fr2」という形は、実際の方程式の中で適用されている形です。
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上越高田に行ってきました。

2014年10月25日 | CAMJ参加記録
 今日は上越市高田でCAMJ(日本気象予報士会)の気象技能講習会を受講してきました。

 お昼休みには、会場から徒歩2分くらいのところにある高田特別気象観測所(旧・高田測候所)を(外から)見学しました。高田測候所は平成19年に無人化され、現在は、建物の解体工事の準備が進められています。



 建物の解体工事中なので敷地内には入れません。


 観測設備はこんな感じです。


 高い鉄塔の上端には風向風速計が設置されています。


 ウィンドプロファイラ


 帰りの車窓から見えた日本海の夕焼け

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柿の実が成っています。

2014年10月19日 | 何気ない?日常

 秋深し 紅葉色付く 神無月 時の流れの 移りゆくかな・・・



 さて、11月8日には実用数学技能検定準1級(2次:数理技能検定のみ)を受験します。実は、3度目の挑戦です(しかも5~6年ぶりの受験)。1次:計算技能検定は1発で合格したのですが、2次試験がどうにも合格ラインにあと少し届きません。レベル的には高校3年程度(数学III・数学C程度)という事ですが・・・解答例を見ても「どーやったらそんな発想が出て来るの?」と言いたくなるような問題もあり・・・(-_-;)

 日常的に数学をガンガン使う立場としては、そろそろ「準1級」の合格を決めて、「1級」(大学程度・一般レベル)に挑戦したいものです。

 さらに、25日の土曜日は上越でCAMJの研修を受けてきます。たまには外部の講座を受講して見聞を広めたいものですからね。
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秋が深まってくると・・・アツカンが恋しくなる。

2014年10月18日 | 何気ない?日常
秋が深まってきました。



自動販売機を見ると・・・


アツカン(熱缶)の販売が始まりました。温かい缶コーヒーがおいしい季節になりました。
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