間もなく5歳になる志穂と弟の悠人も一緒です。
両親ともにサラリーマンの共働き家庭ですから、いきおい生活環境には“自然”的なものは少なく、そのてん実家の我が家には猫のハナが同居していたり、ジイジが近くの農園で趣味の畑作をやっていたりするので自然は割と身近に存在します。
イワン・アサノヴィッチは孫娘の志穂と畑へと連れ立ちました。
ちょうど「一本太ネギ」が収穫の時期になっていました。ネギはご承知のとおり下半分の白い部分は地中に埋まっています。だいたい30cmから40cmが埋まっている訳です。掘り採りは結構と大変な作業なのです。
イワン・アサノヴィッチでも半分の20cmぐらいまでは手植えスコップで土を除いてから、そして静かに両手を当てて垂直方向に引き抜きます。それでも注意をしないとネギを握り過ぎて強めになると、いちばん外側の皮だけを剥ぎ取る結果になってしまいます。先ず、ネギ1本の引き抜きを実演で志穂に見せながら説明します。
2本目は志穂がやりたいと言うのでやらせましたが、案の定ネギの握り方が強すぎて一番外側の皮が剥けてしまいました。勿論、十分に食べられる部分です。
従って土の掘り下げを増やして残りの部分が僅か5㎝ぐらいのところまでにしてやらせてみました。イワン・アサノヴィッチも垂直方向になるようにそっと手を当てて志穂の手を誘導しました。
やっと抜けたものの、収穫した二番目のネギはやはり外側の皮が少しねじまがり、且つ垂直が保てなかったのでしょうかネギ本体に折れ目が生じていました。
『ああ、やっぱり志穂ちゃんには未だネギの収穫はムリだね・・』 と、イワン・アサノヴィッチは独り言ともつかぬ言葉を発していました。
イワン・アサノヴィッチにとっては、他愛のない独り言みたいなものだったのですが・・聞きとがめた志穂にとっては、そうではなかったみたいでした。
志穂は敢然と・・・そうです「仁王立ち」になってイワン・アサノヴィッチを睨みつけながら、『ムリだね、なんて言わないで! 志穂ちゃんは少しはお手伝いしたんだから、アリガトウって言って!』 と一喝が飛んで来たのです。
『へへ~っ、志穂様お説ご尤もでございますー。』 イワン・アサノヴィッチは平身低頭、二の句も在りませんでした。