たにしのアブク 風綴り

86歳・たにしの爺。独り徘徊と追慕の日々は永い。

妖怪・モノノケがぞろぞろ――小学館文庫 モノノケ大合戦

2021-12-22 09:55:21 | 本・読書
令和3年12月22日 今日は二十四節気「冬至」です。
一年で一番、夜明けが晩く、入日が早い。昼が短い。
今年の後半から「妖怪変化」本に憑りつかれました。

まず村上元三の「変化もの三部作」でした。
公民館の図書室から借り出した時代小説シリーズ。
リブリオ出版「ポピュラー時代小説全15巻」のうち、
第5巻「村上元三集」に収められている三作品です。

大型活字でまとめて読めて面白かった。
いずれもブログにレビューをアップしました。
①河童将軍(2021-10-19)②天狗田楽(2021-10-30 )③貉と奥平久兵衛(2021-11-10 )

「モノノケ・妖怪」に嵌って次に手にしたのは下に表出の本です。



妖怪文藝 巻之1 小学館文庫、東雅夫編「 モノノケ大合戦」
図書室にはなく、他市の図書館から取り寄せていただいた。
係りの職員様、お手数をおかけしました。



「妖怪、物の怪」物語を集めた選集です。
前半は編者の東雅夫と京極夏彦との対談、
「書物の海から妖怪世界へ」
柳田國男の世界、水木しげる「ゲゲゲの鬼太郎」など中心に、
文豪の作品から現代作家までで「蘊蓄」が語られています。

特集は「モノノケ大合戦」の5作品。
 南條範夫「月は沈みぬ」(ブログでレビュー2021-12-17)
 村上元三「河童将軍」(前出)

 藤原審爾「妖恋魔譚」
山間の僻村に住み着いた流れ者母娘、実は女郎蜘蛛の妖怪だった。
甲斐甲斐しく母に仕える娘に惚れた村長の子息。
求婚し愛し合う、全身が蕩ける絶頂エクスタシー。



母娘の妖しさに気付いた村の修行者。
正体を現した毒蜘蛛母娘と村を挙げてのバトル。
蜘蛛妖怪の娘と純情青年の愛の行方は?

 石川淳「狐の生肝」
春はまぢかといっても、冷えきった夜の底に、星くずの影さえ掠めず、ただ闇、くろぐろと涯なく、もののけはいは絶えて、あたりに人家ありともおぼえないのに、ふっと、ひとのかたちの、二つ三つ五つとつづいて、見るまに十いくつ、そこの草むらに…いや、かたちほの白く浮き出たところが草むらと知れた。



王子稲荷の境内で王子の狐たちの寄り合いが始まった。
伏見稲荷や穴守、笠森の狐らも招かれた。
テーマは江戸市中で流行っている疱瘡の治療薬に、
丹波篠山藩の藩医・柚木桃庵の秘薬として、
狐の生肝を差し出せというお達しに対する対策作戦でした。
桃庵対王子狐の棟梁十郎狐との対決(討論)が火花を散らす。
バトルは意外な結末に導かれて終幕へと……

さすが石川淳、名文の一級文学作品だった。
江戸の狐たちの狐知と人間知の競い合い。
人間になりたかった狐のカップルの末裔は?
意外なファイナルストリー、幕末の著名人が登場します。



 稲垣足穂「荒譚」
タルホ作品のエッセンス。

そして、「文藝妖怪名鑑」です。
古今の妖怪見本市ともいうような、
ダイジェストが知識になりました。



入澤康夫「牛を殺すこと」
土屋北彦「川姫」
龍膽寺旻「小豆洗い」
谷崎潤一郎「覚海上人天狗になる事」
水木しげる「ぬらりひょん」



小田仁二郎「からかさ神」
別役実「すなかけばば」
石川鴻斎「轆轤首」(小倉斉訳)
今江祥智「雪女」
野上豊一郎編「猩猩」
京極夏彦「豆腐小僧」
 妖怪というと、怖いとか恐怖感が語られますが、
とても人間臭い存在ででした。
それというのも要は「妖怪」とは、
人間の深層心理に潜む妬みや恨み、憧れが、
「変化」した姿として日常の隙間に現れた、
影絵のようなものではないでしょうか、
という感じです。

 最後まで拙い妖怪譚をつき合わせまして、
お疲れさんでした。