──F・バートン・エヴァンス3世『ハリー・スタック・サリヴァン入門』筒井・細澤訳
「人格とは対人状況で顕在化するものであって、それ以外ではありえない」(Sullivan)
サリヴァンは「他者を過不足なく尊敬するには自己尊敬が必要である」(‥)とも考えていた。
逆に、不十分な自己感をもつ個人は、他者の思考、感情、動機づけを歪めてしまい、不正確に述べがちである。
固定観念化とおとしめることを用いて見出された他者の不十分な表象は低い自尊心の中核的表出である。
これらのパターンを克服すること、すなわち、不安にとらわれずに不安と
それが自己尊敬に及ぼす影響に取り組むことは、青春期後期にいる青年が大人に発達するうえで肝心要となる。
サリヴァンの考えでは、幸運な情況が介在していない場合、例外的な介入を除けば、
個人を成熟した発達経路に復帰させることができるのは精神療法のみである。
(訳者「解題」)
サリヴァンの臨床では安全保障の感覚が非常に重視される。
安全や安心を体験できる場がなければ、人間が自由に内外を探索することはできない。
対人関係の専門家の援助を求めている時点で、そのクライエントはある種の傷つきを抱え、
孤独のうちに佇んでいる。その傷は対人関係で受けたものである。
その傷を癒すには、対人関係がまた必要とされる。
その応用範囲は医療分野に限らず、人間が生きていく社会全般に当てはめることができる。
サリヴァンが晩年に国際緊張の緩和に関心を寄せたのはけっして偶然ではない。
国家規模から隣人のトラブルまで、サリヴァンの眼差しは「対人関係の学」を貫いている。
そしてこの理念は、精神分析に親しんでいる者であろうと
縁遠いものであろうと、等しく有益に作用することであろう。