パピとママ映画のblog

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桜並木の満開の下に ★★★

2013年07月29日 | さ行の映画
フタバから遠く離れて』でも震災後の原発事故で避難生活を送る人々を描いた舩橋淳監督が、再び震災をテーマにつづる感動作。突然の事故で伴侶を失ってしまったヒロインと、事故を起こした青年の間に生まれる一種独特の関係をじっくりと描き出す。悲しみに暮れる妻を『鈴木先生』シリーズの臼田あさ美が体当たりで務め、その相手を『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』の三浦貴大が演じている。震災後の風景と共に、主人公たちの微妙な心理を映し出す舩橋監督の手腕にうなる。
あらすじ:東日本大震災後も、栞(臼田あさ美)は茨城県日立市のプレス工場で夫(高橋洋)と共に働きながら、平凡だが満ち足りた日々を送っていた。だが、ある日、最愛の夫が作業中の事故に巻き込まれ、帰らぬ人となってしまう。その原因を作った新人の工(三浦貴大)は、一人になった栞にどれだけ憎まれようとも、ただひたすら許しを乞い続け……。

<感想>震災以前に企画された本作は、不思議と震災を主題とした映画でもある。だからというわけでもないのだろうが、東日本大震災によって中断させられた本作。物語は、不慮の事故で夫を喪った女と、その事故を起こした男の関係を描いているのだが、不慮の事故とは震災の比喩とも見えるからなのだ。しかも、事故は誰が被害者/加害者になってもおかしくない紙一重の状況であり、責任の所在が極めて入り組んでいるからなのだ。
この設定は、原発が多額の補償と同時に最悪の被害をもたらした人々のことを連想させる。監督が前作で、原発を誘致しそのため町ごと移転せねばならなかった人々を描いていることは承知の事実だ。だから、本作は前作と地続きなのである。

本作が震災の地、茨城県日立市で撮影されているからではなく、震災と原発のその後を、いかに生きるかを問うているからこそ、本質的には震災映画だと思う。
だが、本作がメロドラマとして撮られているということは、思うに意外ではない。メロドラマは、男と女の関係を仮ながら、容易には解き得ない葛藤を描くものだから。しかし、ヒロインの視点で事件を見て、まずは事故を起こした男を憎む。
そうして、次第に事情を知るにつれ、一概には彼を憎むわけにはいかなくなってくる。この間、男はあまり感情を表さないのも、観客は男の内面を想像させている演出が上手いのだ。

ヒロインの心情的葛藤は、二人が恋愛に陥るという形で解消されるかのように見えるが、実質、解消不能な実態を取り敢えず宙に浮かしておくのだ。これも、今時のメロドラマという見方もあるだろうが、解消不能な問題として震災を描くにあたり、メロドラマという選択は間違ってはいないと思うのだが。
配偶者を亡くすのは極限まで追いつめられる苦痛に違いないが、映画では幾度も描かれたテーマであり、本作も愛する人の死と許されざる恋を、メロドラマとして新たに成立させているようでもある。

それに、作品を説得しているのが、男が差し出す慰謝料の封筒。それを、女がこんなものと何度も叩く、そのシーンの叩く乾いた音が哀しく響く。それに、事故を起こした当の会社に、下請け仕事の再開を依頼しに行き断られる場面の終りに、向こうの会社の社員2人が見すえる正面のシーン。人員整理を迫られる小さな町工場の厳しい現実。マスクをして表情の見えない男たちの不気味さに怖さを感じる。

印象的なロングショットでヒロインの心情を映し出す演出は、栞が走る被災地の瓦礫。夜の海、桜の蕾やライトアップされた満開の夜桜など。
さらには、海岸でヒロインが髪を束ねていたリボンをほどくシーン。その後、この二人が旅館へいき、肉体関係を結んでいるかのような、無意味に男の足を触る仕草も、そんな身振りが印象的でした。それに、クライマックスがタイトルの「桜並木の満開の下に」というとおりで、撮影された場所が、日本のさくら名所100選にも選ばれた平和通りの桜並木がライトアップされ、それは見事な夜桜が本当に美しかった。
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