尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「マイナ保険証」、廃止までの10年の闘いへ

2023年06月02日 22時47分19秒 | 政治
 ついに「保険証廃止」、「マイナ保険証に統一」という「マイナンバー法改正」が成立してしまった。最近になって、「マイナ保険証」の不具合、あるいは「マイナカード」の不備がいくつも報じられた。テレビニュースで中央省庁に問い合わせすると、関係部署をたらい回しされていた。黒澤明監督の映画『生きる』が最近イギリスでリメイクされたが、やはり今でも意味のあるテーマだったとよく判った。それでも政府、与党は全く立ち止まって再考しなかったのである。

 この問題は今までも何回も書いてきて、同じような論点になるが改めて書いておかなければと思う。頭の中を整理して論じたいのだが、「マイナンバー」「マイナンバーカード」「マイナ保険証」は皆別のものである。時々「外国で働いたことがあるので、マイナンバーカードに違和感は持たない」などと言う人がいる。自分で調べて欲しいが、世界のどれだけの国にマイナンバーカードがあるのか。「マイナンバー」というか、「個人識別番号」はもちろん外国にある。日本にだって昔から存在した。学校では学籍番号、自動車免許を取れば免許証番号、その他資格を取ればそれぞれ独自の番号がある。

 税金や年金、健康保険など公的な制度では、今までは別個のシステムでやってたから、別々の番号が付いていた。それを統一しようというのは、別に反対していない。というか昔から賛成である。「国民総背番号制」という人もあるが、公的制度との関わりは秘密にする性格のものじゃない。地元図書館の貸し出しカードとかTOHOシネマズの会員カードなんかまで統一するわけじゃない。もしそうなったら、どんな本を読んでるか、どんな映画を見てるかが政府に把握出来てしまうので、あってはならない。

 「マイナンバー」はあってもいいが(というか、政府がもうずいぶん前に付けてしまったわけだが)、では「マイナンバーカード」を全国民に持たせるという意味が僕には判らない。しかし、それはまあ、今は良しとする。しかし、「マイナンバーカード」と「マイナ保険証」は別のものである。従来の保険証を廃止して「マイナ保険証」にするということは良くない、あってはならないと思っているのである。何故なら、「国民皆保険制度」の大幅な改悪だからである。「マイナンバーカード」は自ら申請するものである。マイナカードがない人には「資格確認書」を発行するというが、それも申請が必要だという。
(保険証からマイナ保険証へ)
 日本では今まで、一部の人しか関わらないもの、例えば児童手当とか生活保護などは「申請主義」だったけれど、全員に関係するものは行政から通知するやり方だった。例えば、選挙に行きたいときに「入場整理券を送って下さい」なんて申請しない。子どもを学校に行かせるときも、「学校に通わせたい」という申請なんかしない。(住民票があることが前提だが。)同じく、健康保険証も保険料を納付している人には全員、保険組合から自動的に送ってきたわけである。

 それを「申請主義」に変えてしまえば、必ず漏れが出て来る。実際マイナカードを申請し、役所に取りに行くというのは、かなりのエネルギーを要する。資格確認書を申請するというのも、ちゃんと内容を理解し、近くの郵便ポストまで行ける知力体力が必要である。(まあ郵送だと思う。)それぐらい簡単だろうという人がこういう仕組みを考えたのだろう。マイナ保険証もスマホやパソコンがないとダメである。(役所や福祉施設で使えるようにして貰うためには、パスワードなどを教えないといけない。)スマホもパソコンもない役所から来た郵便の内容が把握できないポストまで行く体力もないという人はどうすればいいのか。

 僕はこの問題はもっと大問題になり、統一地方選の大争点になると思っていた。しかし、それほどの盛り上がりを見せなかった。多分、政治家や官僚、マスコミ関係者だけでなく、ネットユーザー、市民運動家なんかも、大体は「元気」なのである。高齢者、障害者、要介護の人、重い病気がある人などが身近にいれば、これは大変だと思うはずだ。さらに「家族がいる人」は何とかなるかもしれないけど、一人ぐらしの高齢者は大変だ。新聞は取らず、テレビも(電気代高騰で)ほとんど見ない、もちろんパソコンもスマホもないという人はたくさんいるだろう。そういう人は「保険証廃止」というニュースさえ知らないだろう。

 やってみれば、カードを無くす人がたくさん出てくる。病院でも読み取れない不具合が多発する。使いこなせない高齢の医者も出て来る。薬をたくさん飲んでいる人は、「お薬手帳」を持参するより簡単だと評価する人もいる。しかし、薬をたくさん服用している人ほど、カードを申請に行くのが難しい。メリットもあると言ってる人は、実はほとんど病院に行かない元気な人だろう。僕もマイナ保険証にメリットが全くないとは言わない。しかし、それは医療情報がICで集積されるからであり、運転免許証がそうなったように保険証もICチップを入れたカード形式にすれば良いだけである。

 だけど、実際にはそれは無理だ。運転免許証はその性格上、自ら更新に行く必要があり、その時に手数料が掛かる。保険証の発行は数千円も掛かっては困る。そうなると、混乱が続き、いずれは自民党の支持組織である医師会からも反発が強まり、「紙の保険証」の方が楽だったとなるのには、10年間の闘いが必要だろう。教員免許更新制という愚策をなくすのに、約10年掛かった。現実に教員不足というマイナスが大きくなって、初めて廃止された。同じことが起きると僕は予測している。

 それまで混乱を最小限にするためには、「資格確認書」をマイナンバーカードを持ってる人も含めて、保険制度の全加盟者に(申請なしに)送付するということが必要だと思う。マイナ保険証を使いたい人は使えばよく、一方マイナ保険証を持ってるけど(少し医療費が高くなっても)資格確認書を使った方が安心だという人はそれでも良いとする。マイナカードを持ってない人は、申請をしなくても資格確認書を送ってくるから、それを使えば良い。マイナ保険証との医療費の差という問題が残るが、取りあえずそういう対応を強く求めて行く必要がある。
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