いよいよ我が農園にも畑のシーズンが到来した。農園は市街地郊外の平坦地に位置するため強い風が通り抜ける。風は幼苗や定植直後の苗には害となる。
隣地の畑作人Yに快く了解して貰って防風ネットを南側に張った。
1本590円の鉄パイプを20本使い、その他ネットや付属材料費を計算すると軽く1万円以上掛かっている。年金生活者が趣味の範囲で畑作を楽しんでいると思っているイワン・アサノヴィッチのカミサンは幸いにもI・T音痴でる。
西側隣地の畑作人O氏は19年来の付き合いで、営農のウデはもはやプロ級である。O氏は『良い作物を作りたかったら、カネと身体と頭を使わないとダメ』とつねづね言っている。
実際のところイワン・アサノヴィッチも、よりよい作物を作りたい、カミサンに自慢できる作物を作りたい、隣近所の畑作人を唸らせるような作物を作りたいと思っている。良く言えば向上心だが半ば欲や見栄みたいなものが混じっているのも事実である。
これから夏に向かって南風が強くなる、台風や暴風雨も吹き荒れる季節となる。ともあれ良い野菜を作るためには防風ネットは必要不可欠の施設である。
防風ネットを張り終わって一服していると、隣人のY氏がやって来た。『こうやって防風ネットで区画がハッキリすると落ち着きますね。』と言う。
…彼も卒サラ人間。一生を半ば”社畜”の如く会社に囲い込まれ、ローンで購入した建て売り住宅は垣根やブロック塀で隣同士にバリアを設けることによって”安心”させられてきた人生なのだ。
緑と開放的な土地が拡がる畑に来てまでバリアがないと安心できないようである。悲しきかな”防風ネット”。
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