
かつては「ノーグッツアン」と呼んでいた御所市蛇穴(さらぎ)の野口行事。
「ノーグッツアン」とは不思議な呼称であるが、橿原市地黄町で行われる行事は「ノグッツアン」だ。
夜が明けない時間帯に野神の塚に参って帰り道で「ノーガミさん、おーくった。ジージもバーバも早よ起きよ」と囃しながら帰路につく子どもたちの行事である。
桜井市の箸中で行われている野神行事は「ノグチサン」と呼ばれている。
同市の小綱町で行われている行事も「ノグチサン」である。
なぜに「ノグチサン」と呼ぶのか判らないが、藁で作ったジャ(蛇)やムカデを野神さんに奉る。
ジャは水の神さんだと云う蛇穴の蛇綱。
雨が降って川へと流れる。
貯えた池の水を田に張って田植えができる。
農耕にとって大切な水の恵みである。
奈良県内ではこうした蛇を奉る野神行事を「大和の野神行事」として無形民俗文化財に指定されている。
この日に訪れたのは理由がある。
治療に通っている送迎の患者さんは85歳のS婦人。
大和郡山市の額田部町にお住まいだ。
Sさんが嫁入りするまでは生活をしていた蛇穴の村。
生誕地であった母家の生家は野口神社のすぐ近く。
60年以上も前のトヤ(頭屋)家はマツリの前日に家でモチを搗いていた。
隣近所の村の手伝いさんが支援していた。
懐かしいが遠い地の蛇穴。
かつての母屋は自治会館に譲られて野口行事の食べ物を料理する場になったものの「もっぺん行ってみたいが・・・」とつぶやいていた。
Sさんが子供のころは毎日のように神社を清掃していたと話すのはトヤを務めたときのことであろう。
嫁入り前に2回、嫁入り後も2回のトヤ受けをしたという実家はN家。
料理に使うタケノコはたくさん積んだ荷車で運んでいた。
ドロイモもあったように思うが遠い時代の記憶。
モチゴメはどっさり収穫してモチを搗いた。
トヤ家の竃は大忙しだったと話す。
そのSさんの実弟は今でも健在で蛇頭(じゃがしら)を作っているという。
年老いたが生家のN家を継いで今でも作っている。
「会いたいが、私は行くことが難しい」と話すSさんの声に背中を押されてやってきた5月4日の蛇頭作り。
早朝から集まった「蛇穴青壮会」の人たち。
既に作業は始まっており、蛇の胴体になる心棒の綱を編んでいた。
「ホネ」と呼ぶ長い綱(市販のロープ)は三本ある。

神社拝殿内では注連縄なども拠る。
「ミミ」にあたる部分はそれよりも太く三つ編みだ。
そんな作業を見守る二人の長老。
一人がSさんの実弟のNさん。
もう一人はSさんの同級生になるUさん。
弟さんは顔がそっくりなので一目で判った。
お姉さんからの伝言を話せば嬉しそうに応えた二人の表情。
焼けた顔に笑みが零れる。
蛇穴の集落は150軒ほど。
かつては蛇穴村をはじめとして池之内村、室村、条村、富田村の五カ村からなる葛上郡秋津村であった。
若い人たちが村を離れて老夫婦が多くなったと村人は話す。
「ミミ」をも含めた蛇頭の材料はモチワラ。
12株で一束。
それを20束でひと括り。
さらに、それを20組も用意するというから相当な量(12株×20束×20組)である。
モチワラは農家で作ってもらう。
収穫したワラは蛇作りに使って実のモチゴメは頭屋が奉納する紅白の御供モチにする。
その量は1斗。
前日の3日にモチ搗きをしていた。
沢山のモチワラを束ねた蛇頭は三つ編みした「ミミ」と「ホネ」と呼ばれる胴体の骨格になる三本のロープを内部に入れ込んで作る。
「ミミ」はU字型におり込んで組みこむ。
蛇頭は太く、丸くするから大量のモチワラを使う。
ひとワラで縛って「ミミ」部分は輪っかのような形で、両袖に広がった。
崩れないようにさらに強く縛る。

蛇頭本体の形が崩れないように何重にもロープで括る。
槌で叩いて締める。
「ミミ」から上部に括り終えれば、その次は下部もしっかりと締め括るという具合だ。
一方、蛇頭の眼になる竹を細工する。
ほどよい太さの竹の節下数cm部分をノコギリで切る。

およそ半分ぐらいで止めて先が尖がるように切り落とす。
先端辺り2か所に小さな穴を開けた。
節部分は黒く塗って中は赤くする。

それが蛇の眼になる。
昔からそうしていると残しておいた見本もそうであった。
蛇の眼を含めて重要な蛇頭を調えるのが前述した二人の長老である。
取り出して手にしたのが刺身包丁。

ざっくり、ざくざくと切り落とす蛇の面。
そぎ落とすこと数回。
断面をざっくりとそぎ落とす。
僅かな角度をつけて凹面になるよう切っていく。
刃をあてて慎重にそぎ落とす。
蛇のツラ(面)は奇麗なツラいち。

その面に赤色で印をする眼と口の位置。
口の部分はざっくり切り込む。
おおかたが口のように見える一直線の大きな切り込みで蛇顔が判る。
先ほど作った眼はどうするのか。
番線針金を掛けた2か所の穴。
番線はほどよい堅さ。
それを胴体側に通す。
通した番線を引っぱれば竹の眼が内部に入っていく。
ぐいぐい押しこんで眼が蛇頭に引き込まれる。
槌で打ちこんでツライチになった。

もう一方の眼も入れ込んだ。
眼ができあがれば口を調える。

赤い舌ベロは堅い紙片。
外れないように一本の針金を通して取り付ける。
蛇頭生命体の誕生である。
(H25. 5. 4 EOS40D撮影)
「ノーグッツアン」とは不思議な呼称であるが、橿原市地黄町で行われる行事は「ノグッツアン」だ。
夜が明けない時間帯に野神の塚に参って帰り道で「ノーガミさん、おーくった。ジージもバーバも早よ起きよ」と囃しながら帰路につく子どもたちの行事である。
桜井市の箸中で行われている野神行事は「ノグチサン」と呼ばれている。
同市の小綱町で行われている行事も「ノグチサン」である。
なぜに「ノグチサン」と呼ぶのか判らないが、藁で作ったジャ(蛇)やムカデを野神さんに奉る。
ジャは水の神さんだと云う蛇穴の蛇綱。
雨が降って川へと流れる。
貯えた池の水を田に張って田植えができる。
農耕にとって大切な水の恵みである。
奈良県内ではこうした蛇を奉る野神行事を「大和の野神行事」として無形民俗文化財に指定されている。
この日に訪れたのは理由がある。
治療に通っている送迎の患者さんは85歳のS婦人。
大和郡山市の額田部町にお住まいだ。
Sさんが嫁入りするまでは生活をしていた蛇穴の村。
生誕地であった母家の生家は野口神社のすぐ近く。
60年以上も前のトヤ(頭屋)家はマツリの前日に家でモチを搗いていた。
隣近所の村の手伝いさんが支援していた。
懐かしいが遠い地の蛇穴。
かつての母屋は自治会館に譲られて野口行事の食べ物を料理する場になったものの「もっぺん行ってみたいが・・・」とつぶやいていた。
Sさんが子供のころは毎日のように神社を清掃していたと話すのはトヤを務めたときのことであろう。
嫁入り前に2回、嫁入り後も2回のトヤ受けをしたという実家はN家。
料理に使うタケノコはたくさん積んだ荷車で運んでいた。
ドロイモもあったように思うが遠い時代の記憶。
モチゴメはどっさり収穫してモチを搗いた。
トヤ家の竃は大忙しだったと話す。
そのSさんの実弟は今でも健在で蛇頭(じゃがしら)を作っているという。
年老いたが生家のN家を継いで今でも作っている。
「会いたいが、私は行くことが難しい」と話すSさんの声に背中を押されてやってきた5月4日の蛇頭作り。
早朝から集まった「蛇穴青壮会」の人たち。
既に作業は始まっており、蛇の胴体になる心棒の綱を編んでいた。
「ホネ」と呼ぶ長い綱(市販のロープ)は三本ある。

神社拝殿内では注連縄なども拠る。
「ミミ」にあたる部分はそれよりも太く三つ編みだ。
そんな作業を見守る二人の長老。
一人がSさんの実弟のNさん。
もう一人はSさんの同級生になるUさん。
弟さんは顔がそっくりなので一目で判った。
お姉さんからの伝言を話せば嬉しそうに応えた二人の表情。
焼けた顔に笑みが零れる。
蛇穴の集落は150軒ほど。
かつては蛇穴村をはじめとして池之内村、室村、条村、富田村の五カ村からなる葛上郡秋津村であった。
若い人たちが村を離れて老夫婦が多くなったと村人は話す。
「ミミ」をも含めた蛇頭の材料はモチワラ。
12株で一束。
それを20束でひと括り。
さらに、それを20組も用意するというから相当な量(12株×20束×20組)である。
モチワラは農家で作ってもらう。
収穫したワラは蛇作りに使って実のモチゴメは頭屋が奉納する紅白の御供モチにする。
その量は1斗。
前日の3日にモチ搗きをしていた。
沢山のモチワラを束ねた蛇頭は三つ編みした「ミミ」と「ホネ」と呼ばれる胴体の骨格になる三本のロープを内部に入れ込んで作る。
「ミミ」はU字型におり込んで組みこむ。
蛇頭は太く、丸くするから大量のモチワラを使う。
ひとワラで縛って「ミミ」部分は輪っかのような形で、両袖に広がった。
崩れないようにさらに強く縛る。

蛇頭本体の形が崩れないように何重にもロープで括る。
槌で叩いて締める。
「ミミ」から上部に括り終えれば、その次は下部もしっかりと締め括るという具合だ。
一方、蛇頭の眼になる竹を細工する。
ほどよい太さの竹の節下数cm部分をノコギリで切る。

およそ半分ぐらいで止めて先が尖がるように切り落とす。
先端辺り2か所に小さな穴を開けた。
節部分は黒く塗って中は赤くする。

それが蛇の眼になる。
昔からそうしていると残しておいた見本もそうであった。
蛇の眼を含めて重要な蛇頭を調えるのが前述した二人の長老である。
取り出して手にしたのが刺身包丁。

ざっくり、ざくざくと切り落とす蛇の面。
そぎ落とすこと数回。
断面をざっくりとそぎ落とす。
僅かな角度をつけて凹面になるよう切っていく。
刃をあてて慎重にそぎ落とす。
蛇のツラ(面)は奇麗なツラいち。

その面に赤色で印をする眼と口の位置。
口の部分はざっくり切り込む。
おおかたが口のように見える一直線の大きな切り込みで蛇顔が判る。
先ほど作った眼はどうするのか。
番線針金を掛けた2か所の穴。
番線はほどよい堅さ。
それを胴体側に通す。
通した番線を引っぱれば竹の眼が内部に入っていく。
ぐいぐい押しこんで眼が蛇頭に引き込まれる。
槌で打ちこんでツライチになった。

もう一方の眼も入れ込んだ。
眼ができあがれば口を調える。

赤い舌ベロは堅い紙片。
外れないように一本の針金を通して取り付ける。
蛇頭生命体の誕生である。
(H25. 5. 4 EOS40D撮影)