私は、自著「そりゃないよ獣医さん」新風舎刊(http://www.creatorsworld.net/okai/)で何度も、家畜は経済性を機軸に飼養管理される主張しました。生産性をなくした家畜は、治療の対象にはならない。産業動物の獣医師は命を救うことが目的ではないと説明してきました。 酪農の現場では、1992年頃から牛肉の自由化を背景に、搾ることができなくなって廃用にされる牛が、極端に安くなりました。20万円ほどだった牛が5万円以下になりました。これでは、酪農家は早く見切りをつけた診療を希望するようになります。加えて規模が大きくなって、牛に目が行き届かなくなりました。はっきり言って、扱いが乱暴になってきました。乳牛1頭当たりの経済価値が下がったからです。診療は増えるし複雑な病気になるし、治りが遅くなり諦めが早くなって来ました。
現在ヨーロッパ各国は、EU統合に向けて、多岐にわたっての規範の摺り合わせをやっています。農畜産業の分野でもその動きは盛んで、家畜を生きた個体として扱うようにとする動きが出てきました。家畜福祉という聴きなれない言葉です。家畜の自由を束縛したり苦痛を与えてはならないということです。具体的には、狭いケージ(かご)で飼われているニワトリを禁止する方向になってきました。これを実行すれば、当然玉子の価格は上がると思います。これを消費者が容認してくれるでしょうか?
見た目に周辺をきれいにしている、大型酪農家が沢山いますが、それらの牛は閉じ込められた空間で飼われて、高生産を強いられています。ここでは個体は経済最優先に飼養されています。大きくなるほど、投資が増えて経済性が強く求められ乳牛の内蔵は悲鳴を上げています。家畜の福祉に対する概念は、始まったばかりです。仏教国とキリスト教国の違いなど、今後機会をみて説明してゆきたいと思います。