読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

アジアンタムブルー 大崎善生 角川文庫

2006-08-23 21:55:38 | 読んだ
パイロットフィッシュに続く第2弾である。

裏表紙には
「主人公・山崎が巡りあった心優しき人々と、南仏ニースでの葉子との最後の日々。(中略)慟哭の恋愛小説。」
とある。

慟哭の恋愛小説なのである。

流石に慟哭はしなかったが、涙はでた。

パイロットフィッシュもそうだったのであるが、この小説の舞台、小道具、あるいは登場人物の職業など、私にとってはまあ絶対に出会うことのないものである。
特に小道具として使われているもの、音楽であったり熱帯魚であったり植物であったり、或いは飲んでいたり食べていたりするものは、まったく興味のないものである。

そして、やたらと哲学的な主人公とその他登場人物。
どうしてこんなに現実離れしていて生活していけるの?
と思ったりするのである。
それは「村上春樹的世界」のような気もする。

とまあ、私にとってはあまり好きではない世界・現実離れした世界のお話なのである。
それなのに「感激・感動をありがとう」みたいになっているのは不思議。

いちゃもんをつけようと思えばいくらでもあるのだ。
たとえば
SEXをしている最中に、そんな哲学的なおしゃべりをするか!
とか、
或いは、全体的に主人公に都合よく物語が展開しているんじゃないか!
とか
うじうじしている割には、女の人とうまく話すことができるね!
とか・・・

でもそんないちゃもんを振り払うほど、人生、とはなんだろうか?という問いかけが伝わってくるのである。
それは、主人公がちゃらんぽらんでいい加減で世間的にはピシッと生きていない、ふうにして、実はまっすぐ生きようしていること、にあるのではないか、と思うのである。

こういう恋愛を経験してこなかった「私」にとっては、うらやましい世界でもある。

それから蛇足ではあるが題名の「アジアンタムブルー」とはアジアンタムという植物が、どんなに手を尽くしても枯れていくさま、というか期間をいうのだそうだ。
そして、この物語もアジアンタムブルーの期間が最も感動的なのである。

この夏、大崎善生、2冊。よかった。
コメント
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