決めごとに埋まった日常、コード進行
ミッション指定、存在指定、感情指定
積み上げたそれぞれの武装のかたち
自己記述、他者記述、関係記述、世界記述
からだ深く埋め込まれた記述コード群
(一体どこへ向かっているのか)
とまどい、ためらい、むかつき、あせり、いらだち
渦巻く水面に静かに投げ入れられる無音のシグナル
アイコンタクト
射し込む光のやわらかなもてなし
日常のスコアに書き込まれる転調のコード
武装解除へ
忘れられた気圏へ帰還を促がすように
告げられるやさしい停戦命令
からみあったコードをほどくように
現象する転調、変換、移行、転移
一番やわらかな場所へ
戦場が知らない生の気圏、インターミッション
魂が息つぎする空域へ導かれる
「ありがとう」
──H.S.サリヴァン『現代精神医学の概念』中井久夫・山口隆訳
はるかな過去における未解決・未解消の対人的な場が、
現在の対人的な場に偏向を与え、
現在の場における行動を裏表のあるものにしていることを、
患者が、具体例でもって、芯からはっきりと納得してはじめて、
人格の実質的再構成が可能になる。
この時が来るまでは、治療の場においてほんとうにめざましいことは起こらない。
しかし、ひとたびこの時点を過ぎれば、精神科医とのかかわり合いの場は、
それまでは思いも寄らなかったことであるが、
建設的な方向への衝動の発現を妨げる制約のない、自由な場となる。
これは〈自己組織〉に起こった変化の間接的効果である。
患者は、ついに、複雑な安全追求の過程を使うよりも、それを捨ててしまう方が、
もっと大きな安全の得られることを会得したのである。この知識それ自身が、
安全をさらに確かなものにし、かりに別の不安誘発的な場に直面しても、
場の中のどの因子が脅威と感じられるのかを見抜く力をさずけてくれる。
自己の対人関係の自覚と精神の健康は平行関係にある。
これは、いつでも患者に話している一般的言明である。
……これは、患者の意気を沮喪させている不幸な事態の展開や
好ましくない変化を解釈するための基本的事実の一つである。
これは、治療であるかぎりどのようなものでも、
帰するところはこれにならなければならない、
唯一の、なくてはならない公式である。
Patrick Fiori - Chez nous (Plan d'Aou, Air Bel) (Clip officiel) - YouTube
Soprano - À nos héros du quotidien (Clip officiel) - YouTube
警戒と不安が覆うとき
怖れ、怒りが思考を奪うとき
配慮へ向かうスペースが消えていく
悲しみが覆うとき
世界ははかなく、懐かしく
憧れのように色づいていく
「ありがとう」
季節が入れ替わるように
たった一つの言葉に
心は柔らかく変化していく
光と影が混ざりあって合流する地点
すべては対象の曲率に従うように
情動のスペクトルは分光され
世界の姿をそのつど変幻させていく
*
こどもが最終的に何を一番の価値として生きる道を選択するのか
おとなの入口に立ってどう生き方の方角を定めるのか
こどもの選択と決断、その実践と展開の総計としての国の現在形がある
かつてこどもであった者たちの選択判断の表現型としての関係世界
広義の〝教育〟の結実が現在の社会の姿に歴然として示されている
*
一言だけ申し上げるとすれば恩義しかない
そのことを前提にして──
殴り合って鼻血を流してもビクともしない
そんな大袈裟な関係ではなかった、あたりまえです
細い糸で結ばれたつながり、軽やかでほんわかな連帯の感じ
現実との交わりをささえるつながりの「ひげ根」(中井久夫)
そうした関係の場所が大切なものであることはうたがえない
そんなつながりのまま突入する居酒屋コース
この路線で享受したものに乗って書いたことはたしかです
でもね、いったん引き受けた以上
チーム正義の一員としてではありません
別の次元に身を置くことを意味するのですね
面と面を突き合わせてとことん議論する
深く掘り下げて批評を交換する関係ではないことを承知の上で
でもね、ひとつも手を抜いたつもりはないのですよ
けっこう時間は費やした、いくらか礼は尽くしたとも勝手に思う
考えるべきテーマは少しも終わっていない
残された課題、見出した課題もある
ピリオド打って、バイバイするテーマではない
つながりを断つことを条件として、そうしてはじめて
本当に考えるべきことが鮮明になったとも言える
敬意をもって思考をめぐらすための適切なディスタンス
キープすることでほんとうに思考と思考が出会うへだたり
そうしてはじめて思考を混ぜあわせ生まれるものを手にしていく
作業スペースを保持したそれぞれ独立して生きる者同士として
本物のエールを交換できる関係の位相
互いにそんな場所に立つことができたらと今も思っている
オープンダイアローグがもたらした重要な示唆の一つに、
「個人の権利や尊厳に配慮した倫理的な姿勢は、それ自体が治療的である」
ということがありますが、中井はそれを数十年前から実践していました。
(精神科医・斎藤環)
*
なすべし、あるべし、そうなしてはならぬ、そうあってはならぬ──
外部から訪れる倫理、当為のコマンドがアクセスできない生命の領域がある
命令や義務があらかじめ指定するルートには限界がある
経験に先行して展開ルートが強制されるときバックラッシュが起こる
生命は本質的に指図されることを望まない
どんなに美しい理想、理念、ロマン、正義、正論であっても
どんなに親しい存在の指令であってもそれは変わらない
生命は外から訪れる強権的な命令、制御には断固はむかう
おのれの了解、納得を刻まない強制力に承認を与えることはない
主権的主語の作動を脅かすものに対する絶対的否認
(たとえ従属であっても主権的主体の選択決断が先行している)
「われ欲す」
この根源的な内的作動に敬意、配慮が届くときはじめて
生命はみずからに備わる柔軟性を行使するように
外部の声を新たな展開の糧として利用しはじめる
「現前の周縁に揺曳するもの」
──中井久夫『徴候・記憶・外傷』
ことばに全権をゆだねることはできない
ことばの包囲をほどいてはじめて感じられる
ことばは照らさない、ことばを照らしている
ことばを走らせる交感ルートがある
ことばに先行して動いている
心は火を灯され、ことばに手を伸ばす
ことばが果たせること果たせないこと
伝えきれないもの伝えそびれたもの
走りすぎ通りすぎ行きすぎるもの
ことばを走らせながら修正を求める光源があって
いつも雨の日のように情動に濡れている
[LIVE] Temporary / w-inds. from YouTube Space Tokyo) - YouTube
一緒に暮らすおじおば、おばば、十人、全員に愛されている
そして全員を愛している幼いこどもがいる
仲良く、そしていがみあう大家族、兄弟姉妹たち
一人の言い分を聞いて同意すれば
もう一人の言い分と齟齬、矛盾が生まれる
だれかを敵にすることになるかもしれない
葛藤ということばは知らなくても
強いられた状況はことば以前に幼い心に解けない難問を投げる
ひとりひとり、善き心、だれにも見せないやさしさを示す
その対象として、こどもがひとりそこにいる
人生のはじまり、過酷なレッスン
しあわせなレッスン、多くのgiftがそこにあった
TRIBUTE HAKAZ FOR JONAH LOMU - YouTube
Jonah Lomu Tribute | Written In The Stars - YouTube
Jonah Lomu - The Ultimate Rugby Player - YouTube
そうして生きる
それでも生きる
だから生きていく
ゲーム?それがどうした
どいつもこいつもないすべてだ
No Side、上等
そうして生きていく
知覚経験は原理的に「われ知覚す」Je perçois ではありえず、
「わたしのうちでだれかが知覚する」On perçois en moi と言わざるをえない。
ポンティによれば、知覚経験のこの匿名な主体とは「自己の身体」にほかならない。
この身体こそ世界への我々の投錨であり、世界内存在の媒質であり、
世界へ向かう絶えざる運動の移行点なのである。
我々はこの身体によって、いわば世界に「住みつく」のだ。
──木田元『現象学』129、岩波新書
*
第一次情報が自分を主張してうごめく身体は世界像が開示される場所として機能している
世界像には知覚や情感や概念やイメージ群が織り込まれセルフがその結節を形成している
世界像には同時に他者イメージが憑依しており恣意性が及ばない外部の入口を作っている
他者イメージはセルフにとって誘引や拒否や距離や可能性を孕む多義性において出現する
セルフの形成は他者イメージによって規定されると共に自己展開の手掛かりが与えられる
セルフにとって他者イメージは相互に存在を規定する相克的関係において力動を生み出す
他者イメージはセルフの欲望の強度や特性によって選択的に焦点化されて力動の核を作る
両者の関係はつねに更新と確定の間でゆらぎながら相互に生産的でも損壊的でもありうる
相互規定のバランスが壊れて一方の規定力が優位性をもつとき関係は主従的なものになる
関係は即自的でありながら事後的に対象化されるという遷移的なスパイラルを描いていく
人間的生の気圏には動物生にはない「自由」と呼ばれる未記述の空域が常に同伴している
この空域に関係記述が生成的に積み上がる人間的生の幻想的展開域があり関係世界がある
動物生の欲望を基底に沈めながら関係的に創発する幻想域に人間固有の花と毒が生成する
花も毒もすべて関係的生成物であることの了解が固定された世界像を柔らかく開いていく
最初におさえておくべきことは、
いわゆる〝外界〟におけるいかなる物体も出来事も差異も、
それらに応じて変化するだけの柔軟性をそなえた
ネットワークの中に取り込まれさえすれば、
情報の源(ソース)になりうる、ということだ。
──G・ベイトソン『精神と自然』(佐藤良明、2022年訳)
*
そのつど経験を情報化する変換規則
身についたコーディングの仕方があって
それが個性や人格と呼ばれている
コードされた情報は毒にも薬にもなりうる
滅ぼすためにも生かすためにも使われる
(固有のコード進行としての日常)
ほんとうはよく知らないもの同士でありながら
小さなインターフェイスを介して全部わかる
理解のポッケはスキマまなく記述命題で充填される
……かのように
*
向かいあって交わり
愛し合い憎み合い殺し合う
滑稽だ、けれど
現実がそれで動いていく
バカすぎる、けれど
生き死にが決していく
愚かすぎる、けれど
手のほどこしようがなく
無残すぎる、だから
なんとかする方法を考えようか
俺たちは自らに備わる〝柔軟性〟を使い切っていない
もう少しましな経験の変換規則、コーディングの仕方と用法
つまり、経験を資源化して相互に交換しあって生きる方法がある
SOUL SACRIFICE - SANTANA - YouTube
あなたは何者か、おのれは何者かという問いは消える
存在の確定、関係の確定へむかう視線はすべて消える
視線は相手に向かわず自己にも向かわず
どこでもない未踏のエリアへフォーカスしている
、
あなたのものでもぼくのものでもない誰のものでもない
新しい音と響きが生まれる第三の位相に身を置く
そうしてはじめて動き出す
はじまりの合意だけを基底に沈め
すべてのプレーはこの位相に関連づけられ
混ざりあって生成する音と響きのきらめき
非知のエロスへの予期に捧げられていく
したためる最初の一文字
かたちを決めることを拒むものがいる
ことばが照らすことができない
ことばを照らし返しているものがいて
すこしでも距離を埋めようとすると
すみやかに遠ざかっていく
なにか誘うシグナルが動いている
なのに向かう唇を拒むものがいる
走りやすく
行きすぎやすく
語りすぎるものへ
呼ぶ声が響いている、けれど
わずかな接近さえ禁じる声が混じっている
接続のラインが確定へ向かうと
透明な裏切りへと転移していく
触れることで壊れていく
壊さないで触れることはできない
かたちを決めることを許さない心がいて
それを裏切るようにことばに手を伸ばす
許せ、これで行ってみる、そう考えるもう一つの心がいて
そうしてことばをしたためたあと、どこかでかならず
ことばに修正を求めるシグナルが点滅している
みずからも加担し、みずからも招きながら
どんなにそうでなければよかったかと思うことの先
結審された事実、自明化した状況の先に別の何かを用意する
一つの結審を転移して新たな展開の糧とし始発点とする
そうするにはとんでもない力業と狂気が求められる
それが何かは自明ではない
探して見つかるものでもない
解がどこにもなくとも取り出すべき課題
クリアすべき課題は疑いようもなく存在する
課題をキープする以外のルートはない
方法はただ一つ
みずからを世界の渦巻きの場所とする
そのことを生きることの第一のこととして
そうやって試行の道を生き抜いた心のかたち
到底まねはできなくても知っておいたほうがいい連中はいる
Chopin: Nocturne No. 10 in Ab Maj, Op. 32, No. 2 - Ingrid Fliter - YouTube
希望を語ることが虚偽に転移する境界があって
どんな歌謡が奏でられても唱和を拒む心がいる
呼びとめられることばを払うように
かなしみを噛み殺しながら
けっして埋葬のことばを許さないものがいる
*
語りうる水準で語りあうのではない
わかりあえる水準でわかりあうのではない
わかりあえないことがかなしいのではない
わかることが消していく生の圏域がある
かろうじてそう感じられるとき
非知のカケラが俺たちを照らす
わかりあえないことのわかりえなさ
語りえないことの語りえなさ
知りえないことの知りえなさ
知の外側ではかなく息をしているものの感知
そうして生きあうかぎりにおいて保たれる
出会うことの少ない関係のテーブルがある