謹賀新年
「よく説くも聞かずんば王師(王の軍隊)もて討伐す」、「敵に剋(か)ちて勝ち
を制す。つとめは人を安んずるにあり」(侵略者に対する心がまえ)
(ブッダ・四十華厳)
皆さまのご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。
平成23年元旦
二王院観成 合掌
この年末年始は楽しかった。12月31日には、BS朝日は「世界の辻井伸行
『奇跡のピアニスト』」と、1月1日、「辻井伸行リサイタル」を放映した。一
方、NHK衛星第一は、1月1日「イチロ-、2244安打、全部見せます」と、
「イチロ-特別対談『僕の歩んだ道』」が放映されたからである。すべて録画し
た。この二人の天才話しは感動的なものである。しかし、同じ天才でもその内容
は対照的なものだった。天才といっても、日ごろの練習や心がまえが基本にある
点は二人とも同じである。
まず辻井氏であるが、TV朝日が11年追跡録画したものである。敬意を表せ
ざるを得ない。2009年6月のヴァン・クライバ-ン国際ピアノ・コンク-ル
で辻井氏が優勝したときNHKがその内容などを放映したのである程度は知って
いた。ヴァン・クライバ-ン氏は「伝説のピアニスト」といわれているそうであ
る。最終選考ではオ-ケストラをバックに演奏しなければならない。したがって
いろんな経験が重要なようである。辻井氏が天才と思われる映像があった。辻井
氏が2才3ケ月のとき、おもちゃのピアノで「おもちゃのチャチャチャ」を突然
弾いた。母親がいつも歌っていたのを聞いて覚えたようである。また、母親らが
ピアノの弾き方を教えたわけではないという。それも両手で演奏している。右手
でメロディ、左手で和音をかなでている。これは普通の幼児ではできないことで
ある。それも辻井氏は先天的な盲目の身である。感動的な一瞬である。それが辻
井氏とピアノの出会いだった。野僧はクラシック音楽にはうとい方であるが、そ
れだけに興味津々たるものがある。辻井氏が今日あるのは、両親をはじめ、幾多
の音楽家の協力と助力の賜物であろう。何よりも東京音大講師の川上昌裕氏の指
導が光る。楽譜を見れない辻井氏に、自分で演奏したテ-プを聞かせ、右手と左
手を別々に教え、そのあとで両手で弾かせる練習を徹底した。その教え方が良か
ったようである。12年間、川上氏は指導している。辻井氏は8才のとき、モス
クワでトロイカを演奏したことがある。その音を聞いて感動したモスクワ音楽院
のカステルスキ-教授は、来日したとき辻井氏に個人指導している。帰り際に、
「辻井氏の音と心が美しい。世界最高のピアニストになるだろう」と言い残して
いる。まさに今日の辻井氏を見通しているかのような発言である。同教授は作曲
家の三枝成障氏に辻井氏のたぐいまれな資質を話した。三枝氏は辻井氏の演奏を
聴いて感嘆、その後、サントリ-ホ-ルなどでリサイタルを開催して経験を深め
させた。また、ベルリン・ドイツ交響楽団の指揮者、佐渡裕氏はオ-ケストラと
共演させている。「音楽の神様が本当に彼を守っているようだ。楽譜は二次元の
世界。作曲者はもっと複雑な感情の世界。彼は直でその世界につながっているよ
うだ」とも云っている。また指揮者の広上淳一氏は「彼の宇宙というか第四次元
というか、私たちにはなかなか感じ取ることのできない宇宙と交信しながら弾い
ている」と絶賛している。ヴァン・クライバ-ン氏は「彼にはあっと云わせるテ
クニックがある」、「彼は奇跡のピアニストだ」と云っている。辻井氏は、すば
らしい聴力があるという。メロディは勿論のこと、複雑な和音でも一度聞けばわ
かるという。また記憶力も抜群で、CDを一度聞けばすべて暗記するという。さ
らに川上氏は「彼は壁にぶち当たることはないだろう」と云う。難解な練習や曲
でも、すべてクリアしてきているからだという。ピアニストの河合優子氏は、「
頭脳の楽譜、響きという音像、たくまい機能をとらえ、脳の中でそれと同等の方
法を確立している。精密さ、脳の正確さはたぐいまれな才能だと思う。それは地
道な練習によるものだろう。その完成度と表現力は苦労を苦労と思わない、頭に
入れる作業を心から喜びをもって日々やっているからだろう」と絶賛している。
今後の活躍と進化が楽しみである。
次にイチロ-氏であるが、200本安打を10年連続記録した。前人未踏の快
挙である。それ以外にもいろんな記録を書き換えておりまさに天才である。殿堂
入りは確実である。しかし、野球もこれでよし、ということはないだろう。イチ
ロ-は45才ぐらいまでブレ-できるだろう。まだ37才だからあと8年はある。
フアンの一人として期待していることがある。4割を打ったら引退してほしい、
と思っている。惜しまれて引退すること以上の快感はないはずである。素人判断
であるが、2ストライクの後は三振しければ4割打てるのではなかろうか。三振
しない特殊技術はイチロ-ならマスタ-できるはずだ、と思っている。たしかに
まっすぐのボ-ルでも、手元でアップしたり、落ちたり、横や斜めにカ-ブする
ことがあるだろう。それを見極めるのは困難なことだと思う。しかし、それに挑
戦してみるのも快感の一つではなかろうか。未知への挑戦である。自己との戦い
でもある。
ところで同じ天才でもイチロ-選手と辻井氏でははっきりした違いがある。チ
-ムの一員と、個人という存在そのものの違いである。辻井氏はマイペ-スです
む。極端な云い方をすれば一人で楽しみながら進化できる。それに対しイチロ-
選手は集団の中の一人であるから不必要と思われるような気遣いがある。イチロ
-選手は余りにも気を使いすぎる傾向にある。そんなことで労力を費やす必要は
まったくない。「柳に風」の心境で対処すればいい。他人がどう思おうが、悩ん
だり、自己嫌悪におちいる必要はない。他人に迷惑をかけたり、法律に違反しな
ければ、それでいいのである。同僚をはじめ、他人の悪口さえ云わなければいい。
それを仏教では「即身成仏」という。たとえスランプにおちて、ヤジられても気
にすることはない。もっと太っ腹な気構えでいるべきだと考える。
イチロ-選手も、辻井伸行氏も頑張ってもらいたい。今後の活躍が楽しみであ
る。
「よく説くも聞かずんば王師(王の軍隊)もて討伐す」、「敵に剋(か)ちて勝ち
を制す。つとめは人を安んずるにあり」(侵略者に対する心がまえ)
(ブッダ・四十華厳)
皆さまのご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。
平成23年元旦
二王院観成 合掌
この年末年始は楽しかった。12月31日には、BS朝日は「世界の辻井伸行
『奇跡のピアニスト』」と、1月1日、「辻井伸行リサイタル」を放映した。一
方、NHK衛星第一は、1月1日「イチロ-、2244安打、全部見せます」と、
「イチロ-特別対談『僕の歩んだ道』」が放映されたからである。すべて録画し
た。この二人の天才話しは感動的なものである。しかし、同じ天才でもその内容
は対照的なものだった。天才といっても、日ごろの練習や心がまえが基本にある
点は二人とも同じである。
まず辻井氏であるが、TV朝日が11年追跡録画したものである。敬意を表せ
ざるを得ない。2009年6月のヴァン・クライバ-ン国際ピアノ・コンク-ル
で辻井氏が優勝したときNHKがその内容などを放映したのである程度は知って
いた。ヴァン・クライバ-ン氏は「伝説のピアニスト」といわれているそうであ
る。最終選考ではオ-ケストラをバックに演奏しなければならない。したがって
いろんな経験が重要なようである。辻井氏が天才と思われる映像があった。辻井
氏が2才3ケ月のとき、おもちゃのピアノで「おもちゃのチャチャチャ」を突然
弾いた。母親がいつも歌っていたのを聞いて覚えたようである。また、母親らが
ピアノの弾き方を教えたわけではないという。それも両手で演奏している。右手
でメロディ、左手で和音をかなでている。これは普通の幼児ではできないことで
ある。それも辻井氏は先天的な盲目の身である。感動的な一瞬である。それが辻
井氏とピアノの出会いだった。野僧はクラシック音楽にはうとい方であるが、そ
れだけに興味津々たるものがある。辻井氏が今日あるのは、両親をはじめ、幾多
の音楽家の協力と助力の賜物であろう。何よりも東京音大講師の川上昌裕氏の指
導が光る。楽譜を見れない辻井氏に、自分で演奏したテ-プを聞かせ、右手と左
手を別々に教え、そのあとで両手で弾かせる練習を徹底した。その教え方が良か
ったようである。12年間、川上氏は指導している。辻井氏は8才のとき、モス
クワでトロイカを演奏したことがある。その音を聞いて感動したモスクワ音楽院
のカステルスキ-教授は、来日したとき辻井氏に個人指導している。帰り際に、
「辻井氏の音と心が美しい。世界最高のピアニストになるだろう」と言い残して
いる。まさに今日の辻井氏を見通しているかのような発言である。同教授は作曲
家の三枝成障氏に辻井氏のたぐいまれな資質を話した。三枝氏は辻井氏の演奏を
聴いて感嘆、その後、サントリ-ホ-ルなどでリサイタルを開催して経験を深め
させた。また、ベルリン・ドイツ交響楽団の指揮者、佐渡裕氏はオ-ケストラと
共演させている。「音楽の神様が本当に彼を守っているようだ。楽譜は二次元の
世界。作曲者はもっと複雑な感情の世界。彼は直でその世界につながっているよ
うだ」とも云っている。また指揮者の広上淳一氏は「彼の宇宙というか第四次元
というか、私たちにはなかなか感じ取ることのできない宇宙と交信しながら弾い
ている」と絶賛している。ヴァン・クライバ-ン氏は「彼にはあっと云わせるテ
クニックがある」、「彼は奇跡のピアニストだ」と云っている。辻井氏は、すば
らしい聴力があるという。メロディは勿論のこと、複雑な和音でも一度聞けばわ
かるという。また記憶力も抜群で、CDを一度聞けばすべて暗記するという。さ
らに川上氏は「彼は壁にぶち当たることはないだろう」と云う。難解な練習や曲
でも、すべてクリアしてきているからだという。ピアニストの河合優子氏は、「
頭脳の楽譜、響きという音像、たくまい機能をとらえ、脳の中でそれと同等の方
法を確立している。精密さ、脳の正確さはたぐいまれな才能だと思う。それは地
道な練習によるものだろう。その完成度と表現力は苦労を苦労と思わない、頭に
入れる作業を心から喜びをもって日々やっているからだろう」と絶賛している。
今後の活躍と進化が楽しみである。
次にイチロ-氏であるが、200本安打を10年連続記録した。前人未踏の快
挙である。それ以外にもいろんな記録を書き換えておりまさに天才である。殿堂
入りは確実である。しかし、野球もこれでよし、ということはないだろう。イチ
ロ-は45才ぐらいまでブレ-できるだろう。まだ37才だからあと8年はある。
フアンの一人として期待していることがある。4割を打ったら引退してほしい、
と思っている。惜しまれて引退すること以上の快感はないはずである。素人判断
であるが、2ストライクの後は三振しければ4割打てるのではなかろうか。三振
しない特殊技術はイチロ-ならマスタ-できるはずだ、と思っている。たしかに
まっすぐのボ-ルでも、手元でアップしたり、落ちたり、横や斜めにカ-ブする
ことがあるだろう。それを見極めるのは困難なことだと思う。しかし、それに挑
戦してみるのも快感の一つではなかろうか。未知への挑戦である。自己との戦い
でもある。
ところで同じ天才でもイチロ-選手と辻井氏でははっきりした違いがある。チ
-ムの一員と、個人という存在そのものの違いである。辻井氏はマイペ-スです
む。極端な云い方をすれば一人で楽しみながら進化できる。それに対しイチロ-
選手は集団の中の一人であるから不必要と思われるような気遣いがある。イチロ
-選手は余りにも気を使いすぎる傾向にある。そんなことで労力を費やす必要は
まったくない。「柳に風」の心境で対処すればいい。他人がどう思おうが、悩ん
だり、自己嫌悪におちいる必要はない。他人に迷惑をかけたり、法律に違反しな
ければ、それでいいのである。同僚をはじめ、他人の悪口さえ云わなければいい。
それを仏教では「即身成仏」という。たとえスランプにおちて、ヤジられても気
にすることはない。もっと太っ腹な気構えでいるべきだと考える。
イチロ-選手も、辻井伸行氏も頑張ってもらいたい。今後の活躍が楽しみであ
る。