計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

日本気象予報士会の会報「てんきすと」(第108号)に記事掲載

2017年09月23日 | 山形県の局地気象
 (一社)日本気象予報士会の会報「てんきすと」9月号(第108号)が届きました。私のこれまでの山形県に関する研究成果が見開き2ページに渡って掲載されています。

 私が気象予報士になって、約20年になります。それはそのまま、山形県の冬の気象の問題に取り組んでからの月日にも重なります。記事の中では、三次元熱流体数値モデルニューロ・モデルによる取組みを紹介し、その解析結果を基に「山形県内の冬の気象特性」を浮かび上がらせています。

 今回、限られた紙面の中では、重要な概念を「図」で伝えたい、という思いがありました。従って「図は多く、文章は少なく」を心掛け、「数式」も一切排除しました、また、説明が足りない部分は「参考文献」の紹介という形を取りました。

 改めて記事を読んでみると、これまでの試行錯誤の日々が走馬灯の様に思い出されてきます。

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最近の雑感

2017年09月22日 | オピニオン・コメント
 過去の記事「7月20日に考える「市場規模300億円の壁」」でも紹介しましたが、気象庁刊行の「気象業務はいま 2012」のp144には気象関連事業の年間総売上高と予報業務許可事業者数の推移がグラフとして示されています。1993年や2007年の気象業務法の改正などに伴って、事業者数は増加しておりますが、市場規模(年間総売上高)は300億円規模で停滞しています。

 一方、最近の予報業務許可事業者の参入状況(各社のWeb 等)を注視すると、ランチェスター戦略(選択と集中)に則った「特定分野への特化(差別化)」を図る事業者が多く見られます。今後、様々な新しいアプローチによって「市場規模300億円の壁」を超えて、気象関連事業が活性化することを期待したい所です。

 以前、起業志望者を対象とした創業セミナーに参加した際、経営コンサルタントの講師からは「これから伸びるのは気象業界だ」との指摘を頂きました。その趣旨は「気象の変化がこれまでとは違ったものに変わりつつあるので、事業を行う上でも過去の経験則や認識がそのまま適用できない。従って、予測が重要となる」と言うものでした。

 また、リスクマネジメントにおいても「回避」「軽減」「共有」「許容」の4つの対応策が挙げられます。例えば、ウェザーマーチャンダイジング(WMD)はリスクの「軽減」に相当し、ウェザーデリバティブ(WD)はリスクの「共有(移転)」に相当する、と私は理解しています。

 予測情報の提供および意思決定からその効果が発生するまでのリードタイム短期間であれば、(短期予報を基にした)WMDの方法論が適用できます。一方、リードタイムが長期間になれば、(長期予報や過去の観測値を基にした)WDを考えることになります。

 その他、発想の転換として例えば、同じ気象要因・変化傾向に対してポジティブな影響を受ける事業とネガティブな影響を受ける事業を組み合わせる事で、全体として(最低限の)安定した収益を確保できるような「事業ポートフォリオ」を検討する、というアイデアも浮上してきます。電力会社とガス会社のカラーオプションも一つの例と言えるでしょう。

 気象・気候の変動を観測・予測・解説するのみならず、その変化を見据えた上で、天候リスク対応策(取り得る選択肢)を創出するような事業が「近い将来伸びる業界、新しい職業」になり得るのではないか、と思います。

 現状、天気予報に関する業務は「観測・予報・解説」に大別されると思います。これが将来は「観測・予報・解説・応用(対応)」に拡張されるのではないか、と考えています。ただ、最後の「応用(対応)」について、私自身は未だ具体的なイメージを描けていないのが正直な所であり、現在の大きな課題の一つとなっています。

 そのような中、最近は人工知能(AI)による気象予測サービスが急速に成長しつつある事例を何かと見聞します。かくいう私自身、局地気象の特性を解析するために、三次元熱流体数値モデル(LES)ニューラルネットワーク(NRN)を開発・活用しています。その経験からAIは「道具」である、との認識を持っています。

 AIは「使用する側」の目的や手法に応じて、「利器」にも「凶器」にもなり得るものです。一方、人間は(AIの結果を信頼しつつも)最後は「自らの」意思で、覚悟を持って「決断」し、その結果に対して「責任」を持つことが出来る存在です。

 実は私自身、数少ない講演の際に「『予報』とは『決断』である」と述べたことがあります。つまり、未来における可能性を「予測」し、何を・どのように伝える(報じる)べきかを「決断」すると言う趣旨です。この中で「予測」それ自体はAIがその多くを担い得るとしても、「決断」するのはあくまで人間のテリトリーと考えます。なぜなら「決断」は「意思」と「責任」を伴うからです。

 さて、課題の設定から解決までの流れは、例えば次のようになります。

1.解決すべき課題を設定する
     ↓
2.様々な情報を分析・検討する
     ↓
3.取り得る選択肢を提示する
     ↓
4.意思を持って決断する
     ↓
5.その結果に対して責任を持つ

 この中で、人間は1~5の全てが可能ですが、AIは2と3が可能もとい、この分野で最も威力を発揮するものです。但し、解くべき課題や、そのルールを設定するのはあくまで「人間」のテリトリーです。

 また、私の知る範囲では、AIは「(膨大なデータから)パターンや規則性、あるいは定石のようなものを読み解いて、そこから類推・予測する技術」と認識しています。私の場合で言えば、例えば局地気象について、AI(NRN)の解析から「このような場合には、このような特徴が現れる」という傾向(結論)が判っても、ぞれでは「どのようなメカニズムでそうなるのか」と言う「結論までのプロセス」を解明するわけではありません。つまり、

NRN・・・どのような条件で、どのような特徴が現れるかの傾向 (結論)

LES・・・どのようなメカニズムで、そのような特徴が現れるのか (理由)

のように、目的に応じて数値モデルを使い分ける必要があります。

 以上を基にして、気象の挙動に関する予測をAIが行う未来が実現した場合、AIが導き出した気象の「予測」(結論)に対して、人間の範囲を考えると、一つの考え方としては・・・

 「なぜそのような結論に至るのか?」を担うのが「予報」のテリトリー

 「何を・どのように伝えるべきか?」を担うのが「解説」のテリトリー

 「情報をどのように活用すべきか?」を担うのが「応用」のテリトリー

と言った感じで考えています。あくまでこの分け方も漠然としたものであり、綺麗に境界線を引くことはできないでしょう。

 本来、気象業務法における「予報」とは「現象の予想の発表」であり、気象予報士の資格が必須となるのは「予報業務許可事業者において『現象の予想』を行う」場合だけです。しかし、現実に目を向けると、ただ単に「現象の予想の発表」だけで完結するようなビジネスモデルは限界に達しつつあり、それが「市場規模300億円の壁」という形で表面化しているのではないか、とさえ感じます。

 独自の技術やノウハウの基づく「現象の予想」やその「発表」を核としつつも、そこに新たな付加価値を創生・発信して行く段階にきているのかも知れません。

 気象予報士「1万人」時代を迎えた今、その活躍のフィールドを「予報業務許可事業者において『現象の予想』を行う」という狭い範囲に押し込めることは現実的ではないでしょう。むしろ、「現象の予想」も行うことが出来る知識・能力をどのように活用していくか、その新しい活躍の形を模索することで、次の時代の扉を開くことが出来るのではないでしょうか
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