パピとママ映画のblog

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The NET 網に囚われた男★★★・5

2017年03月09日 | アクション映画ーサ行
「嘆きのピエタ」「メビウス」の鬼才キム・ギドク監督が、南北朝鮮の分断の狭間に迷い込んでしまった一人の男を主人公に、国家の対立に翻弄され、理不尽な運命を強いられる男の悲痛な姿を鮮烈に描いた衝撃のサスペンス・ドラマ。主演は「クライング・フィスト」のリュ・スンボム。貧しいながらも妻と幼い子どもと幸せな日々を送る北朝鮮の漁師ナム・チョル。
あらすじ: ある日、いつものように漁に出たところ、ボートのスクリューに網が絡まりエンジンが故障してしまう。そのまま漂流をつづけ、やがて韓国領内に。ついに韓国の警察に拘束され、スパイ容疑で執拗な取り調べを受けることに。どんな拷問や甘い誘惑にも、ひたすら妻子のもとへ返してほしいと訴え続けるチョルだったが…。

<感想>キム・ギドク監督22作目の作品となるが、はたしてギドク映画は今、どうなっているのだろうか?。この映画の主人公は、北朝鮮の漁師ナム・チョルであり、いつものように粗末なボートで漁にでるも漁網がエンジンに絡まり、韓国へと流されてしまう。韓国ではスパイと疑われ、過酷な取り調べを受け、また執拗な亡命をうながされる。だが、気丈にも屈することなく北朝鮮へと送り返されたナムだったが、しかし、祖国では更なる試練が待ち受けていたのだ。
南北問題の作品は数々あれど、最近では「殺されたミンジュ」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭で上映され、政治的メッセージが強い作品といわれ、急に社会派になったとも言われている。

この作品の中でも前面にこそ女性は出ていませんが、重要な二人の女性がいます。一人なナム・チョルの妻(イ・ウヌ)。漁に出る朝の、旺盛な夫婦の健全なるセックス。依然としてギドクの作品にはこういうシーンがある。そして、韓国から戻ってきてからは、妻がいくら努力しても回復しない夫のセックス。もう、元のようにはならないのだ。

二重スパイ扱いされ、自分を見失い、混乱して、健全な欲望やエネルギーを失ってしまったのだ。理不尽としか言いようのない話だが、誰が悪いという撮り方はしていない。北にも南にも、さらにその内部でも、それぞれにはそれぞれの生きてきた立場があり、みなそれぞれに自分の立場を全うしようとしているだけなのだ。

もう一人は、北に戻っての取り調べでも話が出る、風俗で体を売っていて逃げだした女のエピソードである。監督にとっては欲望とは人間にとって本質的なものだからだというのだ。
取り調べ官との心情の交差も怒り、憤り、時に教官と様々であるが、例えば一瞬だけ登場する、韓国側の女性取り調べ官、彼女をもっと重要な役回りにもってくるだけでも、作品の肌触りが変わったのではないかと思う。

ただ、ボートで北へ帰るシーンで、資本主義の衣服を脱ぎ捨てて裸で、パンツ一枚で帰る漁師ナム・チョル。資本主義の栄華と廃墟のような明洞の街に放り出され、頑なに目を開けようとしないくだりは、何ともギドク映画らしいシークエンスである。
ギドク監督って、ものすごく個性的ではあるけれど、どうして国際的な評価があれほど高いのか、いまいちよく分からないところもあるが、だから評価やツッコミどころも見えて来るのだが、北朝鮮の男を描いた本作は、観客にとってトッツキ安いギドク映画なのかもしれない。むろんギドク映画を毛嫌いしてきた観客にこそ観て欲しい作品といえよう。
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