goroの徒然なるままに・・・

日々の記録と言うか自分の日記や備忘録として書き連ねるつもり。

ピンクのバンダナ特別編

2006年09月30日 | novels
第一章 One month before ・・・ 1ヶ月前

東京を出発するときにリセットしたトリップメーターは既に50Kmを回ろうとしていた。
適度な緊張感と適度なスピードが、気持ちの良いクルージングを満喫させてくれる。

2ストローク2気筒の空冷エンジンは春先の少し高めの気温でも気持ちよく高回転をキープして走ることが出来る。

4ストロークマルチエンジンに比べると、ジェントルとは言えないかもしれないが、絶妙なボアストローク設計のお陰か、心地よいビートを感じる良いエンジンだ。

僕はこのオートバイとつきあって既に20年以上が経過している。
25,000km強を示しているオドメーターの割には元気の良い加速をしてくれる良くできたエンジンだ。
友人たちはほとんどが大排気量車に乗り換えてしまったが、僕はいまだに中間排気量車の軽快さと2ストロークエンジンのフィーリングが気に入って乗り続けている。

  「2ストロークエンジンだってきちんとセッティングをしてやれば綺麗に燃え、白煙を撒き散らすことはないよ」

大排気量車に移行していった友人達に、よくこう言ったものだ

事実、独自の理論に基づいて手を加えたマフラーと、完璧なセッティングを行った車両はみんな元気に走り、白煙を撒き散らすことはなかった。

そろそろ潮の香りがしてくるはずだ。
天気も良いし、ツーリングには最適の天候だ。
緩やかな坂道を下っていくと目前に海岸が見えてきた。
この先の交差点を左折するとしばらくは海岸を右側に見ながら走ることになる。

僕は点滅する左ウインカーを見つめて、昔のことを思い出していた。

  「ここにくるのは1年ぶりだろうか?」・・・と僕はヘルメットの中でつぶやいた

交差点を左折して曲がりくねった狭い道を20分くらい走ったろうか、海岸線に目的のハーバーの白い壁が見えてきた
目的のハーバーに到着し僕は駐車場に愛車を乗り入れた。

  「行きつけ・・・と言うには随分とご無沙汰している」

でも、お気に入りであることには違いないハーバーの喫茶店、窓際のカウンター、左から3番目が僕の指定席だ。

1年以上は来ていなかったが、なじみの若いウエイターは僕に気がついて軽く会釈して近づいてきた
相変わらず、きれいに日焼けしている。

  「ご無沙汰しています」
  「今日はお一人なのですね」と短い挨拶をし、注文を聞いていった

そう、本当に久しぶりのこの店も、いつもは友人と2台で来ていた。
その友人はもういない・・・正確にはこの世にいないのだ。

2年前の10月に病気でこの世を去った
40歳 二人の子供とカミサンを残して・・・

ほどなくして注文した温かいカプチーノがカウンターに置かれた。
今日は気温も高くアイスでも良い感じだが、春先にオートバイで長距離を走ったあとには、温かい飲み物がうれしいものだ。

係留してあるクルーザーやディンギーを目前に見ながら、僕は友人のことを思い出していた。
性格はあまり似ているとは言えなかったが、オートバイと言う共通の趣味で中学時代からの友人だった。

彼と僕は長年勤めていた会社をほぼ同時期に退職し、いっしょにオートバイショップを開店した。
いくら親友と言ってもいっしょに経営をしていると、お互いにぶつかることも多かったが本当に楽しい時期だった。

趣味が講じてはじめた店は、だいたいがうまく経営が進むものではないと、開店の際に周囲の知人から忠告を受けたものだ。
確かに経営は辛かったが確固たる信念を持っていたのが認められて2年目くらいから順調に仕事が入るようになってきた。

やっと波に乗った時期に友人の死を迎え、僕自身すべてがいやになり再開時期の決まっていない長期休業に突入した。
年齢的にも定職についたほうが良いに決まっている・・・が、僕は定職につくとしたら友人と一緒にはじめたこのオートバイショップの再開以外には考えられなかった。

むかし海外経験が豊富だったことともあり、休業のあいだの約5年間、パートタイムとして知り合いの会社で輸入業務を手伝っていた。
海外とのコミュニケーションと技術面のサポートを中心に行っていたが、やはりオートバイの世界に戻ることを決意したのが半年前だった。

いぜんオートバイショップを開店するにあたってこの店に来ては新しい商品のことに関していろいろと話していたものだ。

ここにくると間違いなく昔を思い出して悲しくなることはわかっていたが現実を抜け出し、オートバイの世界に戻るための一区切りとしてここにくることを決意した・・・一人で

僕自身、海が好きだ。
友人は山のほうが良いと言っていた。

 「人間(生き物)は海から来たものだから海に戻ることが正論だよ」

などと友人と話し合っていたものだ。

自分でクルーザーを所有したいと思ったこともあったが、実現性のない夢だった。
愛用したディンギーも知人に譲ってしまい、すでに海の男ではなくなってしまったが、僕にとってこのハーバーは気分の良いところだ。

レジでウエイターに、またしばらく来られないことを告げて店をあとにした僕は同じハーバー内にある売店に向かった
ここも久しぶりだ。
品の良いオリジナルデザインのグッズが並んでいて落ち着ける店内をゆっくりと歩いていると懐かしいバンダナが目に入ってきた。

 「そう言えばディンギーを購入したとき、このバンダナを買ったなあ」

僕はピンク色のバンダナを手にしてレジに向かった。
会計を済ませると、入り口近くのテレフォンブースに入り、記憶している彼女の電話番号を押した。

コール音が3回鳴って彼女が電話口に出た。
1ヶ月ぶりに聞く彼女の声は相変わらず綺麗に澄んでいる。
僕は彼女にロス行きのことを告げた。

 「来月には日本を発ってロスに行くことになったんだ」

 「夢が実現するのね」
 「3年くらい前から話していたものね」

 「そうなんだ」
 「僕の技術を生かして見ないかと誘ってくれた会社があったんだよ」
 「ロサンジェルス郊外にある会社なんだ」
 「3年間の契約だが新しい製品を立ち上げることになったんだよ」

 「話を聞いたときから、いつかこのような時期がくると思っていたわ」
 「でも、私ももう少し今の仕事を続けてみたいの」
 「やっと認められてきたんだもの」

 「そうだな」
 「出発の日が決まったらまた連絡するよ」

 「ロス・・・Lossね」

彼女は僕が輸入業務を手伝っていたとき、同じ職場で働いていた。
僕が最初に会社を辞めて自分の店を持ち、彼女は半年後に自分のデザインオフィスを持った。
お互いに励ましあいながら仕事を続け順調に仕事は進んでいる。

第二章へ・ ・ ・
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