計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

ジェットストリークと鉛直循環の励起

2022年05月21日 | お天気のあれこれ
 先日の記事「前線形成と鉛直循環の励起」では、下層の水平面上における前線の形成や消滅に伴って、鉛直面上にも二次循環が現れる、と言う話題に触れました。

 そこで、今回は上空の水平風の強弱に伴って生じる鉛直循環の話題に触れたいと思います。上空のジェット気流の中で、特に風速の大きい領域を「ジェットストリーク」と言います。

 次の図では、ある等圧面上のジェット気流の様子を模式的に表してみました。左側が西(風上)、右側が東(風下)に相当します。


 等圧面高度は下(南)から上(北)に掛けて低下します。ジェット気流を流れる空気塊に着目すると、北向きに気圧傾度力、南向きにコリオリ力が働いており、この両者が釣り合った地衡風となっています。

 (1)の段階では等高度線の間隔は広く、(2)の段階に進むとその間隔が狭くなっています。その後、(3)まで進むと再び間隔は広がる場を想定します。

 (1)→(2)の変化では、等高度線の間隔が狭まるので、気圧傾度力は強まります。これに伴い、コリオリ力も順応して強まります。両者の釣り合いの結果、地衡風の速度も大きくなります

 (2)→(3)の変化では、等高度線の間隔が広がるので、気圧傾度力は弱まります。これに伴い、コリオリ力も順応して弱まります。両者の釣り合いの結果、地衡風の速度も小さくなります

 このように、風上から風下にかけて等高度線の間隔が変化するのに伴い、気圧傾度力も変化します。ただし、気圧傾度力の変化コリオリ力の順応常に同時に進むわけではありません



 (1)→(2)に変化する途中の(1)’では気圧傾度力が強まるのに対し、コリオリ力の順応が遅れています。地衡風のバランスが崩れ、気圧傾度力の方が強い状態となり、空気塊は北側に引き寄せられようとします。つまり、従来の地衡風(西風成分)の他に、新たに非地衡風成分(南風成分)が励起されます。

 (2)→(3)に変化する途中の(2)’では気圧傾度力が弱まるのに対し、コリオリ力の順応が遅れています。地衡風のバランスが崩れ、コリオリ力の方が強い状態となり、空気塊は南側に引き寄せられようとします。つまり、従来の地衡風(西風成分)の他に、新たに非地衡風成分(北風成分)が励起されます。

 このように、コリオリ力の順応の遅れに伴って、(過渡的に)地衡風のバランスが崩れ、新たに非地衡風成分が励起されます。さらに、この非地衡風成分によって二次的な鉛直循環が作り出されます。


 風上側(1)’の循環は直接循環であり「フロントリシス」に対応します。(1)→(2)の変化は等高度線の間隔を狭める(フロントジェネシスに相当する)ものであるため、この状態を解消する(等高度線の間隔を広げる)方向に働きかける循環が現れます。

 風上側(2)’の循環は間接循環であり「フロントジェネシス」に対応します。(2)→(3)の変化は等高度線の間隔を広げる(フロントリシスに相当する)ものであるため、この状態を対抗する(等高度線の間隔を狭める)方向に働きかける循環が現れます。

 この結果、上層では次のような収束域と発散域を生じます。


 この図のように、下層からの上昇流が上層に達すると発散域となる一方、上層で収束すると下降流に転じます。
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前線形成と鉛直循環の励起

2022年05月10日 | お天気のあれこれ
 前回の記事「前線形成関数を構成する4要素」の続編です。

 前回の記事で述べたように、前線付近では温位傾度は増大します。このため、等圧面における温位傾度の時間変化で定義される「前線形成関数」を用いて、温位傾度の変化を評価します。

 今回は、水平面上の温位傾度の変化によって励起される「二次的な鉛直循環」(ソーヤー・エリアッセンの鉛直循環)について扱います。以下、フロントジェネシス(温位傾度が増大)する場合と、フロントリシス(温位傾度が減少)する場合について各々考えてみます。


【(1)フロントジェネシスに伴う直接循環の励起】


①初期状態

 等温位線は水平面上には横向きに、鉛直面上では傾斜している状態を想定します。また、水平面上では手前側が暖気(高温位)、奥側が寒気(低温位)に相当します。また、赤矢印は上層・下層における相対的な風速を表しており、互いに温度風の関係を満たした状態にあると考えます。つまり、風の鉛直シアのバランスが取れた状態と言うことです。

②前線形成

 このように温位傾度が増大すると温度風が強化されるので、上空ほど西風が強まります。このため、風の鉛直シアのバランスが崩れます


③鉛直循環(二次循環)

 上記のフロントジェネシスに伴って生じた「風の鉛直シアのアンバランス」を解消するため、温位傾度を基に戻そうとする「直接循環」が励起されます(上図右側・前線消滅を参照)。これは、前線形成関数の「立ち上がり項」がフロントリシスの側に働くことに相当します。

※上図では、左側と右側・前線消滅では等温位線の傾きが逆向きに描かれています。これは、直接循環によって等温位線の傾きが逆向きに誘導されるという趣旨です。


 ただし、合流項・シアー項はフロントジェネシスの側に働き、また非断熱項の影響も加わるため、(各項の綱引きの結果)温位分布は新たな均衡状態に落ち着きます。そして、この新しい温位分布の下で風の鉛直シアのバランスが再構築されます。この結果、下層では温位傾度が強く、上層に行くほど温位傾度は弱まります。


【(2)フロントリシスに伴う間接循環の励起】


①初期状態

 先の「(1)フロントジェネシスに伴う直接循環の励起」と同じです。こちらでは、予め「温位傾度が大きい状態」で風の鉛直シアのバランスが取れた状態を想定しています。

②前線消滅

 このように温位傾度が減少すると温度風が弱まるので、上空の西風も弱まります。このため、風の鉛直シアのバランスが崩れます


③鉛直循環(二次循環)

 上記のフロントリシスに伴って生じた「風の鉛直シアのアンバランス」を解消するため、温位傾度を基に戻そうとする「間接循環」が励起されます(上図右側・前線形成を参照)。これは、前線形成関数の「立ち上がり項」がフロントジェネシスの側に働くことに相当します。

 ただし、合流項・シアー項はフロントリシスの側に働き、また非断熱項の影響も加わるため、(各項の綱引きの結果)温位分布は新たな均衡状態に落ち着きます。そして、この新しい温位分布の下で風の鉛直シアのバランスが再構築されます。

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前線形成関数を構成する4要素

2022年05月09日 | お天気のあれこれ
(1)2次元流れの変形・渦度・発散

 2次元の流れを考える上で、流体のある微小片に着目すると、この後の変化の仕方は大きく4つのパターンに分類することができます。


 ここで、微小片の変形前を灰破線の正方形、変形後を黒実線、また変化に伴って微小片が動く方向を赤矢印で表現しています。

【左上・合流変形】
 一方の軸方向に縮む一方、もう一方の軸方向に伸びるような変形です。上の図では微小片に向かって、上下からの流れが合流し、その後左右の両側に広がっています。この場合の横軸(黄緑色)を拡大軸と言います。

【右上・シアー変形】
 合流変形が縦横の軸から傾いた形です。上の図では微小片に向かって、左上と右下からの流れが合流し、その後左下と右上の両側に広がっています。この場合の左下から右上に向かう傾斜した軸(黄緑色)が拡大軸になります。

【左下・渦度】
 微小片が流れの中で回転するパターンです。上の図では反時計回りに回転しています。これが正の渦度です。また、時計回りに回転する場合は負の渦度となります。

【右下・発散】
 微小片が内側から外側に向かって湧き出るように拡大する形です。上の図では赤の矢印が全て外側を向いています。これが正の発散です。一方、赤の矢印が全て内側を向くと、微小片は内側に向かって吸い込まれるように縮小します。これが負の発散(収束)に当たります。


(2)前線形成関数とは

 さて「前線」とは、寒気と暖気がぶつかり合う際の境目として現れます。詳しいことは過去の記事「地上天気図の見方・ポイント解説」を御参考下さい。要は、寒気の流れと暖気の流れがぶつかる領域(前線帯)が発生すると、そこでは等温線が帯状に密集します。つまり、温度傾度の大きな帯状の領域が現れるのです。

 ここでは、寒暖の度合いを表す指標として「温度」ではなく「温位」を用います。温位については、過去の記事「温位=ポテンシャル温度・・・これは一体、何なのか?」で述べています。こちらも併せて御参考下さい。

 あらためて「寒気と暖気がぶつかり合う」と言うことは、水平面上では「合流変形」や「シアー変形」を生じることになります。また、この他にも鉛直流の影響非断熱効果による影響も加わり、明瞭な前線が形成(温位傾度が強化)されます。この温位傾度の指標として用いられるのが「前線形成関数」です。これは等圧面における温位傾度の時間変化で定義されます。

 前線形成関数Fは、合流項Fc、シアー項Fs、立ち上がり項Ft、非断熱項Fdの和で表されます。F>0ならば前線は形成・強化され(温位傾度は増大:フロントジェネシス)、F<0ならば前線は衰退・消滅に向かいます(温位傾度は減少:フロントリシス)。


(3)前線形成関数を構成する4要素

 上述の通り、前線形成関数Fは「F=Fc+Fs+Ft+Fd」と表されます。そこで、右辺の各項のイメージについて各々述べていきます。


≪合流項:Fc≫

 合流項は、流れの「合流変形」に伴う影響を表しています。次の図では「水平面上における流れ場」を考えます。上下から流入した流れが中ほどでぶつかった後、左右両側に抜けていくことを想定しています。従って、拡大軸は横向きとなっています。


 この図の上段と下段では等温位線の向きが異なります。上段では下側が暖気、上側が寒気となっており、上下方向に温位傾度を生じています。一方、下段では左側が暖気、右側が寒気となっています。こちらは、左右方向に温位傾度を生じています。

 上段の場合、上下の流れが拡大軸に向かうのに伴って、上側からの寒気移流と下側からの暖気移流を生じ、拡大軸の上下にある等温位線が互いに近づいてきます。つまり、拡大軸付近の温位傾度が増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。

 下段の場合、上下の流れが拡大軸に沿って左右に抜けていくのに伴って、左側の暖気はより左側に、右側の寒気もより右側に運ばれていきます。このため、等温位線が互いに離れて行き、温位傾度は減少します(フロントリシス)。


≪シアー項:Fs≫

 シアー項は、流れの「シアー変形」に伴う影響を表しています。次の図も「水平面上における流れ場」を考えます。先の「合流変形」の流れと本質的には同じものですが、こちらでは拡大軸が傾いているのが特徴です。


 この図の上段と下段では等温位線の向きが等しく、下側が暖気、上側が寒気で、上下方向に温位傾度を生じています。また、等温位線に対して、拡大軸が角度α°だけ傾いています。上段では傾斜角α°が45°より小さく、下段では傾斜角α°が45°より大きい点が異なります。

 上段の場合、上下の流れが拡大軸に向かうのに伴って、上側からの寒気移流と下側からの暖気移流を生じ、拡大軸の上下にある等温位線が(傾斜しながら)互いに近づいてきます。つまり、拡大軸付近の温位傾度が増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。

 下段の場合、上下の流れが拡大軸に沿って左下・右上に抜けていくのに伴って、下側の暖気はより左下側に、上側の寒気もより右上側に運ばれていきます。このため、等温位線が(傾斜しながら)互いに離れて行き、温位傾度は減少します(フロントリシス)。


≪立ち上がり項:Fs≫

 立ち上がり項は「鉛直流」に伴う影響を表しています。次の図は「鉛直面上における流れ場」を考えます。等温位線は鉛直方向でも傾きを持っており、「寒」は低温位側、「暖」は高温位側を表しています。次の図ではいずれも下層が低温位側(「寒」)、上層が高温位(「暖」)を想定しています。


 上段では、左下から右上にかけて温位が増す分布を想定しています。また、鉛直流は左側に行くほど上昇流、右側に行くほど下降流が強まっています。つまり、間接循環の場(寒気側で上昇流、暖気側で下降流)となっています。この場合、下層からの寒気(低温位)移流と上層からの暖気(高温位)移流に伴い、左上から右下にかけて等温位線が互いに近づくため、温位傾度が増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。

 下段では鉛直流が左側に行くほど下降流、右側に行くほど上昇流が強まっています。つまり、直接循環の場(寒気側で下降流、暖気側で上昇流)となっています。この場合、温位傾度を弱める方向に働きます(フロントリシス)。


≪非断熱項:Fd≫

 非断熱項は非断熱効果に伴う影響を表しています。次の図は一例として、日射に伴う加熱を挙げてみます。次の図も「鉛直面上における流れ場」を考えています。


 ここでは、左下から右上にかけて温位が増す分布を想定しています。また、図の左側では雲が広がる一方、右側では日射し優勢となっています。左側は雲に覆われるため、加熱がなかなか進まず、温位の分布はそれほど変化しません。一方、右側は日射に伴って加熱が進み、温位が上昇するため、温位傾度も増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。
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