計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

台風に備えるデリバティブ

2018年09月29日 | 経済・金融気象分野

 今年は色々な意味で顕著な気象現象が多発しているように感じます。台風の接近・通過の影響もいつになく大きいように感じています。そしてまた、新たな台風が近づいて来ています。

 このような状況を見ると、脳裏に浮かぶのが「台風リスクに対する保険」です。天候リスクに対する保険(金融派生商品)である「天候デリバティブ」の一つの種類として「台風に備えるデリバティブ」というものがあります。添付した図はその一例です。



 この事例のユーザは、8月~9月に台風の接近・通過の影響を受けやすく、これに伴い来客数の減少や減益のリスクを潜在的に抱えています。そこで、接近する台風の数に応じて補償金を受けとれるプランのデリバティブを契約しました。

 この台風の数の決定の仕方もユニークです。まずは、最寄の県庁所在地を中心とする半径150kmの円内を「通過エリア」と定めています。そして、観測期間内(8月1日~9月30日)の61日間に、この通過エリアを(台風の中心が)通過する台風の数をカウントしていきます。1つでも台風が通過した時点で、補償金が発生します。

 今後は、このような形のリスクヘッジも普及することになるのかも知れません。もちろん、台風の接近・通過の確率(頻度)が高まると、掛け金(プレミアム)も上がります。それだけの掛け金をかけてでも、リスクヘッジのために契約(利用)すべきなのかどうかが思案の為所と思います。



 そもそも、天候デリバティブは「金融派生商品(デリバティブ)」の一種です。つまり、天候の変化(気象要素の変動)から派生する形で価値が変動する金融商品(デリバティブ商品)と言うことです。これを「保険」のような形で利用することが出来るのです。従って、一般的な「損害保険」とは似て非なるものです。

 ここで、気象要素(気象指標:インデックス)の変動やそこから派生する金融商品の価値の変動が確率的に起こるものと仮定して数学的に評価するのが金融工学の考え方です。

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時速の目安のイメージ

2018年09月28日 | 気象情報の現場から
 気象庁が発表する台風の進路予想では、台風の進むスピードを表すのに「時速(km/h)」が用いられます。この時速の目安を具体的に表してみました。


 台風が日本の南をゆっくりと北上する段階では、せいぜい「自転車並み」の速度となる場合が多いですが、やがて偏西風に乗ると「自動車並みの速度」に加速して北上します。
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現時点では、人工知能は「道具」

2018年09月15日 | オピニオン・コメント
NHKスペシャル(2018年09月15日)
人工知能 天使か悪魔か 2018 未来がわかる その時あなたは…
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20180915

 テレビをつけたら、たまたま放送していたので、そのまま見てました。人工知能が「なんだか得体の知れない存在」のように扱われていますが、要は「ビッグデータをそのように活用するか」の問題のようにも思えました。

 さて、「xを入力すると、yが出力される」という数量の関係を「y=f(x)」と表記するとき、入力と出力の橋渡しをする関係f(x)のことを「xの関数」と言います。人工知能は、多数のx(入力)と多数のy(出力)の関係を取り持つ関数のような存在です。単なる関数と異なるのは、「学習」を通して、自らを修正を図ることができる点でしょう。

 そもそもの本質は、膨大なデータを扱う「多変量解析」です。膨大なデータの中から規則性やパターンを見出し、それを定量的に関数化することができるのが大きな特徴です。イメージとしては、入力変数と出力変数の組合せ(x,y)のサンプルをたくさん用意して、それらの関係を最も上手く表現する関係「y=f(x)」を探し当てるものです。人工知能の場合は、この関係f(x)がとても複雑な形になっているものと考えると良いでしょう。

 また、人工知能が「なんだか得体の知れない存在」のように扱われるのは、この関係f(x)が良くわからないことも一つの要因でしょう。なぜ、そのような判断になるのか?それは、「入力されたパラメータを機械的に計算したらそうなった」と言うだけの話です。

 番組では、様々な人工知能の例が紹介されていましたが、視聴した限り、「何を入力変数(前提条件)として、何を出力変数(予測対象)とするのか」、その「パラメータの選定」を行っているのは人間です。また、「教師データ(学習すべきデータ)」を用意しているのも人間です。さらに、ニューラルネットワークの場合は、入力・出力共に0と1の「デジタル信号」の組合せです(私は0~1の間の実数の「アナログ信号」のように使っています)。

 多種多様な入力・出力の情報を人工知能(数値モデル)で扱えるような「数値データ」の形にどうやって変換するのか、その「変換方式(インターフェース?)」を開発するのも人間です。

 少なくとも現時点では、人工知能は「天使」でもなければ「悪魔」でもなく、新しい「道具」であると言うのが率直な感想です。大切なのは、この道具を使って「何を実現したいのか?」だと思います。
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