たにしのアブク 風綴り

86歳・たにしの爺。独り徘徊と追慕の日々は永い。

イラクの現実 映画 「バビロンの陽光」を観てきました 

2011-07-10 07:57:19 | 劇場映画

暑い日が続いています。
気分は最低、身体はヘロヘロ。頭はデロデロ。
こんなときは気分転換に集中する時間が頓服剤になる。上京のついでに銀座に回った。
お気に入りの映画館が山野楽器店の裏側にある「シネスイッチ銀座」
フセイン後のイラクの映画として話題になっている、
イラク人監督・アルダラジーによる「バビロンの陽光」を上映している。

スクリーンは、
黄土色の荒涼とした岩のかけらが続く砂漠地帯。
尽かれたように、人が歩いてくる。
だんだん大きくなる。黒衣に身を包んでいるから女性だ。しかも老いている。
そして、元気な少年が現れる。長い縦笛を持っている。愛くるしい大きな目が印象的だ。

2003年にフセイン政権が崩壊して、3週間後のイラク北部クルド人地区、
ナシリヤ刑務所に父がいるという手がかりに、
12年前に徴用された息子を探す、年老いた母親と12歳の孫のふたり。

クルド語しか話せない祖母が息子を探す思いの深さ。
片言のアラビア語で祖母を助ける孫とのロードムービー。
祖母にはほとんど長いセリフはないし通じない。
叫ぶように言う孫の名前、アーメッドと、
クルド人虐殺を強要されたと告白した元兵士を
「人殺し」とののしる叫びだけ。



ヒッチハイクで破壊とガレキのバグダットへ。
いつ出るか来るか分からないバスを乗り継ぎ、
刑務所、収容所、病院、モスクを訪ねて巡る。
行く先ごとに息子の、そして父の形跡は薄れていく。

絶望的な状況を乗り越えて、過酷な旅の果てはバビロン。
砂漠の中に巨大な共同墓地。ブルドーザーで掘り起こす。
その度に、何十人もの黒衣で身を包んだ女性たちが棺に取りすがる。
祖母は遺体の前に座り込み「息子よ」と何度も愛撫を繰り返す。
孫は「おばあちゃん、おばあちゃん」と何度も呼びかけるが……。



「兵士」になりたいと言って祖母にしかられ、
やがて父のように音楽家になりたいと、
古都バビロンの空中庭園に憧れた少年の見たものは。

イラク出身のモハメド・アルダラジー監督。
故郷の現状を世界に発信したいと、全編をイラクでの現場撮影。
アムネスティ国際映画賞・平和映画賞を受賞。
慟哭ののラスト・シーンで訴えたものは……

アルダラジー監督、国土の荒廃を映したのではない。
ヒッチハイクで乗せたトラックの運転手。
タバコ売りの少年。虐殺に従事した元兵士。
それを最後に許した祖母。
国土はガレキでも、人の心まではガレキにっていなかった。