外山滋比古 著
『思考の整理学』
カバー装画 安野光雅
外山滋比古(1923・11・3〜2020・7・30)96歳没、胆管がん。
外山滋比古の著作を読み始めた契機は思い出せない。新聞の書評あたりで、作者を知り、一冊また一冊と、折々に求めて読んできたように思う。私は著者の生年月日が気になる方である。私より幾歳年長者の文章であるか、幾歳若い人の文章であるかを気にしている。
文は人なり、その人の時代的な背景と無縁の文章はない、とも思っている。語彙にも文体にも時代が反映されるように思う。外山滋比古さんは、1933年生まれの私より10歳年長者であることは、いつも意識していた。
私の印象では、戦前に旧制の中学校あるいは女学校を卒業した人と、戦後に新制度の中学校を卒業した者(私は新制中学校の一期生)とでは、ひとりでに(あるいは教育の影響もあって)、語彙力にかなり大きな差があること感じてきた。私は両時代の過渡期にあるだけに、その差異を強く感じ、コンプレックスを感じてきた。それは漢語力、古典的な和語における知的、情緒的語彙の力の差であった。
外山滋比古さんの場合は、10歳年長者の碩学であり、英文学者でいらっしゃるから、カタカナ表記の英語も多いのだが、親しみやすい端正な文体で、話すように聞かせるように書かれているので、実に読みやすい。が、年長者であるから語彙は当然豊かである。
私が、過去に読んだ外山滋比古著7冊。(①〜⑦は、刊行順)
① 『日本語の個性』
② 『ユーモアのレッスン』
③ 『忘却の整理学』
④ 『20歳からの人生の考え方』
⑤ 『人生複線の思想』
⑥ 『大人の言葉づかい』
⑦ 『日本語は泣いている』
外山滋比古さんの訃報は、
外山滋比古さん死去
英文学者「思考の整理学」 96歳
の見出しで、伝えられた。(2020年8月7日の朝日新聞)
(その前日、テレビのニュースでも訃報は報じられた。)
記事には、
[生き方、考え方のヒントといった幅広いテーマのエッセイも得意とし、83年刊行の「思考の整理学」は250万部を超えるロングセラーになった。]
と記されている。その事実は知っていたが、大学生に大人気の名著『思考の整理学』を私は読んでいない。しかし、この記事を読んだ段階では、ぜひ読んでみようとは思わなかった。
が、9月12日(土)の読書欄(朝日)の<売れてる本>として、『思考の整理学』の紹介記事を読んで、外山滋比古著の最後の本として読んでみようと思うようになり、早速Amazonへ注文した。そして、翌日には入手。
死去後の9月5日に、124刷目が増版され、私のところへ届いたのも、その一冊であった。初版は1986年だから、ずいぶん多くの人に読まれたことになる。(253万3400部とか)大学生でなくても、<思考>についての論は参考になったし、文章それ自体の外山滋比古流が読んでいて愉しかった。
一つ、学んだこと。
「三上」(良い考えの生まれやすい状況は、馬上、枕上、厠上である、と中国の欧陽脩が説いたという話)は、高校生のときに学習した。が、「三多」については、どこかで聞き知ってはいたが、「三上」以上に大切だと思い直した。
「三多」とは、文章上達の秘訣三か条で、看多(多くの本を読むこと)、做多(さた・多く文を作ること)、商量多(多く工夫し、推敲すること)で文章上達の秘訣三カ条である。
と、外山滋比古さんは書いておられる。確かに文章上達の要諦である。
(少々疲れてきたので擱筆。)