援助交際を繰り返す2人の少女と、片方の少女の父親の葛藤を描いたドラマ。監督・脚本・編集・美術は「春夏秋冬そして春」のキム・ギドク。撮影はこれが本格的デビューとなるソン・サンジェ。音楽は「春夏秋冬そして春」のパク・ジウン。出演は「純愛中毒」のイ・オル、「狐怪談」のクァク・チミン、新人のハン・ヨルムほか。第54回(2004年)ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞。
あらすじ:ヨジン(クァク・チミン)は、刑事をしている父のヨンギ(イ・オル)と2人暮らしの女子高生。彼女の親友である同級生チェヨン(ハン・ヨルム)は、卒業旅行の旅費を稼ぐために援助交際をしている。ヨジンはそれを嫌いながらも、チェヨンが心配で見張り役として行動を共にする。
そんな矢先、ホテルに警察の取り締まりがあり、逃げようとしたチェヨンは窓から転落死してしまう。それ以来、ヨジンはチェヨンの罪滅ぼしとして、彼女の援助交際の客に会い、彼らに金を返す作業を開始する。
しかしある日、殺人現場に仕事でやってきたヨンギが、向かいのホテルにヨジンが男といるのを目撃。ヨンギは衝撃を受けつつ娘の後を追い、ヨジンが何をしているかを知る。苦悩しながらも何も言えないヨンギは、娘の行動を監視し続け、娘を買った男たちへの制裁を始める。
そしてその行為は次第にエスカレートし、ついにヨンギは殺人を犯す。そのあと、ヨンギは妻の墓参りに行こうと、ヨジンと共にドライブに出掛ける。2人は墓参りを終えたあと、田舎の民家に一泊。そして翌朝、ヨンギは車の試運転をヨジンに提案する。ヨジンは初めての運転に喜ぶが、その間にヨンギは自ら通報し、迎えにきた警察の車に乗り込む。ヨジンは覚えたての運転で、逮捕された父の乗った車を追い掛けるが、ヨジンの車はぬかるみにタイヤを取られて動けなくなってしまうのだった。(作品資料より)
<感想>2人の少女、そして父に降りかかる悲劇、キム・ギドクならではの世界観が暴力的描写も極力影を潜められ、人間と自然の調和を模索するかのような境地に達したのかと思う驚きもあったが。と同時に、あまりにも生真面目すぎたきらいがあり、それがどこか物足りなさを感じさせもしていた。
まるで恋人同士ではないかと思うくらい仲の良い女子高生の、ヨジンとチェヨン。憧れのヨーロッパ旅行のために、2人はこつこつと金を貯める。だが、それは自らの体を使い、男を相手にする売春婦。警察の目を恐れ、見張り役となるチェジン。
良識ある世間からみたら「援助交際」という言葉で、片付けられてしまう行為を続ける2人のピュアな姿を、監督のギドクはまるでかつての大林宣彦映画のようなタッチで見せる。
自分は男たちを仏教徒に変えていくインドの伝説上の娼婦なのだと、屈託のない笑顔で語るチェヨン。だが、無垢なままの彼女と現実社会との折り合いがつかなくなった瞬間、2人の少女に悲劇は起こる。
ヨジンの父親を演じるイ・オルが、娘への深い愛情から人生を破滅させるほどの狂気に走る過程が物語の後半の中心となる。妻を早くに亡くし、男手一つで必死に育てて来た娘の、もう一つの姿を偶然目撃したことから、それまで自身の生きる目標だった理性や論理感をかなぐり捨てる彼。ギドクがこれまで演出してきた人間のもつ内面的な怒りが、見事に描かれる。
親友チェヨンの贖罪に報いようと奔走する娘ヨジンとのすれ違いが、ますます彼を苦悩に追い込み、その苦悩は援助交際の客である男たちにも連鎖する。彼らをただの悪い男と位置づけずに、孤独な人間の弱さの象徴としているのが、いかにもギドクらしい。
湖やボートといった、これまでの作品にもしばしば登場させている小道具も随所に盛り込まれ、辛辣なユーモアとともにギドクの特異な世界観を成り立たせている。
絶望の淵にまで立たされた人間にも、ほのかな希望の光が見出せるのが印象的。それがラストシーンで、我が子の成長を見守らんとする親鳥が、すがりつくひな鳥を突き放して、一人で飛び立たそうとするかのような描写の中に、人生はいくらでもやり直せると、力強くまっとうすべきだという、作り手の確かなメッセージが伝わってくるのが分かるのもいい。
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あらすじ:ヨジン(クァク・チミン)は、刑事をしている父のヨンギ(イ・オル)と2人暮らしの女子高生。彼女の親友である同級生チェヨン(ハン・ヨルム)は、卒業旅行の旅費を稼ぐために援助交際をしている。ヨジンはそれを嫌いながらも、チェヨンが心配で見張り役として行動を共にする。
そんな矢先、ホテルに警察の取り締まりがあり、逃げようとしたチェヨンは窓から転落死してしまう。それ以来、ヨジンはチェヨンの罪滅ぼしとして、彼女の援助交際の客に会い、彼らに金を返す作業を開始する。
しかしある日、殺人現場に仕事でやってきたヨンギが、向かいのホテルにヨジンが男といるのを目撃。ヨンギは衝撃を受けつつ娘の後を追い、ヨジンが何をしているかを知る。苦悩しながらも何も言えないヨンギは、娘の行動を監視し続け、娘を買った男たちへの制裁を始める。
そしてその行為は次第にエスカレートし、ついにヨンギは殺人を犯す。そのあと、ヨンギは妻の墓参りに行こうと、ヨジンと共にドライブに出掛ける。2人は墓参りを終えたあと、田舎の民家に一泊。そして翌朝、ヨンギは車の試運転をヨジンに提案する。ヨジンは初めての運転に喜ぶが、その間にヨンギは自ら通報し、迎えにきた警察の車に乗り込む。ヨジンは覚えたての運転で、逮捕された父の乗った車を追い掛けるが、ヨジンの車はぬかるみにタイヤを取られて動けなくなってしまうのだった。(作品資料より)
<感想>2人の少女、そして父に降りかかる悲劇、キム・ギドクならではの世界観が暴力的描写も極力影を潜められ、人間と自然の調和を模索するかのような境地に達したのかと思う驚きもあったが。と同時に、あまりにも生真面目すぎたきらいがあり、それがどこか物足りなさを感じさせもしていた。
まるで恋人同士ではないかと思うくらい仲の良い女子高生の、ヨジンとチェヨン。憧れのヨーロッパ旅行のために、2人はこつこつと金を貯める。だが、それは自らの体を使い、男を相手にする売春婦。警察の目を恐れ、見張り役となるチェジン。
良識ある世間からみたら「援助交際」という言葉で、片付けられてしまう行為を続ける2人のピュアな姿を、監督のギドクはまるでかつての大林宣彦映画のようなタッチで見せる。
自分は男たちを仏教徒に変えていくインドの伝説上の娼婦なのだと、屈託のない笑顔で語るチェヨン。だが、無垢なままの彼女と現実社会との折り合いがつかなくなった瞬間、2人の少女に悲劇は起こる。
ヨジンの父親を演じるイ・オルが、娘への深い愛情から人生を破滅させるほどの狂気に走る過程が物語の後半の中心となる。妻を早くに亡くし、男手一つで必死に育てて来た娘の、もう一つの姿を偶然目撃したことから、それまで自身の生きる目標だった理性や論理感をかなぐり捨てる彼。ギドクがこれまで演出してきた人間のもつ内面的な怒りが、見事に描かれる。
親友チェヨンの贖罪に報いようと奔走する娘ヨジンとのすれ違いが、ますます彼を苦悩に追い込み、その苦悩は援助交際の客である男たちにも連鎖する。彼らをただの悪い男と位置づけずに、孤独な人間の弱さの象徴としているのが、いかにもギドクらしい。
湖やボートといった、これまでの作品にもしばしば登場させている小道具も随所に盛り込まれ、辛辣なユーモアとともにギドクの特異な世界観を成り立たせている。
絶望の淵にまで立たされた人間にも、ほのかな希望の光が見出せるのが印象的。それがラストシーンで、我が子の成長を見守らんとする親鳥が、すがりつくひな鳥を突き放して、一人で飛び立たそうとするかのような描写の中に、人生はいくらでもやり直せると、力強くまっとうすべきだという、作り手の確かなメッセージが伝わってくるのが分かるのもいい。
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