バリー・ユアグロー 柴田元幸訳(新潮文庫)
《あらすじ》
一人の男が飛行機から飛び降りる。
涙を流しながら、靴箱いっぱいのラ
ブレターを空中に投げ捨て・・・/魚
を先祖にもつ女の逸話/世界で最後
の煙草を持った男が、ブロンド女か
らマッチを手に入れようと苦労した
物語/サルタンのハーレムを警備し
ていた私が、テントの中を覗き込ん
で見たものとは・・・などなど、あな
たが昨夜見たかもしれない、リアル
でたのしい悪夢、149本の超短編。
《この一文》
” その晩、私は眠れぬまま横になり、耳を澄ます。彼女の泣き声が聞こえる。私はベッドを離れて、ドアのところまで行って立ちどまる。それから暗い廊下に出て、彼女の部屋の前まで行く。ふたたび耳を澄ます。そしてそっとドアの把手を回してみる。
彼女は青いトランクの前にひざまずいている。トランクの蓋は開いている。彼女は裸足で、白いナイトガウンを着ている。私が名前を呼ぶと、彼女はふり向く。月光を浴びた彼女の顔に涙が流れ落ちる。私には彼女がたまらなく美しく思える。「君、大丈夫?」と私はささやく。彼女は私を見て、こっくりうなずき、優しい声で「花に水をやっているだけ」と言う。
--「庭」より ”
本当に短い物語ばかりで読みやすいです。
こういう夢のような物語は楽しいです。
沢山あってすぐに忘れてしまうので、何度でも繰り返し楽しめそうです。
その中で、忘れられない程素敵だったのが、引用した「庭」。
とても美しいです。
たまにこのように美しい物語がまじっているので、探すと面白いかもしれません。