計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

大雪の3つのキーワード

2020年12月28日 | 気象情報の現場から
 冬型の気圧配置の場合は、日本海上の等圧線に注目します。等圧線の走向が縦に並んでいるか、横に傾いているか、それとも「く」の字状に折れ曲っているかによって、雪の降りやすい場所も変わります。


 日本海の等圧線が縦縞になると山沿い中心となる一方、等圧線が「く」の字状になると後述の日本海寒帯気団収束帯の影響で平野部でも大雪となることがあります。

 ラ・ニーニャ現象は太平洋赤道域の東部~南米沿岸で海面水温が低くなる現象です。熱帯の対流も西側にシフトし、その影響は中緯度の偏西風にも伝播するため、上空の寒気も日本付近に南下しやすくなります。



 また、負の北極振動は、北極付近に蓄積された寒気が周囲に向かって放出される状態で、日本付近でも強い寒気の南下が起こりやすくなります。従って、ラ・ニーニャ現象の状況下に負の北極振動が加わると、非常に強い寒気が南下しやすくなります。



 さらに、朝鮮半島北部の山脈によって寒気流が二分され、日本海上で合流する際、日本海寒帯気団収束帯が形成されます。天気図上では「く」の字状の等圧線となります。この折れ曲りを結んだ線に沿って雪雲が大群を成して押し寄せるようなものです。



 一つの例として、上記の3つの条件が重なった2018年の1~2月の新潟県の場合を挙げると、平野部を中心に大雪に見舞われました。平年の降雪量と比較すると一目瞭然です。

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15年が経ちました。

2020年12月25日 | 山形県の局地気象
 この時期になると羽越本線の事故を思い出します。15年前の2005年12月25日夜、特急いなほ14号が北余目駅~砂越駅間で脱線したものです。乗客5名の尊い命が失われ、32名が重軽傷を負いました。


 寒冷前線に伴う対流雲(積乱雲)の影響で雷が激しく、事故当時は最大20m/s前後の強風も観測されていました。


 列車を横転させる程の強風となると、実際は40m/s以上の突風が発生した可能性が指摘されています。積乱雲に伴うダウンバースト(マイクロバースト)の可能性も指摘されています。
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2020年12月中旬の大雪

2020年12月22日 | 山形県の局地気象
 2020年12月14日~20日の山形県内における積算降水量(単位:mm)の分布を調べてみました。朝日連峰と飯豊連峰の付近で200mm以上の極大域が形成されています。続いて100mm以上の降水域の分布に注目すると、うっすらと「C」字型の特徴が見て取れます。


 今回の大雪の背景としては次の3点が挙げられます。

(1) 夏からのラニーニャ現象の継続に加え、負の北極振動の影響が加わったため、日本付近の上空で非常に強い寒気が南下しました。

(2) 日本海の海水温が平年より高めで推移していました。さらに上空の強い寒気の影響が加わり、鉛直方向の温度差が大きくなったため、大気の不安定性が増しました。この結果、日本海上の対流がより活発化したことが考えられます。

(3) 西高東低型の気圧配置で気圧傾度が大きく、北西季節風は強くなる傾向が見られました。この結果、山沿いの地域を中心に大雪となったものと考えられます。
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師走の強い寒波

2020年12月20日 | 気象情報の現場から
 北極振動は、北極付近と中緯度の地上気圧が互いに変動する現象です。正の北極振動は、北極付近に寒気が蓄積されるため、寒気の南下が起こりにくくなります。一方、負の北極振動では、北極付近に蓄積された寒気が周囲に向かって放出されるため、日本付近でも強い寒気の南下が起こりやすくなります。



 米国海洋大気庁のWeb(URLは下記)では、北極振動指数(AO Index)が公開されています。この指数は11月中は正偏差でしたが、12月に入ると負偏差に転じ、11日以降は負の傾向がより顕著になりました。負の北極振動は北極付近から寒気が放出されるパターンです。

https://www.cpc.ncep.noaa.gov/products/precip/CWlink/daily_ao_index/ao_index.html
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いよいよ冬の到来です。

2020年12月17日 | 山形県の局地気象
 先の週末からいきなり本格的な寒波に見舞われました。本格的な雪の季節の到来です。この季節には2種類の特徴的な気圧配置があります。それは西高東低型(いわゆる冬型の気圧配置)と南岸低気圧型です。前者は日本海側の降雪、後者は太平洋側の降雪に関係しています。


 西高東低型では日本海側中心の降雪、南岸低気圧型では太平洋側中心の降雪となる傾向があります。また上空の強い寒気の南下で大雪となる背景には、ラニーニャ現象や負の北極振動等の影響があります。他にも日本海寒帯気団収束帯や黒潮大蛇行等の影響が加わる事もあるのです。

 冬型の気圧配置の場合は、日本海上の等圧線に注目します。冬の季節風の向きは、高気圧側から低気圧側に向かって等圧線を斜め右に横切る方向として推定されます。


 等圧線の走向が縦に並んでいるか、横に傾いているか、それとも「く」の字状に折れ曲っているかによって、雪の降りやすい場所も変わります。

 さて、私の故郷でもある山形県は複雑な地形を持っています。この地形により様々な地域気象のバリエーションを見せてくれます。冬の降雪は生活する上では悩みの種ですが、研究対象としては興味深いものです。


 山形県に住んでいた頃、冬の季節風と降雪パターンの間に関係があると気付き、研究を重ねました。北西季節風が弱いと降雪域は海側に偏り、内陸側の広範囲で放射冷却が進みます(I字型)。一方、季節風が強まると降雪域は内陸側へ広がるため、内陸側の低温域は狭まります(C字型)。


 北西季節風が弱いと、西置賜では季節風の影響を直接受けるのに対し、米沢は夜間冷気湖の形成や地形起因の南風が支配的となります。降雪は弱いものの、放射冷却や水道管の凍結に注意が必要です。一方、北西季節風が強まると米沢でも風が強まり、積雪の増加や吹雪での交通の影響に注意が必要となります。

 ついでに、(一社)日本気象予報士会の会報「てんきすと」第108号(2017年9月)には、私の山形県に関する研究成果が見開き2ページに渡って掲載されています。


 記事の中では、三次元熱流体数値モデルとニューロ・モデルによる取組みを紹介し、一連の解析結果を基に「山形県内の冬の気象特性」を考察しています。
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数理モデルによる予測と予報

2020年12月11日 | 計算・局地気象分野
 数理モデルは、対象となる現象に対する「構築者の世界観の一つの表現」であり、その構築過程により大きく2種類に分けることができます。

・多くのデータを元に統計的手法で導かれる帰納的なもの(例・線形重回帰分析や機械学習)
・基本法則から出発し数学的手法で導かれる演繹的なもの(例・熱流体数値モデル)

 シミュレーションの結果は、それ単体ではあくまで「理論的な根拠に基づく推論・仮説」です。さらに「実験・観測による実証」が揃ってはじめて真実として認知されます。しかし、不確実性を伴う将来を対象とした予測として用いる場合は、発生し得る事態を事前に把握し、個々に備えた対応策を議論することができます。その意味では「リスクマネジメント」としての意義は大きいものです。

 また、数理モデルを構築し、そのモデルを基に将来に関する仮説・推論を導き出すのは科学や技術のフィールドです。一方、その予測を基に将来の様々な事態を想定し、事前に対応策を用意するのは経営や政治のフィールドです。両者のコミュニケーションを通じて「将来を想定し、予め備える」心構えが大切です。

 さらに「予測」と「予報」は似て非なるものです。予測とは「確かな根拠を基に将来に関する仮説・推論を導き出すこと」であり、予報とは「仮説・推論を基に将来の可能性を予想し、伝えるべき事項を決断すること」です。

 そうであれば、予測の機械化が進んでも、最後の決断は人間に委ねられます。決断には責任を伴うものであり、機械には出来ないことなのです。
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