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『ニーベルンゲンの歌(前後編)』

2006年05月09日 | 読書日記ードイツ
相良守峯訳(岩波文庫)

《あらすじ》
(前編)ニーベルンゲンの宝を守る竜の血を浴びて不死身となったジーフリト。だが妃クリエムヒルトの兄グンテル王の重臣ハゲネの奸計により殺されてしまう。妃の嘆き、そして復讐の誓い。こうして骨肉相喰む凄惨な闘いがゲルマン的忠誠心の土壌のうちに展開する。均整のとれた美しい形式と劇的な構成をもち、ドイツの「イーリアス」と称せられる。

(後編)夫ジーフリト暗殺に対する復讐を誓ったクリエムヒルトは、その手段としてフン族エッツェル王の求婚に応じた。そして10余年、宮廷に兄グンテル王、めざす仇敵ハゲネらを招いた彼女は壮絶な闘いの上これを皆殺しにする。しかし自身も東ゴート族の老将の手で首をはねられる。戦いは終り、あとにエッツェル王ら生者の悲嘆を残して幕は閉じられる。


《この一文》
” 友が友と友情をもって助け合い、
  また構えて事を仕出かさぬほどの分別があれば、
 人はこれに恐れをいだいて手出しをしないでしまうことが多いものだ。
  多くの男の災いは、分別によって防ぐことができるのだから。
           (第二十九歌章)  ”

” それに対し、健気なリュエデゲールは恭しく頭を下げた。
  居合わせた人々はみな涙を流し、それはだれにも慰めることの
  できぬほどの胸の痛みであり、並ならぬ悩みであった。
  リュエデゲールの死は、あらゆる美徳の父の死であった。
           (第三十七歌章)  ”



クリエムヒルトが人並みに穏やかな性格だったら、きっと誰も死なずにすんだんだろうに…。この長い物語を読んで私がまず思ったことといえば、そんなことでした。

私はどちらかと言えば、ジーフリトが竜を倒してその血を浴びるような冒険譚を読みたかったのですが、そういう部分は人の口から少しだけ語られるだけで、この物語のほとんどの部分はどろどろした人間模様です。怖いですねー。ゲルマン的忠誠心とか英雄精神ということについて私には全く知識がないためか、読んでいると突っ込みたいところが満載です。「美しい姫がいるらしい」という噂を聞いただけでジーフリトはその国におもむき(武装して)、いきなりそこの王にむかって「これからあなたの所領を力づくで頂戴いたすつもりです」というようなことを言い出します。え? 姫の話は? 当然相手のブルゴントの王グンテルもびっくりしてジーフリトをたしなめるわけですが、結構まともそうに見えたこのグンテルもかなりやばい。「美しい女王がいるらしい」という噂を聞いて熱烈に恋し、反対を押し切って会いに行きますが、無茶苦茶に力自慢のこの女王プリュンヒルト自身に勝負で勝たなければ思いを果たすことができません。で、女王のあまりの強さに「こんなことなら会いにこなきゃよかった……」みたいなことを言い出します。なんてこったー。結局、隠れ蓑(ジーフリトの秘密のアイテム。姿を隠すことができます)をつけたジーフリト(この頃にはなぜか友達になっていた)の協力でプリュンヒルトを打ち負かし(要するにズル)、妃として迎え入れますが、やはり強過ぎて夫婦の契りを結ぶことができません。そこでまたジーフリトの協力を得て、無理矢理妻とするのでした(これまたズル)。で、なぜかその場面でプリュンヒルトの指輪と帯を持ち帰り、今では妻となったクリエムヒルトに与えるジーフリト。諸悪の根源がここにあるようです。その指輪と帯のせいで後々この二人の女は激しく罵り合い、互いの夫を滅ぼし合うことになるのでした。二人ともとにかく気位が高過ぎる。怖いですねー。

こんな感じで前編は「こらこら、いきなり何を言い出すんだ」という場面が目白押しです。ある意味面白い。ところが、後編はうってかわって、血で血を洗う殺し合い。凄絶です。かつてグンテル王(クリエムヒルトの実兄)の重臣ハゲネによって夫を暗殺された恨みをいつまでもいつまでも募らせては復讐の機を伺うおろかなクリエムヒルト(この人は話が進むに連れて限りなく愚かになってゆく気がします。粘着)の腹黒い策略の結果、フンの国は大混乱。国王エッツェル(この人もまたクリエムヒルトの美しさを聞いて後妻にとった人。結局はクリエムヒルトの復讐に利用されたという、かなり大らかでいい人っぽいのに気の毒な王様)とフン国に滞在中の東ゴート族の大王ディエトリーヒ(今は本国から追放されて流れてきてはいるが、さすがのクリエムヒルトをびびらせるほど権勢のある人)は一族郎党ほとんど皆殺しの目に遭います。気の毒ー。なかでも気の毒なのは、この物語における唯一の良心である辺境伯リュエデゲールでしょうか。フン国に仕えるこの人が、フン国の客として自らが盛大におもてなしをし自分の娘をもギーゼルヘル(クリエムヒルトの実弟)に妻として与えた結果今や親族となったブルゴントの人々に、フン国への忠誠心からやむなく戦いを挑み、そして討ち死にする場面は涙無しでは読めません。もう、ほんとにクリエムヒルトさえいなかったら! 結局このクリエムヒルトはジーフリトの恨みを晴らすべく、というか取り上げられたニーベルンゲンの宝を取りかえしたかったからなのか(なんかこっちの理由の気がする…)、自身の兄弟たち(ジーフリト暗殺に直接関係したのは兄グンテルだけで、あとの二人はいい人だったのに……)とハゲネに復讐します。夜中に奇襲をかけたり火を付けたりと、容赦ありません。実にあさましい。念願叶って最後にはグンテルの首をはね(ハゲネにニーベルンゲンの宝の在り処を白状させるため。ほら、やっぱり)、ハゲネも(白状しないので)自身の手によって殺してしまいます。縛められたまま女の手にかかって死んだハゲネの仇を打つべくディエトリーヒの家臣である老将ヒルデブラント(さっきまでハゲネと闘ってた人。しかしこれが英雄精神というものでしょうか)によって、クリエムヒルトも真っ二つにされて、物語は幕を下ろすのでした。

はー、やっぱりクリエムヒルトって怖かった。そんな読み方は間違っているかもしれませんが、私の今のレベルではそれが精いっぱいの感想です。