ブルーベルだけど

君にはどうでもいいことばかりだね

笑顔のまま止まった時計

2019-06-25 01:05:00 | 日記
かつて、友人の Tくんに起こった出来事を書こうと思う。
同年の僕と Tくんは幼馴染みであり、バンド仲間でもあった。


高校卒業を目前に控えた早春の日、僕は Tくんと隣町へ行き、駅前にあるレコード店の2階に設けられたスタジオで他校の生徒を含むメンバーと最後の演奏をした。

オリジナル2曲と Burn 、闘牛士 、No No No 、Taurian Matador 、The Rover 、16th Century Greensleeves 、Still I'm Sad 等々、高校生らしい持ち寄りのごった煮 。。。


楽しい時間は瞬く間に過ぎ、僕達は名残惜しそうにドアを出る。
店内では吉田拓郎さんの新作アルバムに収録された一連の曲が流れていた。

カントリー調で妙に音の良い演奏、雪の日の別れを描いた歌詞に 「女々しい拓郎は嫌い!」 などど Tくんは笑っていた。


足下に立て掛けたハードケースを両手で支えつつ、1時間ほど電車に揺られ到着した自宅最寄駅で、強い風に吹かれながら、僕と Tくんは別れた。

帰宅した Tくんは家族より、Kくんから電話があったことを知らされる。
早く伝えたいことがあるらしい、と ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・






Iさんは、中学の同級生 Kくんを中心とするグループの1人。
そのグループには僕と Tくんもいた。

グループの行動範囲は広く、イベント見物で遠征して朝帰りになったことも。
そんな僕達は田舎町で不良と囁かれ、後ろ指をさされていた。


お互い〝仲のいい異性の友人〟程度だった Tくんと Iさんが付き合うようになったのは中学卒業間際のこと。

きっかけは、市内の公立高校受験に失敗して落ち込んでいた Iさんに Tくんが普段の調子で 「いいなー、毎日都会に行けて」 などと素っ頓狂な言葉をかけたことだとか。

Iさんが滑り止め受験で合格していたのは都心の私立高校。 第一志望校に合格できた仲間から同情が集まっていることに Iさんは嫌気がさしていたんだろう。 


Iさんは可愛く屈託のない笑顔と明るい性格で、男子から人気があった。

間もなく卒業式を迎えたため、2人の交際は表明されることもなく、お互い家族にも内緒だったそうで、知らされていたのは僕と Kくんを含む数人だけだった。



高校入学後は Iさんが通う高校がある街でデートを重ねていたようだ。
高2の夏には自然な流れで初体験へと進んだとか。

初めて同士の2人が、そのまま結婚するんだろうと思っていた。


高校生でいられる時間は短く、やがて受験シーズンへ。

Iさんは地元の大学を、Tくんは東京の大学を、それぞれ受験し合格した。
Tくんは卒後の帰還を約束していたそうだ。


アイドルに興味がなかった Tくんが後年、岡田有希子の最期の曲を聴いていた。
僕にはその理由が分かる。

Iさんの声に似ていたから。






・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Tくんは Kくんに電話をした。

そして、Iさんが交通事故で亡くなったことを知った。

Iさんとは前日に会ったばかりで、翌週にも会う約束をしていたという。
Iさんは 大切なもの を取りに高校へ行く途中だった。



Tくんが僕同様に大学進学で郷里を離れたことは、不幸中の幸いだったに違いない。
僕も Tくんも地元に戻ることはなく、東京で就職した。



Iさんが取りに行った 大切なもの が何なのかは、今も分からない。



Iさんが事故に遭わなくても、遠距離恋愛は続かなかったかも知れない。
勿論、遠距離恋愛ではなくても別れることだってある。

その後、Tくんは大学で出会った2歳年下の女性と結婚した。




Iさんの死は、僕や Kくんにとっても受け容れ難い出来事だ。
それでも時は流れ、やがて懐かしささえ伴う悲しい〝思い出〟になっていく。


一方、Tくんの時間は止まったままだと言う。
Tくんの記憶の中、Iさんは変わらぬ姿で生き続けている。


Iさんの屈託のない笑顔、明るい声は永遠なのだろう。






今でも〝外は白い雪の夜〟を耳にすると、あの風が強かった早春の日を思い出す。








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