たにしのアブク 風綴り

86歳・たにしの爺。独り徘徊と追慕の日々は永い。

桜木紫乃著「起終点駅 ターミナル」「氷平線」を読む

2013-07-20 09:38:50 | 本・読書
桜木紫乃さん、晴れて直木賞を受賞
 当ブログで昨年(12年7月18日)に投稿した北海道の女流作家・桜木紫乃さんがこのたび、念願の直木賞を受賞しました。
 以下、毎日新聞のニュース(2013年07月17日 18時54分)を追加して再投稿します。
   *   *   *
 第149回芥川・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が17日、東京・築地の新喜楽で開かれ、芥川賞に藤野可織さん(33)の「爪と目」(新潮4月号)、直木賞に桜木紫乃さん(48)の「ホテルローヤル」(集英社)が選ばれた。
(中略)
 桜木さんは北海道に生まれ育つ。02年「雪虫」でオール読物新人賞を受賞した。同作を収録した「氷平線(ひょうへいせん)」で07年にデビュー。一貫して北海道を舞台に小説を執筆。候補2度目で受賞に至った。
 受賞作は、北国のラブホテルを舞台にした7編からなる連作短編集。恋人にヌード撮影を頼まれた女性店員、働かない10歳下の夫がいる清掃係など、疲弊した地方の町でつましい毎日を送る人間の切実さを丁寧に描いた。
 
 桜木さんは会見で「デビューして本が出るまで5年、ちょっとしんどかった。私にしか書けない一行があると信じて書いた特別な作品。書くことをやめなくてよかった。自分に起こってきたことには無駄がなかったと思えた」と話した。【内藤麻里子、棚部秀行】
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 今春から注目していた桜木紫乃さんの「起終点駅 ターミナル」と「氷平線」を読んだ。
桜木さんは「ラブレス」で第146回直木賞候補となり、最終選考の2人にまで残った実力派女流作家。
4月に発刊された最新刊「起終点駅 ターミナル」(小学館・1500円)は書店の店頭では平積みで置かれている。
北海道を舞台にした陰影のある作品世界に惹かれ、処女作品集の「氷平線」(単行本2007年11月、文庫版2012年4月・文藝春秋刊)も読んでみた。

「起終点駅 ターミナル」は,
北海道の中でも地方の、主として港、海、牧場を舞台に、どうにもならない運命に腹をくくって、
暗い川床を流れていくような生き様を清冽に綴った6編の短編集からなっている。
全編の底流は「男の弱さ」を描き、「女の強さ」が浮き彫りになっているように思える。

巻頭の「かたちのないもの」は、
銀座の有名店の主人公・真理子が、心身ともに鍛えてくれた元恋人の納骨式に出るために函館を訪れる話。
真理子は、恋人との別れと死を辿ることでさらに上を目指す。

2編目「海鳥の行方」は、
駆け出し女性記者の里和がデスクのいじめにもめげず、特ダネ狙いで動き回る。
ある日、港で不発弾が発見されたということで取材を命じられる。
埠頭で釣りをする中年男と知り合いになる。その男が言う。
「オンタ(雄)駄目だな。あきらめるのが早くて闘い甲斐がねねよ」
「オンタは最初は威勢がいいんだ。とにかく暴れるしアタリも強い。だけど水面に近づくとがくんと闘志がなえるんだな。
あっさりあきらめる瞬間が分かる。タモに入れる頃にはもうもう死んだみたいになって動かねぃよ」
逆にメンタ(雌)は引っ張れば引っ張るほど暴れるのだという。
その反抗ぶりは陸に上がっても変わらず、最後の最後まで抵抗すると石崎が言った。
その石崎が海に落ちて死んだという。記者は男の過去を辿って捜しだしたものは‥‥

この新人女性記者は編集局のいびりにもめげず、「ぶっ壊され」そうになりながらも、
納得できるまで記事に挑戦していく。
女性記者には、大学時代に付き合って親も公認の札幌の裁判所勤務の恋人がいたが、
「ぶっ壊され」て、ノイローゼになって自宅に戻っている。
最近の社会現象ともいえる、オンタの弱さ、メンタのしぶとさが対比される。

各編を通じて、過酷な運命への開き直りの女性と、
いつまでも挫折を引きずり抜け出せない男たち、この構図が底流となって描かれる。

表題作の「起終点駅」は、
釧路市で、主として国選弁護人の鷲田寛治は、覚醒剤使用の罪で起訴された椎名敦子の国選弁護を担当する。
判決後、敦子が訪ねてきたことで、凍結していた過去と向き合うことになる。

その他、努力の結果、念願かなって一流銀行に勤めることになった主人公、結局は母の牛飼いを手伝いに戻ってくる「スクラップ・ロード」。
再び札幌に転勤した女性新聞記者里和の登場する「たたかいにやぶれて咲けよ」は、ある新人作家をめぐるややこしい話。
6編目の「湖風の家」は、
弟が関わったとされる殺人事件から逃れ、故郷をすてた主人公・千鶴子が、
30年ぶりに帰郷した際、かつて特飲街にいた幼馴染と再会し怖かった故郷が、
貧しいながらも女同士親身な友情につつまれる。

筆者はあるメディアのインタビューに「頑張るでもなく、耐えるでもなく、静かに“腹をくくった”人たちを描いてきたように思います。個と個が一緒にいると新たな始まりをもたらす。」と話している。

なお、「氷平線」の所収作品は以下の5編「雪虫」「霧繭」「夏の稜線」「海に帰る」「水の棺」「氷平線」
 
日本文学振興会は17日、「第147回芥川賞・直木賞(平成24年度上半期)」の芥川龍之介賞に鹿島田真希氏の『冥土めぐり』、
直木三十五賞に辻村深月氏の『鍵のない夢を見る』を選出したと発表した。
桜木紫乃さんの「起終点駅 ターミナル」今回は直木賞候補作にノミネート(5日に発表)されていなかったから当然、
選考されるはずもなかったが、北海道の片隅の町で、孤独の中で、過去を封印して生きる人生は静かだ。
昨今の饒舌で騒々しい作品とは違うので、直木賞向きではないのかな。