計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

もう梅雨明けしたんじゃない?・・・

2012年06月30日 | 気象情報の現場から
 午前中は片道1.5hをかけてコーチング研修に参加してきました。今は戻ってきて束の間の休憩。もうすぐ、学習塾の方へ出勤(こちらは片道15min.)です。

「なんか梅雨に入ったって言うけれど・・・雨降らないね・・・」
「もう梅雨明けして夏になったんじゃない!?」


 これは私もあちこちでよく聞くフレーズです。学習塾の教室でも、コーチングの研修でも、挨拶代わりの定番フレーズにさえ、なっているようです。このフレーズを聞いても、私はただ・・・黙って聞いています。



 第1図.上空500hPa面ジオポテンシャル高度(2012年06月28日21時)
※青→緑→黄→赤の順にz500の高度は高くなります。日本の南の赤い部分が5880mに相当しています。図中●はトラフ域、○はリッジ域を表しています。

 日本の南には夏の高気圧を象徴する5880mの太平洋高気圧が既にスタンバイしています。これが日本を広く覆うようになれば、北陸~東北でも梅雨明けの便りとなるのですが、現段階では東北~北陸の梅雨明けはまだまだのようです。

 北海道の北西に目を移しますと、〇が縦に並び、オレンジ色の領域が北に向かって突き出ている様子が見られます。これはリッジですね。梅雨前線は北のオホーツク海高気圧南の太平洋高気圧覇権争いの中で生じるわけですが、北日本の場合、オホーツク海高気圧の勢力が非常に強く、その影響がドミナントだった事が判ります。

 実際の梅雨前線は西日本にしつこく居座る傾向があったのもこのためです。北と南の高気圧帯に挟まれるように、西日本を中心に●が集まっています。これは上空のトラフ(気圧の谷)を表しています。この付近に低気圧があるという事です。


「なんか梅雨に入ったって言うけれど・・・雨降らないね・・・」
「もう梅雨明けして夏になったんじゃない!?」


 これは私があちこちでよく聞くフレーズです。


 これが社内では・・・

「なんか梅雨に入ったって言うけれど・・・雨降らないね・・・」
「こんな調子だと・・・なんか後がコワイですね・・・。」


に変わります。

 別に具体的な予報を行った上での発言ではありません。梅雨なのにここまで雨が降らない、という事は、後で帳尻を合わせるような反動が来るのではないか・・・という憶測です。この発言は、あくまでも予報ではありません

 但し、根拠のない憶測ではありません。新潟県内を例にとると、月別の平均降水量の傾向は次のようになります。


 第2図.5月の平均降水量分布(新潟県内のみ)


 第3図.6月の平均降水量分布(新潟県内のみ)


 第4図.7月の平均降水量分布(新潟県内のみ)


 第5図.8月の平均降水量分布(新潟県内のみ)


 梅雨入りする6月よりも、梅雨明けする7月の方が降水量は多いのです。梅雨前線が北上し、県内に最接近するのはたいてい梅雨の末期です。昨年の7月の終わりも凄まじい豪雨に見舞われ、長岡花火の開催も危ぶまれたほどです。

 つまり、北国にとって「魔の月」は7月なのです。


「なんか梅雨に入ったって言うけれど・・・雨降らないね・・・」
「もう梅雨明けして夏になったんじゃない!?」


・・・騙されてはいけません。ヤツはこれからやってきます・・・。

 さて、もう一杯コーヒー飲んだら、出かけるか・・・。
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SIMPLE法 「シンプル」なのは 名前だけ?・・・(爆)

2012年06月16日 | 気象情報の現場から
 もう10年以上も前?・・・熱流体解析を行う際に最初に購入したのがこの本。

 
『数値流体工学 / 荒川 忠一・著 / 東京大学出版会』

 しかし、当時の私にとっては非常に難しく、一つ一つのプロセスに対して、その計算が何をやりたいのか?と言う全体的な意図がなかなか見えなかった・・・と言うのが正直な感想です。この本で初めて「SIMPLE解法」と言う手法の存在を知りましたが、肝心の「SIMPLE解法」以前にスタッガード格子系コントロール・ボリューム法の段階で既に、かなりの消化不良の状態に陥っておりました(爆)。

 そんな中、薦められるままに購入したのが、この本。

 
『流れの数値計算と可視化 / 平野 博之・著 / 丸善』

 この時、既に基礎方程式の導出過程については相当理解が進んでいたので、後半の「数値計算法」を集中して読みました。この本では「MAC法」の系列をベースとした解法を取り扱っており、MAC法の進め方が自分にもしっくりと来るものでした。この本で学んだMAC法が現在の数値モデルのベースになっています。この本は、私にとって数値流体解析のバイブルと言っても過言ではないでしょう。

 そして現在読んでいるのが、この本。

 
『流れの数値計算と可視化 第3版 SIMPLE法とMAC法による熱流体解析 / 平野 博之・著 / 丸善』

 私にとってのバイブルとなった本の著者が、あの「SIMPLE解法」について解説する、という事で購入しましたが、必要最小限の記述に留めるとの事で、式の詳しい導出過程は余り無く・・・と思いきや、ここであの『数値流体工学』と合わせて読むと、パズルのピースを合わせて行くかの如く、SIMPLE解法の全体像が漸く見えてきました。それにしても数式の導出過程が複雑で、この計算は一体何をしているの?とその導出過程の意図を見失いかけた事も度々・・・(どこが「シンプル」なんだ!)。

 久々に、初心に帰って2次元キャビティ流れの計算プログラムを書いてみました。使用したのは勿論、SIMPLE解法です。基礎方程式の離散化にはハイブリッド法、時間発展は1次精度オイラー前進差分を使用しました。MAC法はエクスプリシットなのに対して、SIMPLE解法はセミ・インプリシットなので時間刻みの条件がMAC法程厳しくないのがメリットです。

  

 基礎方程式を多重積分して離散方程式を導き、それらをアルゴリズムの形に整理した上で、プログラムを構築して実行する、と言う一連のプロセスを行った事で、漸く全体像が掴めてきました。今度は3次元化とより高精度なスキームの適用を目指して行きたいですね。
コメント (9)
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Excelで天気図を描いてみました。

2012年06月11日 | 気象情報の現場から

図・地上降水量

 日本の南海上で梅雨前線が東西にのびています。


図・850hPa面の気温

 前線の北側では春の空気、南側では夏の空気が静かにせめぎ合っています。

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SIMPLE法とコーチング

2012年06月02日 | 気象情報の現場から
 学会発表が終わって早1週間・・・。

 今日は地域の大学の公開講座の一環で開講された「コーチングスキル」の研修に参加しました。英会話の次は、ビジネススキル(ヒューマンスキル)の向上を目指してコーチングの研修を受講することにしました。会場までは電車で片道1時間程度なので、電車の中でのんびりと専門書を読んでいました。

『流れの数値計算と可視化 第3版 SIMPLE法とMAC法による熱流体解析 / 平野 博之・著 / 丸善』


 圧力解法には陽解法(Explicit)に基づくMAC(Marker And Cell)法の流れと(半)陰解法(Semi-Implicit)に基づくSIMPLE(Semi-Implicit Method for Pressure Linked Equations)法があります。現在はMAC法を使用しておりますが、SIMPLE法についても勉強したいと思っていました。

 現状でも、それなりに動く数値モデルを既に構築しているわけですが、今後、様々な数値モデルとの連結(ネスティング)を考えていくと、様々なモデルで使用されている多種多様な計算スキームについて理解を深めておく必要があります。

 私がまだ「週末の気象アナリスト」だった時代・・・平日は半導体の設計エンジニアとして業務に従事する傍ら、休日は社員寮の自室で数値シミュレーションの研究やプログラミング、局地気象データの分析、そして(本業だった)半導体設計の勉強に明け暮れていました。

 当時は東京都内の在住・在勤だったので、公共交通機関はとても充実していました。遠くに出かける際には、必ずカバンの中に気象の専門資料をしっかり忍ばせて、JR中央線や武蔵野線、山手線そして西武線に揺られながら、これらの書類を読破していきました。日曜日の朝には近くの図書館(萩山)に通って、気象力学の理論を勉強していた時期もありました。

 ・・・とは言え技術的には、熱流体解析はもちろん重回帰分析もままならず・・・独学でやっとの思いでζ‐ψ法やポテンシャル流れ解析をマスターしていたレベルです。そんな状態では乱流モデルを取り扱うなんぞ、夢のまた夢・・・

 それが(幾多の人生の激変もありますが)、乱流数値シミュレーションを実現し、スカラー移流を搭載して、そこからさらに(擬似的かつ簡易モデルとは言え)雲域の形成を解析する段階にまで至るとは・・・当時はそんな発想さえなかったことでしょう。また、点在する観測地点のデータから面的な分布を計算する手法の考案も、なかなか上手くいかなかったのですが、工学的手法と高校数学のコラボレーションで実現できたのも偶然のミラクルです。

 次の段階としては、この雲域から少しずつスカラーを落下させて降水量の分布に結び付ける事になろうかと思います(これもまた空を掴むような課題だなあ・・・)。そして計算スキームの高度化も図り、様々な数値計算スキームについての知識を広げ、理解を深めていきたいですね。

コメント (2)
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